食の次は?
「マァム、伝え忘れていたわ!」
食堂に並ぶ人たちをかき分け、どうにかカウンターの前にたどり着いた。
「丁度良かったです。領地外の方が来られてどうしようかと」
困り顔のマァムの視線の先に、大きなカバンを抱えた男が立っていた。
「もしかして、ここって領民専用とかでした?」
男は、戸惑いと不安を滲ませながら聞いてきた。
「いえ、領民以外ですと350イェンで食べれます」
「それは良かった、時間を無駄にしないで済んだ」
彼は、カウンターに350イェンを出し、
料理を受け取ると席へと向かっていった。
「リズ様!聞いてないです!」
小さいマァムが怒っているようだけど、
うん、あまり怖くない。
「ごめんごめん、200食作ってもらったのって、
領外の人も利用するかなって思って言ったんだけど、肝心の価格を伝え忘れていたわ」
「それなら勿体ぶらずに、開店前に言っておいて下さい!」
「本当にごめんなさい」
怖さはないけど、正論過ぎて謝ることしか出来なかった。
「ちなみに⋯‥今更なんだけど、領民との判別って出来る?」
そう、もう一つ肝心なことが抜けていた。
今の人のように、あからさまな格好をしていればいいが、
そうでない場合はどうするかってことだ。
「それなら大丈夫です。領民なら顔と名前を知っています」
マァムの驚きの返答に聞き返してしまった。
「領民全員?」
「はい、好き嫌いも把握していますよ」
「ちなみに、どうして?」
「嫌いなものを渡されても嫌じゃないですか、
なので、喜んでもらうために結構気にしていたので」
結構勢いでマァムに食堂を任せてしまったけど、
この人で良かったと心の底から思えた。
「なら大丈夫そうね、領民は250でその他は350でお願いね」
「はい」
これ以上は仕事の邪魔だと思い、
カウンターを離れ、食堂全体を見渡した。
30席は満席になっているが、誰も文句を言わず、
それなら外で食べるかという声が聞こえてくる。
「みなさん、幸せそうに食べていますね」
アシュの言葉に、みんなの顔を見直した。
幸せかはわからない、だけど一口食べるたびに小さく頷いたり、
口角が上がっているように見えた。
「稼いだかいはあったみたいね」
「そのようです」
これで食はどうにか出来た。
次にやるべきことのために、ジーノたちの元へと向かった。
商団事務所は、外側はそれなりに修繕が終わっていた。
「ジーノいる?」
事務所の扉を開けながら声を掛けた。
「なんじゃ?」
前にジーノが踏み抜いた床から、顔を出して来た。
「そんなところに居たのね」
「食堂のほうはいいのか?」
「えぇ、さっき見てきて順調だったからこっちに来たの、
食堂からお昼貰ってきたから休憩しない?」
「おぉ気が利くな、うんじゃ昼時にするか」
床から出てきて、ジーノが他の大工たちに昼休憩を告げた。
「それで次はなんの相談だ?」
肉とヴェルデンイモを挟んだサンドイッチを頬張りながら、
ジーノが質問してきた。
「領民の家を全部立て直すとしたら、どのくらい掛かりそう?」
「それは金か?それとも時間か?」
「わかるなら両方」
最後のひと口を放り込み、水を飲んでから、
「どんな家を想像しているかわからんからなんとも言えんが、
この事務所と同じ感じなら、1軒10万ちょっとで20日はいるな」
「ここより大きい食堂は2週間じゃなかった?」
「ありゃ、嬢ちゃんが出来るだけ早くって言ったから、
総動員で取り掛かったからな」
先日の領民調査で、人が住んでいる住居は62軒だったはず。
それだと全部建て替えるのに、3年半掛かる計算になる。
「もう少し早くなる方法とかはない?」
「解体がないなら、15日くらいにはなるかもな」
それでも2年半か‥‥
「それよりも問題は木材だな」
「どういうこと?」
「10万は領の木を使ったやつじゃ。
だけど、全部建て替えとなると足りん」
「木材を買わないといけないってこと?」
「そうじゃな、そうなると1軒20から30はいくかもしれん」
軽く見積もっても1000万オーバ⋯⋯
「領地の木を切って使うのはダメなの?」
「家に使うなら乾燥させんといけん、
乾燥が不十分で建てると、すぐ反ってしまう」
想定よりも大掛かりな話になりそうだ。
「とりあえず全部建て替えは、長期計画が必要ってことがわかって良かったわ。
じゃ次に、今年の冬を乗り越える修繕なら?」
ジーノが辺りの家を見渡し、考え込む。
「冬を越すってことは隙間を埋めりゃいいんだろ、
なら1日に2・3軒は行けるべ、費用も大したこともないだろ」
やっぱりこれが、一番現実的な方法か。
「事務所が終わってからでも、冬に間に合う?」
「もしやるなら、先に見るだけ見て見積もるが?」
「じゃそれでお願い」
「それじゃ、明後日までには出しておくわ」
そう言ってジーノが立ち上がり、
「別に去年もおんなじ家で冬を越したんじゃ、
今年になったからって、すぐに死んだりはせん」
私が焦っているように見えたのか、
労る言葉を残して、作業に戻っていった。
ジーノの言葉は理解できる、
確かに死にはしないかもしれない。
だからって我慢させていいわけではない。
だって私も知っている。
ボロアパート時代の家の中でさえマイナスの気温で、
灯油代を捻出できずに、布団にくるまりながら凌いだ日々を。
「アシュ、雪が降るのはいつくらいなの?」
「例年通りですと、3ヶ月後の12月中盤ほどかと」
「3ヶ月か⋯⋯」
1300万までならどうにか捻出できる。
木材を買って、大工も外から呼べば⋯⋯
3か月でどうにか出来ないかと頭で組み立てる。
「時間をお金で買――」
突然視界が真っ暗になった。
「お嬢様、多分今考えていることは誰も望みません」
額に感じるアシュの鼓動で、私は抱きしめられていることを知った。
「ジーノさんが言っていたように、
去年も問題なく冬を過ごせました」
「だけど⋯⋯」
「でも今年は、おいしい温かいご飯が食べれて、
何よりも来年は良くなると思えると思います」
「辛くないかな?無理強いしてないのかな?」
私の問いかけに、抱きしめる力が強くなり、
一層アシュの鼓動が大きく聞こえた。
「何事も下準備は大切です。
それを怠れば、良い結果はそうそうでません」
「それは料理の話?」
「全てです」
そっか、全部どうにかしようとする私の悪い癖が出ていたのか。
「ありがとう、アシュ」
アシュの背中に腕を回して、抱きしめ返した。
最後までお読みいただきありがとうございます。
気に入っていただけたら★評価とフォロー・感想お願いします。




