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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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失敗と成功への兆し

花の効果は、2日目には目に見えて出ていた。


傷自体は両方とも塞がって血は止まっていた。


しかし、塗った方は、薄い皮膚のようなかさぶたに対して、

塗っていない方は、完全に血が固まったかさぶたを作っていた。


「知恵ってやっぱりすごいわね」

「効果がわかったのであれば、両方とも塗りませんか?」


アシュが、不安そうな顔で聞いてきた。


「ダメよ!今はまだ修復段階なのよ。

修復の早さに違いが出るのか見ないと」


不安そうな顔は、すぐに呆れた顔に変わっていた。


「今のうちに、オイルにこの花をどうやって入れるか試さないと」


冬を前にこれを完成させて、みんなの手を守るわ。


「ガリルのところに行きましょう」

「はい」


期待を胸に、部屋を飛び出した。



今日もただ回るだけの水車。


先月までは希望を乗せて回っていたのに。


「お嬢様が立て続けに来るとは珍しいぜ」

「なによそれ、私がここを避けているみたいじゃない」

「避けてない?」

「⋯⋯避けてないわよ⋯⋯そっそうよ、遠いだけよ」


溜まるだけの在庫に、足が向かなっただけ。


「それで、今日はなんぜ?」

「これを見て!」


私は、左腕の袖を捲って傷を見せた。


「本当に、お嬢様はバカぜ。

うんなもん、大工に頼めば生傷なんていくらでもあるぜ」

「アシュにも言われたわ」


花の効果があったことを見てほしかったのに、

先に、自分で試したことを指摘された。


「それよりも!これを見て」

「ほほん、黒いほうが塗ってないってわけぜ」

「そうよ!こんなすぐに効果が出るとは思わなかったわ」

「それで、これがわかって薬でも作るのか?」

「オイルにこの効果を混ぜれるのか試すのよ」


ガリルは小さく頷き、


「香りのように治す力も付けれたら、

そりゃ、女どもは嬉しがるだろうぜ」


ガリルに人差し指を向け、


「そういうこと!」

「うんじゃ、少量で試すだろうから、

小さい木箱を持ってくるぜ、何個くらいあればいいぜ?」

「3つ持ってきてちょうだい」

「ほい」


そう言って、ガリルは畑の方に歩いていった。

私とアシュは、その間に花を摘むことにした。



「持ってきたぜ」

「ありがとう」


ガリルの腕には、10センチほどの正方形の木箱が抱えられていた。


「それで、どうやるんだ?」

「まずは、煮汁を入れるやつと、

花をそのままと、後は花を絞ってその液を入れて試すわ」

「結構めんどくさいぜ」

「塗ったりつけるものは、細心の注意を払ってやらないと、

逆に傷を悪化させるかもしれないのよ」

「考えているんだな」


感心しながら、ガリルは木箱にオイルを注ぎはじめた。


「とりあえず、煮汁を入れましょう」


屋敷で煮込んだ煮汁をアシュから受け取り、

オイルへと注ぐ。


「どのくらい入れるんぜ?」

「塗るだけで効果があったから、10%も入れれば十分だと思うわ」

「お嬢様は、そんな計算もできるのか」


こんなの、中学で習うことだけど、

ここにはないのか⋯⋯。


でも、一時期はお母様が基礎的なことを教えているって、


そんなことを考えているうちに、

大体10%になる量を注ぎ終えた。


注ぎながら、うすうすは感じてはいたけど、


「分離しているわね」

「水と油は混ざらなねぜ」


木箱だから、上からしか観察はできないが、

間違いなく、底面に煮汁の層が見えた。


「界面活――」


口にしかけて、そんなものはこの世界にないことを思い出す。


「これじゃ、絞った液体を入れるのもダメそうね」

「あれも、水分だからな」

「とりあえず、花を入れてみましょう」


3人で花びらをむしり、木箱へと入れていく。


「指に花の色が移ったぜ」

「本当だ!」


色の移った指を嗅ぐと、オレンジ色の花なのに青臭くハーブ系の匂いがした。


「このくらい入れれば十分でしょ」


木箱の底には、1センチほどの花びらの絨毯が出来ていた。


「これをどうする?」

「2、3日漬けておいて、花の効能がオイルに染み出すのを待ちましょう」

「じゃ、油倉庫に入れておくぜ」

「お願いね」


これでうまく行けばいい。

そう思っていた。


3日後に、再度ガリルの元を尋ねると、


「どう?」


丁度、油倉庫で木箱を覗いてるガリルがいた。


私の声に、こちらを向いて何度か首を横に振った。


「ダメだったの?」

「昨日までは、見た感じは変化無かったんだが、

今見たら、カビが生えてやがるぜ」


ガリルが木箱をこちらに向ける。


そこには、白っぽくオイルが変色し、

カビのようなものが浮いていて、花びらは茶色に変色していた。


「こんなの塗ったら化膿するぜ」

「なにが、ダメだったんだ」


よくよく考えれば、答えは至って簡単だ。

花を絞って液体が出るのなら、花びら自体が水分の塊である。


「普通に考えればそうよね⋯⋯」


自分の浅慮さに、腹が立つ。


「オイルに、この花の効果を入れるのは無理なんじゃないか?」


ガリルが、諦めの言葉を口にした。


左腕を見つめる。


塗らない方は、未だにかさぶたをこしらえているのに、

塗った方は、完全に治りかけて傷口が薄ピンク色になっている。


オイルだけでも、あかぎれを予防するだけなら効果はある。

それだけでも、商品価値は十分と言えるだろう。


だけど、1日でも早く割れた手を癒せるなら⋯⋯。


「諦めるのはまだ早いは、方法は絶対に見つけるわ」


一旦屋敷に戻って、それらしい書物がないか、

セバスに聞くとしよう。


「明日また来るわね」



屋敷へと向かう道中に、


「リズ様、リズ様」


1人の若い女性に呼び止められた。


「どうかしましたか?」

「これを見て下さい」


彼女はそう言うと、手のひらと手の甲を交互に見せてきた。


「食堂のオイルのおかげで、カサカサだった手がキレイになりました」


言葉通り、彼女の手には乾燥している様子もなく、

血色の良い色をしていた。


「それは良かったわ」

「それだけお伝えしたくて、

呼び止めてしまい申し訳ありません」

「そんなことないわ、いつでも気軽に声を掛けてね」


彼女はペコリとお辞儀をして、足早に去っていった。


「ついでに、食堂も覗いていきましょう」


屋敷へ向かっていた足を、食堂へと向ける。



昼時だと言うのに、食堂には列ができていなかった。


以前バンズが言ったように、

みんながうまい具合に時間をずらし合って利用しているようだ。


中へ入ると、今日のお昼は香草を使った料理だということがわかった。


「いい匂いね」

「そうですね、マァムさんは薬味にお詳しいですから」

「ついでに食べていこうか」

「はい」


2人で、カウンターへと並んだ。


「リズ様、いらっしゃいませ」

「いい匂いにひかれてしまいました」


その言葉に、受付の女性は小さく笑ってくれた。


「今日は、マァムさんの香草スープとパンです」

「パンにつけて食べると美味しそうね」

「そのとおりです」


何気ない会話を通して、

無理をして仕事をしていないことが伝わってきた。


「2人分と⋯⋯手の方はどうですか?」


私の問いかけに、


「それまで水でもしみて痛かったのですが、

つけたときからまったく痛くなくて、今では治りかけてきています」


彼女の手も、少し赤みを取り戻し、

潤いを纏っているのがわかった。


「いくらでも使っていいから、無理だけはしないでね」

「ありがとうございます」


彼女は受付を離れ、盛り付けをはじめた。


その間に、調理場をチラッと覗くと、

マァムともう1人がスープの準備をしていた。


「リザさん、新しいスープに香草を入れてもらえます」


マァムが、リザに指示を出す。


「刻んで入れればいいんですよね?」

「細かく刻んでね」


リザが香草を刻みだすと、


「ちょっと待って!」

「え!?」

「リズ様⋯⋯?」

「刻んでいるそれを見せてもらえますか?」


少し怯えた様子で、リザが香草を渡してくれた。


「マァムさん、これって匂い付けだけですか?」

「いえ、お腹の調子を良くする効果があると言われています」

「それって、こんな普通に乾燥させても効果はあるの?」


私の圧に、1歩下がるマァム。


「ものにもよると思いますが、

大体は乾燥させても大丈夫だと聞きます」

「ありがとう!」


お礼を伝え、受付に用意された料理を受け取り席へ着いた。


「乾燥させれば、うまくいきそうですね」


マァムとのやり取りを聞いて、

アシュがその意図を読み取っていた。


「えぇ、これがオイルにも応用できれば⋯⋯

上手くいくわ!」

「途中であった女性に感謝ですね」

「本当にね、彼女に合わなければまっすぐ屋敷に戻っていたもの」

「リズ様がみんなに良くしているご褒美かもしれません」


アシュの何気ない一言に、スプーンが一瞬止まった。



最後までお読みいただきありがとうございます。

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