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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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観光、夜の部

日が落ち始めると、女将の酒場にみんなが戻ってきた。


「それじゃ、お酒も解禁ということで⋯⋯カンパーイ!」

「「乾杯!」」


みんなの手にはエールとシードルが入った木製のコップが握られ、

乾杯を合図に夜の部が始まった。


「昼よりも豪勢だな」

「見たことがない料理ばかりです」


いくつも並ぶ料理に目移りしたかと思うと、

バンズとギータは、「全部食えばいいか」と悩むのをやめて、

取り皿によそい出した。


「みんな何していたの?」

「俺たちは、パン屋と酒を売っている店を周ったぜ」


バンズが口の中に料理を入れたまま話して、

ギータとユルが頷いている。


結構、この3人仲がいいのね。

まぁ、パン屋とシードルの作業場が近いから会う機会も多かったのかな。


「ジーノたちは?」

「わしと小僧は石壁を見たり、ここの大工に会いに行っていたわ」

「なんか面白い発見でもあった?」


ギルが、シードルで食事を流し込んでから、


「石壁はただすごいとしか思えなかったのですが、

大工の方と話をしている中で、土地が少ないから2階とか3階建てが主流って言ってました」

「うちは屋敷以外、全部1階建てしかないから、

土地ごとの特色があって面白いわね」

「それと、お嬢様の工法を話したら興味を持たれていました」

「えっ!?言っちゃったの?」

「ダメでしたでしょうか⋯⋯」

「言っちゃったなら、仕方がないわ」


ギルのやってしまったという顔を見ると、

これ以上責めるのも可哀想に思えたし、口止めをしなかった私が悪い。


出来るかはわからないけど、あの工法が確立できたら、

近隣に安くて早い家作りとして売り込むことを考えていたから、

本当は、口外して欲しくなかったな。


これは完全に反省だ。


「ガリルは何してたの?」

「俺は領主様と、市場で売ってる作物などを見て回っていたぜ」

「なにかわかりましたか?」


お父様の方を向き、話を振ってみる。


「時期だからか、塩やライ麦など冬に向けた物がよく売れていたな」

「じゃ、うちも今の内に今年のライ麦を売れば高いんじゃないんですか?」


私の問いに、お父様は首を振った。


「夏に取れたライ麦はすぐに売ったから、もうないんだ」

「⋯⋯そうですか」


そうだよね。8月に穫れたものを残しておける程の余裕なんてなかったわ。


「じゃ、来年は時期を見て売るようにしましょう」

「そう、だな」


私の言葉にお父様は微笑んでくれた。


「マリーは?」

「私は、前から気になっていた服屋に行ってきました」


年頃の女の子らしい。


「なにも、買わなかったの?」

「⋯⋯手に取ったんですけど、みんなに悪いなと思ってやめました」

「なんで?」

「他の子たちはアタンに来れないですし、

ましてや、新しい服なんて買えないのに私だけ買うのは気が引けて⋯⋯」


私は両手で顔を覆い、宙を仰いだ。


「欲しい服はいくらしたの?」

「あっ、1500イェンくらいだったと思います」


財布代わりの小袋から5000イェンを取り出し、


「これで今すぐ何着か買ってきなさい!」

「いえ、買うなら自分で買えます」

「ダメよ!配送と売り込みをしてもらっているから、

これからはそれなりに着飾って頂戴」


私に促され、マリーは服屋に走っていった。


これが、ヴェルデンの次の段階に進む上で避けて通れない課題だ。


みんなと同じ。みんな我慢している。


聞こえは良いが、それは自分を抑えているだけ。


前までは、欲は破滅を招く行為だったけど、

これから、欲がないと前に進めない。


これは、自由市場での買い物や、

みんなの自由時間の過ごし方でも垣間見えている。


まぁ、バンズたちは別としてね。


「マァムは⋯⋯なにか女将さんから盗めた?」

「いっぱいありました。大量の仕込みの仕方は大変勉強になりました」

「じゃ、明日からの食堂に期待だね」

「ぜひ期待して下さい!」


ゆったりと楽しい時間は流れた。


服屋から戻ってきたマリーは、

満面の笑みと服を抱えて戻ってきた。


この時間のまま終わればいいのに⋯⋯。

心のなかで愚痴りながら、アリーシアの顔がちらつく。


「食事も食べ終わったし、そろそろ出ましょうか」

「そうだな。長居しても店に迷惑だな」


みんな顔は赤く、出来上がっている様子だ。


「あんまり気は進まないんだけど⋯⋯2軒目に行きましょうか」

「まだあるんですか!?」


男性陣は元気を取り戻し、マリーとマァムはダウン状態。


「夜の店に行くから、マリーとマァムは嫌なら宿屋で寝ててもいいわよ」

「「そうします」」


本当なら、私だって行きたくないわよ。


「リズ、なんでそんなところに行くんだ?」


小さな声で、お父様が怒ったように問いただしてきた。


「昼の後に、アリーシアさんに会って誘われてしまったんです。

女ボスの誘いを断れますか?」


アリーシアの名前を出すだけで、

お父様も渋々理解してくれた。


酒場を出て、マリーとマァムを宿屋に送り届け、

気乗りしない、夜の店を目指す。



境界線らしいものはなかったけど、

明らかに、客層も店の出で立ちも一気に変わった。


「アシュも宿屋で休んでていいのに」

「いいえ、リズ様が行くなら私も行きます」


酒場では、席にすら着こうとしなかったので、

「アシュが食べないなら、私も食べない」という最終手段を使って、

無理やり座らせることに成功した。


「あぁ⋯⋯あれね」


アリーシアが言っていた、フリーダムという店はすぐに見つけられた。


一際大きく、入口には数人の女性と用心棒のような男が立っていた。


彼に話しかけようと近づくと、


「女が来る店じゃない」


男の方から入店拒否を言い渡されたが、


「アリーシアさんから誘われているの、リズで通じない?」


これを言っただけで、男はペコペコと何度も頭を下げて、

中に案内してくれた。



中に入ると、むせ返るほど香水と葉巻の匂いが充満し、

際どい格好の女性が、それぞれの席で客と足を絡めたり、

耳元で何かをささやきあっていた。


そんな光景に面を喰らっていると、


「リズ様ですね。アリーシア様が奥でお待ちです」


執事のような整った服装と立ち振る舞いの男が、

バンズたちは別の席に案内し、

私とお父様とアシュだけが奥の個室へと通された。


「意外と遅かったわね」


個室には、アリーシアと2人の女性が待ち構えていた。


「ここに向かう足取りが重くて⋯⋯」

「そう、それでも来たのは偉いわ」


皮肉さえ、全く効かないのね。


「立ってないで座りなさい」


アリーシアの言葉で、2人の女性が隣に座るように手招きをしてくる。


「お二人は必要ですか?」

「嫌なら、男を呼んであげてもいいわよね」

「結構です」


完全にアリーシアのペースでやり難い。

というか、なんで私たちを呼んだの?


「気まぐれで呼んだわけではないんですよね?」

「どうかしら」

「要件がないなら、顔は出したので帰りますよ」


私の強固な態度に呆れた顔をして、

アリーシアは葉巻に火を付けた。


「領主様もどうぞ、最高級品ですわ」


お父様に葉巻を手渡すと、隣に座る女性が手慣れた手付きで、

ロウソクから木片に火を移し、葉巻に火を点けた。


一口目でお父様の眉が跳ねる。


「結構来ますわよね」

「かなり強いな」


お父様に葉巻を吸わせたのは帰らせないため?


アリーシアの行動を勘ぐっていると、


「ヴェルデンで店を出すって言ったら、リズはどう思う?」

「店とは⋯⋯この店のような?」


私の問いに、葉巻の煙で返してくる。


「需要があるならいいんじゃないですか」

「春を切り売りする仕事を否定しないの?」

「なぜ?」


私の返答に、初めてアリーシアの顔が変わった。


「下世話な職業だと罵る輩がいるじゃない」

「それは蔑みたいだけの無能が言うことですので、

私なら聞き流します」


アリーシアは明らかに微笑んだ。


「下世話だと言うなら、ここまで大きい店や店の数は生まれません。

売りたいと思う人と、買いたいと思う人がいるなら、

私は立派な職業であり、商売だと思います」


臆すること無く、アリーシアの目を真っ直ぐに見つめて言い切った。


「はっははは⋯⋯!」


顔を上げて大笑いするアリーシアに、女性2人が困惑している。


「言い切ったのは、あんたが初めてだよ」

「大工の家を建てる技術を売り物にするのは良くて、

女の美や若さを使った、男を喜ばす技術を売り物にしたらダメな道理はありません」


グラスに入った酒を一気に飲み干し、


「そこまで言ってくれたら、惚れちゃうじゃないの」

「からかわないで下さい」


私とアリーシアとのやり合いに、みんな追いつけないでいる。


いつの間にか、お父様の葉巻の火が消えている。


「ヴェルデンに店を出すっていうのは冗談よ⋯⋯今はね」

「発展すれば可能性はあると?」

「ここくらい発展したら考えてあげるわ」

「じゃ、言った意味はなんですか?」

「値踏みさ」


睨むように視線と言葉で私を突き刺してきた。


「成り行きであんたを担いだけど、担ぐ価値があるか、

あんたが私たちの職業をどう思っているのか、それが知りたかっただけよ」

「期待には答えられましたか?」


これまでの惑わすような声を隠し、

喉元にナイフの切先を向ける声で言ってきた。


「私の仕事を卑下していたら潰していたわ!」


アリーシアの威嚇に、全身に鳥肌が立った。


「だから⋯⋯とりあえず合格にしておいてあげる」


どうにか、最低限の期待には答えられたみたいで、

胸を撫で下ろし、深呼吸をした。


アリーシアはいつもの顔に戻っていたが、

普通の人なら、あの睨みだけで泡吹いて気絶してるわよ!


まだ引かない鳥肌に、アリーシアは怒らせたらダメだと刻まれた。


「私の値踏みも済んだみたいですし、この空気どうにかしてくれます?」

「そうね」


アリーシアがテーブルに置かれたベルを鳴らすと、

バンズたちが個室に招かれたが、

彼らの顔中に口紅が付いているのを見て、


「あんたたちね⋯⋯」


こっちは、喰われかけて踏ん張っていたのに、

随分と楽しい時間を過ごしていたことに怒りがこみ上げてきて、


「明日は歩いて帰りなさい!」


八つ当たりして、個室から追い出した。



最後までお読みいただきありがとうございます。

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