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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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ひまわりオイルの未来とリズの暴走

昼食を済ませ、当てもなく領地内を散歩してみる。


それでも、マァムたちの傷だらけの手が頭から離れないでいる。


「みんな、我慢しすぎなのよ」

「冬になれば、みな経験することですから」


アシュが当然のことだと返す。


「それがだめだって言っているのよ。

そう言えば、マァムも冬はみんななると言っていたわね」


その言葉が気になり、目につく領民の手に視線が向く。


「ごめんなさい、ちょっと手を見せてもらえますか?」


突然の申し出に困惑されてしまったが、渋々ながらも見せてくれた。


「割れてはいないけど、あかぎれの前兆はあるわね」


ところどころ皮膚が白くなり、逆だっている。


「冬になると割れたりしますか?」

「そうですね、来月くらいから水仕事が嫌になってしまいます」

「そうですか、ありがとうございます」


何人もの道行く人に声を掛け、手を見せてもらう。


個人差はあれど、女性の殆どにあかぎれの兆候があった。


「やっぱり、女性は水仕事をしているだけあって、

苦労している手に見えてしまうわね」

「洗い物や洗濯は女の仕事ですから」

「そっ、そうね」


動揺がバレないように、相槌を打つ。


アシュの言葉が、なぜか胸に刺さる。


元の世界では、食事はコンビニと外食で済ませ洗い物は無縁で、

洗濯に至っては、クリーニングを多用して家事全般を放棄していたからだろう。


もし私が、リズじゃなくて平民の子だったら、

生活できなかったかもしれないと、変な汗が滲んでくる。


「とりあえず、ガリルのところに行きましょう、

みんなにオイルを使えるようにしないといけないわ」


目的のない散歩に、やっと目的ができた。



回り続ける水車、でも杵を打つ音は聞こえてこない。


「ガリル、いるかしら?」


水車の音にかき消されないように、大きな声で呼びかける。


「どうしたぜ?」


ガリルが、油倉庫から出てきた。


「ひまわりオイルなんだけど、領民にあかぎれ予防として配布したいの」

「なるほどな、溜まるだけのこいつもやっと捌けるってわけか」


ガリルが、倉庫の扉を開け、

山積みになった樽を見せてきた。


「はじめは、食用油として売り込もうとしたけど、

既存の油が優秀過ぎたのよ」


肩をすくめ、検討不足だったことを認める。


「とはいっても、領民に配布なら金にはならんぜ」

「わかっているわ、ただこれがうまく行けば、

しっかりとお金になる予定よ」

「本当かいな?」


溜まるしかない物の管理を任せてしまった以上。

ガリルの反応は当然だ。


「大丈夫よ」

「前も言ったけど、油なんて諦めてとっとと水車もシードル用に改造したほうが、

稼げるんじゃないのかいな?」


耳が痛い話だ。


ガリルの意見はごもっとも過ぎる。


シードル用に水車の新設を検討しているわけだし、

油を入れている樽をシードルに回せば、頭打ちの生産量も少しは賄える。


それでも⋯⋯。


「わかってる。わかってます。

これは完全に私の意地でやっていることは理解しているわ」


大工たちに、大工の誇りを無視した家造りをやらせて、

自分は意地を通すのはおかしいことなんて百も承知だ。


「とりあえず、各家に行って配れば良いのか?」

「それだと、めんどうだから、

食堂に大きい箱を置いて、各々塗ってもらうほうがいいかなって思っている」

「そうしてくれると、こっちも楽でいいぜ」


またジーノたちの仕事を増やすことになったわね。


「しかし、これがあかぎれに効くとはな」

「結局のところ、手の水分と脂が不足して起こることだから、

オイルで脂を補って、ついでにその脂で水分が失われるのを防ぐって仕組みね」

「本当に物知りだな」


ガリルも、樽から少しすい、手に塗ってみた。


「塗った割には、塗った感じがしないんだな」

「それが、ひまわりオイルの特徴ね」

「でも、おれもかあちゃんの手を知っているからあれだけど、

割れちまったものにも効くのか?」


オイルには、医薬効果のようなものはない。


「割れたものを治りやすくする効果はないわ」

「だよな」


ガリルの素朴な疑問に思いつく。


「みんなって怪我したときはどうしているの?」

「多少の傷なら水で洗ってそのままか、あとは――」


そう言いながら、森の方に歩みだし、


「これの花を煮出して、煮汁を塗るときもあるかな」


その手には、オレンジ色のマリーゴールドの様な花があった。


「それは?」

「名前は知らんが、昔からこの花が傷に効くって言われてんだ」

「結構知られている話?」

「たぶんそうだと思うぜ、おれはあまり使ったことがないけど、

それこそ、大工たちは結構使ってるぜ」

「最高の情報をありがとう」


ガリルの手から花を受け取り、嬉しさのあまり背中を叩いて駆け出す。



大工たちは商団事務所の修繕をしながら、合間に組立工法を思案している。


「ちょっと、聞きたいんだけど」

「お嬢様、どうしやした?」


1人の大工に尋ねる。


「この花が、傷の治りに効くって聞いたけど本当かしら?」


息を切らしながら、ガリルから聞いたことを伝える。


「あぁこの花ですか、これの煮汁をつけると痛みも緩んで良いんですよ」


痛みの緩和をしてくれるってこと?


別の大工が話に入ってきた。


「おいらのばあちゃんは、その花の傷薬を昔持っていましたよ。

爺さんが大怪我したときに、高いけど医者に見せるよりは安いって言って塗ってました」

「効果はあったの?」

「はい、結構パックリやったんですけど、

塗れば痛みは落ち着いて、傷の割には早く治ったって言ってました」


話を聞く限りだと、炎症止めと抗菌か細胞の凝固作用があるようね。


「ありがとう」


お礼を言って再度ガリルの元に行き。

花をたくさん収穫し屋敷へと戻った。



「アシュは、その花を煮出してもらえる」

「かしこまりました」

「一応、軽く水洗いはしてね」

「はい」


玄関でアシュに指示を出し、部屋へと向かう。


机の引き出しからナイフを取り出し、

左腕の袖をめくった。


「リズ、ごめんなさい」


本当の身体の持ち主に謝り、左腕にナイフを押し付け、

目をつぶって勢いよく引いた。


「イッ!」


目を開けると、皮膚が3センチほど裂け、

次第に血が滲み出してきた。


そして、少しずらして再度ナイフを押し付け、

歯を食いしばって引く。


「やっぱ、痛い」


同じ様な傷が、左腕に出来た。


程なくして、小さい鍋を携えアシュが部屋へとやってきた。


「これで合ってるかわかりませんが、お持ちしました」

「ありがとう、ここに置いてもらえる」


机を指差す。


「あと、洗いたての布もお願いできるかしら」


不穏な指示に、アシュが気づいた。


「リズ様!なにをされたのですか」

「ただの、実験よ」


不自然にめくられた左腕の袖を見て、


「ちょっと失礼いたします」


アシュが、机越しにリズの左腕を掴んで引っ張る。


「なんですかこれは!」

「ほら、ちゃんと効くか確かめないといけないじゃない」

「だからって、自分の身体でやらなくても、私に言えばいいことです」

「何言っているの!なんでアシュの身体を傷つけないといけないのよ!」


アシュが肩を落とし、声を下げ返した。


「そういうことです」


思わずたじろいでしまった。


「リズ様が私に傷を付けてほしくないと同じく、

私もリズ様に傷を付けてほしくないのです」


これは完全に完敗だ。


この花の効果が、ガリルや大工たちが言うように本当であれば、

予防だけじゃなくて、傷にも効くオイルが出来るという、

希望に暴走してしまった。


「⋯⋯ごめんなさい」


いたずらがバレた子どものように、

うつむきながら謝る。


「本当に、こういうのは今後は辞めてくださいね。

効果を知りたいなら、怪我している人を探せばいいだけですよね」

「そっか!」


言われてみればその通り過ぎる。


「とりあえず、水と布をお持ちしますのでお待ちください」


ため息をついて、アシュが出ていった。


「怒らせちゃった⋯⋯」


不良在庫になっていたひまわり油に、

一筋の光明が見えて焦ったのね。



その後アシュが優しく、傷口を水で洗ってくれた。


「それじゃ、片方だけ煮汁を塗って、

痛みと治りが早いか確認よ」


傷は、ジンジンと痛むが眠れないほどではない。


「では塗りますね」


布に煮汁を染み込ませ、片方の傷に塗る。


「滲みたりはしないわね」


なるほどと、右手で感想と傷口の状態をメモする。


数分が経つと、


「確かに、思い込みもあるとは思うけど、

塗った方の傷の疼きが治まったような気がするわ」

「本当ですか?」

「たぶんね」


今更ながら、左右に分けるべきだったと思った。

これを言ったら、またアシュに怒られると飲み込む。


「とりあえず、朝昼晩に煮汁を塗って経過観察しましょう」

「本当に、早く治るといいのですが」


アシュの心配を他所に、私の内心はウキウキしていた。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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