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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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観光は楽しまないと

日が昇り始めると、屋敷の前にぞろぞろと会議に集まった面々がやってきた。


「はい!アタン観光に行く人は並んでね」


私は木の棒に紙を切って作った旗を振って案内をする。


元の世界で、バスガイドさんがよく振っているあれだ。


まぁわかる人は居ないと思うけど、雰囲気を出すための一種の演出である。


「おやっさん、アタンの建物ってどんな感じなんですかね」

「昔行ったが、大して変わらんぞ」


各々、アタンへの期待に胸を膨らませ、

会話が弾んでいるようだ。


当初の目的は、次の豊かさを知ってもらうためだったけど、

刺激を与えるのと、労いもあるのかなと考えている。


「それじゃ、荷馬車に乗ってね」


2台の荷馬車で、シードルと一緒に彼らを運ぶ。


「俺たちゃ荷物みたいだな」


バンズの痛いツッコミに、


「バンズは歩きたいみたいね」

「勘弁してくれよ」


負けじと皮肉で返してあげる。


出来ることなら、ちゃんとした馬車を用意してあげたかったけど、

まぁ、仕方がない。


アシュとマリーが荷馬車の操縦を任せる。


会議には配送で出れなかったマリーも、

今回の観光に参加してもらう。


「みんな忘れ物はない?それじゃ、アタンに出発!」


私の号令で、荷馬車が進みはじめた。


ちなみにちゃんと、お父様もシードルの樽の横に座っている。



荷馬車に揺られ30分ほどで、アタンの石壁が見え始めてきた。


「あれがアタンよ!」


私が指さすと、みんなそっちに視線を向け、


「あれを人の手で作ったんですか?」


一番最初に反応したのは、やはりギルだ。


「領主様の屋敷よりも高いぜ!」


石壁に興奮する男性陣と打って変わって、


「でも、街をあんなもので囲われていると、

ちょっと息苦しそうですね」


女性陣の感想はリアルだ。


「今は王国法で、領地間での争いを禁止しているけど、

数十年前は、あれがないと領地を守れなかったのよ」

「わしもガリルもヴェルデンに来る前の領地で一度派兵されたが、

あんなもん、二度とやりたくないわ」


ジーノの意外な経験に胸が締め付けられ、


「そのときの領地は?」

「負けて飲み込まれ、逃げるように新しい領地を作るって言うんで、

ヴェルデンに来たんじゃ」

「⋯⋯そっか」


触れなければよかったと、聞いてから後悔した。

私のせいで、折角の盛り上がりを台無しにしてしまった。


そんな空気を察してか、


「おやっさんがヴェルデンに来てくれて、俺は嬉しかったです」

「俺は?」


ガリルの鋭い指摘に、


「と、当然ガリルさんもですよ」


慌てて付け加えるギルに、重い空気を吹き飛ばすように、

みんな笑った。


ギルの言葉に、ジーノが顔を逸らしたが、

耳が赤いのは隠せていなかった。



検問に20分程掛かって、やっとアタンの中に入るやいなや、


「なんじゃこりゃ!」


やっぱり男性陣の反応は素直で見ていて気持ちがいい。


「人ってこんなに居たんですね」

「検問に並んでいた奴らだけで、ヴェルデンより多かったんじゃねぇか」


バンズとギータは、人の多さに圧倒され。


「領主様の屋敷と同じ壁をこんなに家に?」


ギルは、目に入る建物すべてに目移りしている。


「ほらほら、入口の前で立ち止まっちゃ邪魔になるわよ」


上京したての大学生や新入社員のような反応に、

私もあんな時期があったなと、十年以上前を思い出す。


「マリーの配送が終わるまでは、自由市場を見ていましょう」



自由市場は今日も賑わっていた。


みんなにお小遣いとして2000イェンを渡して、

好きなものを買いなさいと送り出した。


嬉々としてみんな自由市場を物色しに行ったが、


自由市場の入口に、私とアシュに、ユルが残っていた。


「ここを見るのは辛い?」


自由市場の奥は、貧民街に繋がっている。

そこ出身のユルには、この光景がどう見えているのか尋ねる。


「ちょっと前まで、ここを利用するなんて考えられませんでした。

盗むか、出店で捨てられたものを漁って生きていましたから」


ユルの目は、貧民街への入口を見つめている。


「でも、ジャンがリズ様に出会い、僕たちを誘ってくれたお陰で、

本当に、生きるって楽しいってことを知りました」


続けるように、ユルが私に向かって頭を下げてきた。


「別に感謝されることはしてないわ。

あなた達はちゃんと働いてくれている、それに対価を渡しているだけよ」

「それでも、リズ様に会わなければ今でも僕たちはあそこで、

ただ一日を過ごすだけの抜け殻だったと思います」


誠実なユルの思いに、私は頭に手を置いて軽く叩いた。


「なら、今やることは感謝を言うことじゃなくて、

今を楽しむことよ。こんなところにいないで好きなものを買ってきなさい」

「はい!」


上げた顔には、とびっきりの笑顔で私を見て、

ユルは自由市場へと走っていった。


「じゃ、私たちも見に行きましょう」


アシュと一緒に、私たちも自由市場に繰り出した。



自由市場を見ながら、みんなが何を見てるのか観察すると、

本当に面白く思えてきた。


ジーノとギルは、道具屋の前でノコギリやら金槌を物色していて、

マァムは、薬味と香辛料を売っている店に釘付けになっている。


ガリルは、何かの種を売っている店主と盛り上がっていた。


バンズとギータとユルに至っては、両手に飲み物と食べ物を抱えて練り歩いている。


お父様は⋯⋯見なかったことにしよう。


そんな彼らを見ながら、出店に並んでいる商品を見ていると、

とある物が目に入った。


「手に取ってみてもいいかしら?」


店主に了解を得て、水色の石をトップにしたペンダントを手に取る。


「トパーズかしら?」

「トパーズを知っているなんて、お嬢ちゃんは物知りだね」


加工はしっかりされていないけど、鮮やかな色に目を奪われる。


「これいくら?」

「3万イェンでいいよ」


自由市場で3万!?


価格に後ずさりしかけたが、これは奮発してもいい!


「これ頂くわ」

「ありがとうね」


3万イェンを渡し、ペンダントを受け取る。


「リズ様に似合う、綺麗なペンダントですね」


アシュの言葉に、


「無理を言っても着いてきてくれるあなたが大切なのよ、

ちょっとぎこちない時もあったけど、それでもこうやって後ろに居てくれる」


アシュへの想いを紡ぎながら、

受け取ったばかりのペンダントをアシュの首に付ける。


「ご褒美として渡すわけじゃなくて、

私がアシュに買ってあげたいと思ったから、受け取って」


アシュの胸元に水色の石が輝いている。


「うん、やっぱ見つけた瞬間にアシュに似合うと思ったんだ」


アシュが石を触ると、その手には何粒かの涙が落ちた。


「リズ様⋯⋯」

「はいはい、自由市場のド真ん中で泣かないの」


抱きついてきたアシュの頭を撫でて宥めるが、

異様な光景に、自由市場の視線を一身に受けてしまった。


その後は、マリーも合流して自由市場を後にしたが、

各々好きなものを買ったみたいで、両手には戦利品を握っている。



アタンの中心に移動して、お昼を食べることにした。


「店は決まっているのか?」

「当然よ」


アタンで食事をするならことしかない。

正確には、ここ以外で食べたことがない。


「女将さん、お邪魔しますね」


いつものように、女将の酒場に入店する。


「嬢ちゃん、待っていたよ」


マリーに頼んで、昼と夜に予約を入れておいてもらった。


「騒がしくなるかも知れないけど、許してね」

「酒場は騒ぐ場所だ。気にしなくていいよ」


そのまま店員に案内されると、

大テーブルにはもう料理が用意されていたが、


「ちょっとこれ頼んでいたのと違いませんか?」

「これは私からの気持ちさね。嬢ちゃんがザルザとやり合ったお陰で、

こうしたまた嬢ちゃんと気兼ね無く話せるんだから」


別に女将のためじゃない、シードルが売れなければ自分がヤバいから動いただけだ。


それでも、女将の粋な計らいに胸が熱くなる。


「ありがとうございます」


お礼を言って席の着くなり、


「これ全部食べていいのか?」


バンズがウズウズしながら聞いてくる。


「全部食べていいわよ、だけどさっきも食べていたけど入るの?」


バンズとギータ、ユルが顔を見合わせるが、


「別腹だ!」


それって女子が使う言葉なんだけどな。


「それじゃ、昼間だからお酒は禁止だけど、

好きなだけ食べてちょうだい」

「よっしゃ!」


ヴェルデンでは食べることが出来ない肉の塊にかぶり付き、


「肉汁すげー」

「これが豪華な料理なんですね」


男どもは勢いよく食事を口に運ぶが、

マァムは、確かめるように食べている。


15人前はあった料理も、綺麗に彼らの胃袋に収まってしまった。


「はぁー食ったくった」


腹を叩きながら、満足気にするバンズ。


「それじゃ、夜にもう一度ここで食事をするから、

それまでは自由時間ね」


そう言って、みんなを送り出したが、

マァムが私に話しかけてきた。


「リズ様」

「うん?どうしたの?」

「自由時間の間、ここで調理を見させてもらえないでしょうか?」


女将の料理に刺激されたマァムが、

酒場の見学を申し出てきた。


「女将さん、いいですか?」

「邪魔しないならいいけど、皿洗いはしてもらうよ」

「かまいません!」


女将の条件に、マァムは生き生きと返事を返した。


「それじゃ、邪魔にならないように頑張ってね」

「はい!」


腕まくりをして調理場に入っていくマァムを見届け、


「私たちは宿屋の受付を済ませに行こうか」

「かしこまりました」



宿屋で人数分の受付を済ませ外へ出ると、

見覚えのある馬車が、私たちの前で止まった。


「リズ、宿屋から出てくるなんて珍しいわね」


馬車の窓から声を掛けてきたのは、

夜の女ボスアリーシアだった。


「アリーシア様お久しぶりです」

「アリーシアでいいわよ。それで、宿屋になんか用なの?」


女の私でも胸が高鳴る声色の問いに、

ヴェルデンの数人で観光に来ていることを告げると、


「そう、なら酒場で食事が終わったら、みんなでうちに来なさい」

「え?」

「観光なら、夜も体験しないと意味がないでしょ」


サラリとすごいことを言い放つ。


「それは⋯⋯お酒を飲むってことでいいでしょうか?」

「その先はその時次第でしょ?」


試すように、だけどなぜか惹きつかれる目で見てくる。


「ふふ、冗談よ。席と女は用意しておくから、

フリーダムって店に来たら、私の名前を出せば通じるようにしておくわ」


そう言い残し、嵐のように去っていった。


忘れていた。

宿屋のすぐ横は、夜の店が立ち並ぶ区域であることを。


「どうしましょうか?」


アシュでさえ、動揺している。


「女ボスの誘いは断れないわ」


爆弾を残していったアリーシアを恨みながら、

なにも問題が起きなければと、初めて神に祈った。



最後までお読みいただきありがとうございます。

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