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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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大手商団の牙

久しぶりの自由市場で、出店の準備をしていると、


「イモの姉ちゃん久しぶりだな」


隣の男性がマリーに声を掛けてきた。


「あ!陶器のおじさんじゃないですか、お久しぶりです」


マリーも顔なじみのように挨拶を返している。


「2ヶ月ぶりくらいか、またイモを売るのか?」

「今日は食べ物じゃないんですよ」

「そりゃ、残念だ」


本当に残念そうな顔をして、男性も商品を並べはじめた。


それからも、数人の同業者がマリーに声を掛けていた。


「あなた結構人気者ね」

「いえっ!?あの――」


照れていると言うよりは、何かを隠しているような口ぶりに、


「怒らないから言ってみなさい」

「時折、手伝ってくれたお礼にヴェルデンイモを渡していまして、

本当にごめんなさい」


報告が数カ月後になったのはいただけないけど、

近所付き合い的な、持ちつ持たれつなら構わない。


「手伝ってくれたお礼なら問題ないわ、

今後は、怒ったりしないから相談してほしいわ」

「わかりました!」


出店の準備が終わり、後は自由市場の開始時間を待つだけだ。


「リズ様、昨日は遅くまで起きておられましたが大丈夫ですか?」

「それを知っているアシュは大丈夫なの?」

「私は、いつも元気です」


自分で言うのもあれだが、ワーカホリック気質であると思っているが、

そんな私でさえ、アシュの仕事ぶりは引くレベルである。


「出る前に頼んだのはやってくれた?」

「はい、セバス様に引き継いでおります」

「それなら問題ないわね」


これを聞き、ユルガ公爵の宿題に対しての私なりの回答の準備は完了した。


そうこうしていると、自由市場の開場の合図が鳴り出した。


「それじゃ、2人とも頑張りましょう!」

「「はい!」」



開場とともに、数人の女性が私たちの前で足を止めた。


「あかぎれオイル、1回100イェン?」

「どうですか?あかぎれで割れた手も、これを塗ればあら不思議、

水に手を入れても痛くならないオイルです」

「本当に?」


興味と疑いを含んだ目でこっちを見てくる。


「今塗って、ここにある水に手を入れて痛かったらお代はいりません、

もし、私が言うように大丈夫だったら100イェン払っていうのはどうですか?」


女性たちは、自分の手を見て躊躇っていると、

1人が前に出てきた。


「試してみようかしら」

「では、手を出していただけますか?」


出された手に、オイルを数滴垂らす。


「手全体馴染めせてから、水に手を入れて下さい」


塗った後に、女性が水に手を入れると、


「すごいわ。本当に痛くない」

「これなら、水仕事もしやすくなりますよね」

「本当にそうよ!」


これを聞き、その場にいたみんなが試し、

満足して、100イェンを払った。


はじめに試した女性が問いかけてきた。


「これってどのくらい持つの?」

「木灰や石けんを使わなければ、1日は持ちます」

「じゃ、毎日100イェン掛かるってこと?」


本当に、あなたは最高のお客様だ。


「という方には、こちらの木箱がおすすめです。

半月分のオイルが入って1000イェンになっています」

「安い上に、毎日ここに来なくて良くなるのか」

「しかも!次回、この木箱を持ってきてくれれば、

半月分は700イェンでの販売になっています」

「頂くわ!」


彼女たちのおかげで、次第に人だかりが出来はじめ、

1時間もしないうちに、自由市場をはみ出す列になっていた。


あまりの異様さに、警備兵から営業の中止を告げられてしまった。



「全然売れませんでしたね」


営業中止にマリーは不機嫌になっていた。


「ここまでになるとは、私も予想していなかったわ」

「明日からどうしましょう、街を変えますか?」


マリーの案も悪くはないけど、

ここよりも、どうしても見劣りするのよね。


ましてや、今日塗った客は間違いなく明日も来るのに、

そんな機会を無駄にはできないわ。


「ほら、早く片付けて出て行ってくれ」


高圧的な警備兵が、まくし立てるように言ってくる。


「迷惑かけたのはわかりますけど、

そういう言い方はないんじゃないんですか?」


警備兵の態度に、マリーの我慢が限界に達し警備兵に詰め寄った。


「あ、あんなに人が並ぶなら、

こんな場所で売らずに、店を出せよ」


マリーの思いがけない言い返しに、

捨て台詞を言って警備兵は去っていった。


「何なんですか!」


マリーは地団駄を踏んで、不満を爆発しているが、

警備兵の言葉で私は、逆に助けられた。


「そうか、そうよね」


片付けをして、2人に女将の酒場へ行くことを伝えた。



昼の営業のために、酒場は準備で慌ただしくしていた。


「女将さん!」

「嬢ちゃんじゃないかい、元気にしてたかい?」


軽く挨拶を交わし、本題を切り出した。


「折り言って、女将さんにお願いがあるのですが――」



「なるほどね、自由市場を締め出されたから、

うちの前を借りたいってわけか」

「邪魔にならないようにするので、ダメでしょうか?」


女将が軽く考えると、


「そういうならしょうがないね、

条件として、あんたらの客にうちを宣伝しなさい」

「ありがとうございます」


場所代を払おうとしたが、女将は頑なに受け取らないため、

木箱のオイルを従業員分押し付けた。


「それじゃ、急いで準備しましょう!」

「「はい」」



出店の準備をしていると、

ここでさっきのオイルを売るのか?聞かれ、

そうだと答えると、なにも言わず並びはじめ、

開店準備が終わる頃には、10人ほどがすでに並んでいた。


「お待たせしました、販売はじめます」



開店から約3時間、無心で人の手にオイルを垂らし続けた。


「あんたらすごいわ」


女将は、感心どころか驚愕だと言ってきた。


「⋯⋯迷惑掛けませんでした?」


差し出された水を一気飲みし、

酒場のカウンターで3人してへばっている。


オイルが尽きたのではなく、体力の限界で販売を終了する羽目になった。


「迷惑どころか、こっちも客が増えたし、

あのオイルのお陰で、うちの下っ端の洗い物も捗っていたさ」

「それなら⋯⋯よかったです」

「しかし、あかぎれに目をつけるとは嬢ちゃんは本当に商才だね」

「女将さんに言われると、照れますよ」


後から知ったことだが、南部の交易を担うこの街で、

飯を食べるならここだと言われる店を切り盛りする女将だって十分商才だ。


「それで、明日もやるのかい?」

「迷惑でなければ、お願いしたいです」

「逆にこっちがお願いしたいくらいだよ」


女将のはからいで、明日も営業することができることになった。



翌日は、酒場の準備時間に合わせて、

出店を始めることにした。


昨日の反省を活かし、今日は従業員を2人追加した。


今日も、準備の段階からすでに列が出来上がっている。



「ありがとうございます。次の方どうぞ」


私の前に出された手は、乾燥やあかぎれもなく綺麗な手だった。


「オイルが必要なさそうな手ですが」

「物珍しさに試してみたいのですよ」


そう答えた客を見ると、上等な身なりをしていて、

後ろには、ガタイのいい男2人を従えていた。


「それでは、手に垂らします」


どこかの貴族?

でも、貴族がわざわざ並ぶかしら。


客の素性を推察していると、

確かめるように、手を触る男が、


「これは、あかぎれを治すのですかな?」

「いえ、あかぎれの原因である手の脂不足を補うためのものです」

「それを治すと言うのでは?」


声は落ち着いているが、目を細めこちらを睨んで問うてきた。


「あかぎれは乾燥が進行した症状です。

ですので、美容オイルになります」

「ほう、美容オイルと言い張ると」


マリーたちも手を止め、こちらのやり取りを不安そうに見つめている。


「はい、とある貴族様にも同じ物を卸させて頂いております」

「名乗り遅れましたが、ワタクシ『ザルザ商団』で、

アタンを任されております。イルヴァと申します」

「そのザルザ商団の方が、このオイルにどういった要件で来られたのでしょうか?」


2日目にしてもう来るとは、

自由市場の締め出しと、この人だかりで目立ちすぎたみたいね。


「いえね、あかぎれに効くなんて謳っているオイルが売られていると聞きまして、

うちとしては黙っていられないのですよ」

「塗れば水につけても痛くないと言ってるだけで、治るとは言ってませんよ」

「本当に口が達者なお嬢ちゃんだね」


イルヴァによって、並んでいた客が離れていっている。


「これ以上は営業の邪魔になりますので、

用がないのであれば、お引き取り願います」

「そうですか、そちらがそう出るならこちらも考えがあります」


イルヴァが意味深な言葉を言うと、

振り返り、並んでいる人に聞こえるような声で、


「この街での薬品に関しては、ザルザ商団が国に任され販売しています。

このオイルは、それを無視して売っている違法品です」

「なっ、何を言っているの!?」


しまった。

そういうふうに動くか。


「ですので、このオイルを買うことは、

国に任されたザルザ商団の権利を侵害するということを――」


イルヴァが再度こちらを向き直し、


「十分、ご理解していただけると幸いです」


言い終わりに不敵に笑いかけてきた。


完全にやられたわ。



最後までお読みいただきありがとうございます。

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