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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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追い打ち

「こんなところに居て良いのか?」


窯の熱気と焼き上がったパンの香りに満たされた工房で、

バンズが心配そうに聞いてきた。


「こんなときだから、ここにいるのよ」


バンズの照れた顔が少し懐かしく感じるわ。


イルヴァが領地に来てから2日が経った。


アシュに王宮まで行くように指示したが、

往復で6日はかかるらしく、アシュが戻るまで何も手につかない。


「しかしよ、大手商団ってやつは何をしても許されると思っているのか?」

「大手ともなれば、変な貴族よりも力があるそうよ」

「まじかよ!?」


バンズの問いに、愛想無く返事をする。


「元気ないけど、大丈夫なのか?」

「色々手を考えているんだけど、アシュに頼んだ以上のものが思い浮かばないのよ」

「もしそれがダメなら?」


痛い指摘に、顔をしかめてしまった。


もし私の望む答えが返って来なかったら⋯⋯。


「崖っぷちね」

「おいおいおい、みんなの前であんな大見得を切ってそれはないぜ」


慌てるバンズに、青ざめた顔をしながらなにも聞いてないフリをするアレン。


屋敷に居ても頭が休まらないからここに来たのに、

これじゃ、休まらないわ。


「とりあえず今は――」


私の言葉を遮るように、工房にマリーが駆け込んできた。


「リズ様!」

「どうしたの?配達は?」

「アタンの取引先全部が、取引をやめたいと」

「なんで今になって?」


さっきまで暑いと感じていた工房なのに、

身体が震え始める。



「女将さん、どういうことですか?」


マリーに再度アタンに向かってもらい、

一番話が出来る女将に会いに来た。


「嬢ちゃん⋯⋯か」


私の顔を見た女将は、浮かない顔で視線を逸らしてきた。


数日前は、無理なお願いを快く受け入れてくれた女将が、

今一番会いたくないと言っているようだ。


「シードルの取引をやめるそうですね」

「⋯⋯あぁ」


絞り出すような返事を素直に受け止められなかった。


「急にどうし――」


言いかけた言葉を飲み込み、状況を理解した。


「⋯⋯ザルザですね?」

「⋯⋯」


私の問いに、返事が返ってこない。


でも、女将の握った手が震えているのを見て察した。


オイルの契約を蹴った仕返しに、ヴェルデンを締め出そうとしているのね。

私だけならまだしも、女将たちを巻き込むなんて。


「ご迷惑お掛けして、ごめんなさい」


今の私に出来るのはこれだけだ。


「嬢ちゃんが悪いわけじゃない。運が⋯悪かっただけさ」


逸らされた目は、次に私を見たときは哀れみの眼差しだった。


お互い、それ以上交わす言葉が見つからず。


「もしまた機会があれば、その時はよろしくお願いします」


それだけを言い残して、酒場を後にした。



女将の酒場以外に、アタンで取引があるところを全部回ったが、


「すまん、俺達も食っていかないといけないんだ」


全員、苦渋の選択だと言う反応だった。



領地の収入の柱が今にも折れそうに傾きはじめた。


「アタン以外のところは大丈夫でしょうか?」


マリーの疑問は当然の思考だ。


「多分、時間の問題ね」

「っ!?」


マリーの反応に、バカ正直に答えるべきじゃなかったと後悔した。


もし今日から収入が0になったとしても、

1か月は領民を養うことは出来る。


でも、その1ヶ月間で突破口を見出せなければ⋯⋯。


この世界に来て、パン屋で会った親子を思い出す。


「ふざけるな!」


辺り一帯に響く声で叫んだ。


周囲に居た人たちがこちらに振り向き、

隣のマリーも軽く飛び跳ねて驚いた。


オイル一つ思い通りに出来なかったからって、

私たちのこれまでの努力を踏みにじることは許せない。


「⋯⋯リズ様」

「急に大声出してごめんね」

「そういうときもありますよね!」


本当にマリーは可愛いんだから。


「領地に戻って作戦を考えるわ」

「はい!」


荷馬車の元へ歩き出そうとした時、


「おやおや、リズ様ではありませんか」


背後から、今一番ぶん殴りたい男の声が聞こえた。


今は顔を見たら本当に殴りかかりそうなので、

無視して歩き続けたが、


「シードルの売れ行きは好調でしょうか?」


聞き終わる前に、私は奴のもとに走り出していた。


「あんたね!」


本気で殴ろうと拳を握り、大きく構えて振り抜いたが、

私の拳はイルヴァの顔に届く前に、護衛の手によって止められた。


「おやおや、今日はご機嫌が優れないようですね」

「誰のせいだと思っているの!」

「商売は水物です。良いときもあれば悪いときもあります。

一つ判断を間違うことで、底に落ちるのは一瞬」


小馬鹿にするような口調で説いてくるイルヴァの顔に、

この拳をぶつけてやりたいと思っても、ピクリとも動かせない。


「どうですか?あなたが一言、私たちにあのオイルを売ると言うだけで、

明日には、いつもと同じ日常に戻れるのですよ?」

「明日があっても、その先がないわ」

「本当に君は、十数歳の子供なのかい?」


イルヴァが、鼻息が掛かる距離まで顔を近づけ顔を覗き込んできた。


「私が20や30に見えるなら、引退したほうが良いわ」

「本当に口だけは達者ですね」


イルヴァは元の姿勢に戻り、背を向けた。


「離してやりなさい」


その言葉で、私の右腕は解放された。

手首に思いっきり痕が残っている。


「どんなに意地を張っても、ヴェルデン商団が商売をすることは出来ません」


吐き捨てるように言って、馬車に乗り込んで走り去っていった。


「リズ様!大丈夫ですか?」


マリーが駆け寄って心配してくれたが震えていた。


「怯えさせてごめんね」


マリーの頭を軽く撫でて落ち着かせてあげる。


「私は大丈夫だから、領地に帰りましょう」



屋敷に戻り、帰り道で考えたあることを実行に移す。


「アシュ!手紙を書くから準備して」


玄関に入るなり、アシュに指示を出すが返事がない。


後ろを振り返り我に返る。


「⋯⋯居ないんだった」


いつもそこに居るはずの人が居ない。

たったそれだけなのに、心細いなんて。


弱気になるな。


自分に言い聞かせ、丁度通りがかったナツに手紙を準備してもらった。


「商売をすることが出来ない?

なら、商売しないであげるわ」


時間を忘れて、何通もの手紙を書き続けた。



最後までお読みいただきありがとうございます。

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