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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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手紙の宛先

アタンからの完全なる締め出しから3日が経った。


「お嬢様、失礼いたします」

「今日も届いたの?」

「はい」


ナツが手渡してきたのは、数通の手紙。


「お返事は、書かれないのですか?」


3日前に大量に書いて以来、私は手紙を書いていない。


「時には、書かないほうが良いときもあるのよ」

「そういうものなんですね」


不思議そうにするナツに、


「そういうものよ」


と返し、小さく微笑んでみる。


ナツが部屋を出ようとした時、


「お嬢様!」


これまで取り乱したところを見たことがないセバスが、

慌てた様子で駆け込んできた。


「そんなに慌ててどうしたの?」

「そ、外を見て下さい」


セバスに促され、窓から外を見るといくつもの馬車が、

屋敷の前に並んでいた。


「誰かしら?」


聞かなくてもわかっている。

大量の返事待ちの手紙を見つめる。



「私に用と伺いましたが」


10台近くの馬車に向かって尋ねる。


その言葉を聞き、一番豪華な馬車から1人の女性が降りてきた。


「ユルガ夫人?」


わざわざ手紙の返事を聞きに、夫人本人が出向いてきたってこと?


「リズさん、どういうことか聞かせてもらえるかしら」


突き刺すような声で、問いかけてきた。


「手紙の件につきましては、書いてあるとおりのことです」

「だから、なんで急に商売をやめるとなるの?

私との契約はまだ残っているはずよ」


夫人の言うことはもっともだ。


模造品事件の時に、信用を武器にバリス商団を締め出した私が、

契約を反故にするなんて、気が狂ったと言われてもしょうがない。


「詳しい話は中でしますので、よろしければどうぞ」


セバスに、みんなを応接室に案内するように指示を出す。


玄関には、心配そうにこちらを見つめるお父様とお母様とシルクが居た。


3人の前まで行くと、


「これが言っていたことか?」

「はい、私が来るように仕向けました。

ただ、公爵夫人本人が来たのは予想外ですが」


そう言って、お父様の横を抜けて応接室へと歩き出したが、


「公爵夫人が来ているのか!?」


慌てたお父様の声が聞こえてきた。



「すみません、これと言ったおもてなしが出来ない状況でして」


そう言って、シードルをみんなに振る舞った。


応接室には、ユルガ公爵夫人をはじめ、子爵夫人と金髪の女性に、

その他、貴族の命で来た使いの者が案内された。


「なんというか⋯⋯苦労されているようね」


ユルガ夫人が、部屋を見渡しながら感想を述べた。


「領民を食べさせていくので、精一杯ですから」

「貴族としては情けないけど⋯⋯人としては好きよ。そういうの」


お父様の顔が徐々に青ざめていっていく。


しょうがない。公爵夫人に言われたら言い返すことも出来ないのだから。


「それで、手紙の件で来られたと聞きましたが」

「そうそれよ。あなた、私との契約がまだ残っているのにやめるってどういうこと?」

「違約金と言った話でしょうか?」


わざと趣旨をずらして聞いてみる。


「そういう話をしに来たんじゃないの。どうしてなの?

もしかして、先日うちのものが言ってたことと関係が?」


手紙にはわざと詳細なことは書かずに、ただ諸事情によりと書いたのみだった。


私は、これまでの経緯を説明した。



「ザルザか⋯⋯」


説明を聞き終わった後、公爵夫人が小さく呟いた。


「ザルザ商団相手では、どうしようもありませんわね」


子爵夫人が、視線を落としていた。


「今はアタンだけですが、すぐに南部全体から私たちは締め出されると思います。

そうなると、みなさんとの取引も維持できなくなります」


沈黙が落ちかけた時、


「それで?」


金髪の女性が口を開いた。


「それで、と言いますのは?」

「あなたは、これで引き下がるのってことよ」


ずっと困っていた。


私はこの話が始まってからずっと、

この女性の名前を思い出そうとしているが一向に出てこない。


「すみません、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

「アリーシアよ」


アリーシア?

ダメだ、記憶にないどころか手紙を送った相手でもない。


「本当に申し訳ありませんが、どういった方でしょうか?」

「あなたこの人を知らないの?」


公爵夫人が驚いている。


そんなに有名な人ってこと?


「ごめんなさい、私が出した手紙の中にアリーシア様という方は居なかったと思います」


彼女の反応を伺いながら、なぜこの場に居るのかを問いかける。


綺麗な金髪と色白の肌に、黒のドレスがとても映えて、

元の世界で言う、金髪姉ちゃんだ。


何よりも、足を組み直したり、出したシードルを飲む仕草すべてが魅力的だ。


「はぁ⋯⋯もう。アリーシアは、アタンの夜の女ボスよ」


公爵夫人が頭を抱えながら、彼女の素性を教えてくれた。


「そんな人がなぜ?」

「あなたね、夜の店にもシードルを卸しているでしょ?

それをやめるっていうから、色んな店から泣きつかれたのよ」


そういうことか、確かに夜の店にも手紙は送っている。


でも、シードルをやめるだけで夜の女ボスが出てくることなの?


「あなたが思っている以上に、シードルは女の酒として浸透している」


アリーシアが、グラスを掲げ語り始める。


「夜の店では、ワインは金を稼ぐために飲むもの。

でも、シードルを酒を楽しむために飲むもの、この意味がわかるかしら」


言い終わると、シードルをグイッと一気に飲み干した。


この言葉に、以前女将が言っていたことを思い出した。


『女が酔うっていうのは問題が起きるんだよ』


「シードルがそこまで好かれていることを知れて良かったです」

「シードルだけじゃなく、太陽のオイルもよ」

「あれもいいわね」


話がヴェルデンの商品のことで盛り上がりはじめたときに、


「とはいっても、ザルザ商団に締め出されたのでこれ以上は難しいです」


空気を壊すように割り込んだ。


「方法はないのかしら?」


公爵夫人が神妙な面持ちで見つめてくる。


それに返すように、私は肩をすくめお手上げのポーズを見せた。


そう、あくまでもこれはポーズだ。

方法ならある。


でも、これを私から言うのではなく彼女たちの口から言わせないと意味がない。


「私は面倒くさいの苦手だから、ザルザを締め出せばいんじゃないの?」


アリーシアが当然のように言うが、


「それはダメです。ザルザを締め出したら南部全体が混乱します」


そっちの方向は誰も幸せにならない。

南部の流通が滞り、一番被害を食らうのは庶民だからだ。


「ザルザ商団ほどになると、貴族と肩を並べるほどの権力とお聞きしましたが」


少しずつ、軌道修正するための話を投げかける。


「子爵くらいはあるんじゃないかしら」


公爵夫人が隣の子爵夫人を見ながら答え、

子爵夫人が軽く身体を離した。


子爵か。お父様は男爵だから完全に格上なのよね。


「それほど力を持った商団ですので、私のような弱小商団では太刀打ちできません」

「なら、私があんたんとこの商団のバックに付いてあげるわ」


唐突な発言に、みなアリーシアの方を向いた。


「あなたがバックについても、意味あるわけ無いでしょ!」


公爵夫人がアリーシアに立ち上がって食いかかるが、


「アタンの夜を統べる私よ?私の一言で夜の店からザルザを締め出すなんて造作もないこと、

ザルザで子爵あるなら、私も子爵くらいはあるでしょ」


あっけらかんと言う放つアリーシアに、


「言われてみたらそうね⋯⋯」


納得したのか、公爵夫人は静かに座り直した。


「そうよね、男爵のお抱え商団だから手を出してきたわけだから、

それ以上の爵位のものが付けば、ザルザは手を引くしかないわよね」


子爵夫人と使いの者たちが困惑する中、


「わかったわ、ユルガ公爵家もあなたに付くわ」


公爵夫人の言葉に、私は見えないようにガッツポーズを取った。


「2人も大丈夫なのですか?」


子爵夫人が戸惑いながら2人に聞き返すが、


「私が言うのもあれだけどね、商団ごときが偉そうにしているのが気に食わないのよ」

「そうね、流通を盾に脅しを掛けることがまかり通るなら、

安心して商売ができなくなるわ」


これが必要だった。


私から後ろ盾についてと申し出てしまうと、

ただ商品が手に入らなくなるのを止めたいだけになる。


でも彼女らの中で、後ろ盾に付くことを考えれば、

公爵夫人たちなりの大義名分が付いてくると読んだからだ。


感情ではなく、理屈でバックに付いてもらわないと意味がない。


これで必要なピースの一つが揃った。


後残すは⋯⋯。


子爵夫人が盛り上がる2人を宥めるよう言った。


「お二人が後ろ盾になったとしても、あかぎれオイルの方は解決しないですよね?」

「⋯⋯そうよね」


事の発端を解決しないことには、意味がない。


例えシードルの取引を再開できたとしても、

一度広がった、違法商品を売る商団というレッテルを剥がさないことには、

今後の商売は難しい。


答えが出ないまま、暗礁に乗りかけた時、


「お嬢様!」


ハルが、勢いよく駆け込んできた。


「来客中よ」

「失礼しました」


何度も頭を下げるハルに、


「なにか問題でも?」

「アシュさんが、たった今アシュさんが戻られました」


これを聞き、公爵夫人たちを残して応接室を飛び出した。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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