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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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食の次は?

「マァム、伝え忘れていたわ!」


食堂に並ぶ人たちをかき分け、どうにかカウンターの前にたどり着いた。


「丁度良かったです。領地外の方が来られてどうしようかと」


困り顔のマァムの視線の先に、大きなカバンを抱えた男が立っていた。


「もしかして、ここって領民専用とかでした?」


男は、戸惑いと不安を滲ませながら聞いてきた。


「いえ、領民以外ですと350イェンで食べれます」

「それは良かった、時間を無駄にしないで済んだ」


彼は、カウンターに350イェンを出し、

料理を受け取ると席へと向かっていった。


「リズ様!聞いてないです!」


小さいマァムが怒っているようだけど、

うん、あまり怖くない。


「ごめんごめん、200食作ってもらったのって、

領外の人も利用するかなって思って言ったんだけど、肝心の価格を伝え忘れていたわ」

「それなら勿体ぶらずに、開店前に言っておいて下さい!」

「本当にごめんなさい」


怖さはないけど、正論過ぎて謝ることしか出来なかった。


「ちなみに⋯‥今更なんだけど、領民との判別って出来る?」


そう、もう一つ肝心なことが抜けていた。


今の人のように、あからさまな格好をしていればいいが、

そうでない場合はどうするかってことだ。


「それなら大丈夫です。領民なら顔と名前を知っています」


マァムの驚きの返答に聞き返してしまった。


「領民全員?」

「はい、好き嫌いも把握していますよ」

「ちなみに、どうして?」

「嫌いなものを渡されても嫌じゃないですか、

なので、喜んでもらうために結構気にしていたので」


結構勢いでマァムに食堂を任せてしまったけど、

この人で良かったと心の底から思えた。


「なら大丈夫そうね、領民は250でその他は350でお願いね」

「はい」


これ以上は仕事の邪魔だと思い、

カウンターを離れ、食堂全体を見渡した。


30席は満席になっているが、誰も文句を言わず、

それなら外で食べるかという声が聞こえてくる。


「みなさん、幸せそうに食べていますね」


アシュの言葉に、みんなの顔を見直した。


幸せかはわからない、だけど一口食べるたびに小さく頷いたり、

口角が上がっているように見えた。


「稼いだかいはあったみたいね」

「そのようです」


これで食はどうにか出来た。

次にやるべきことのために、ジーノたちの元へと向かった。



商団事務所は、外側はそれなりに修繕が終わっていた。


「ジーノいる?」


事務所の扉を開けながら声を掛けた。


「なんじゃ?」


前にジーノが踏み抜いた床から、顔を出して来た。


「そんなところに居たのね」

「食堂のほうはいいのか?」

「えぇ、さっき見てきて順調だったからこっちに来たの、

食堂からお昼貰ってきたから休憩しない?」

「おぉ気が利くな、うんじゃ昼時にするか」


床から出てきて、ジーノが他の大工たちに昼休憩を告げた。



「それで次はなんの相談だ?」


肉とヴェルデンイモを挟んだサンドイッチを頬張りながら、

ジーノが質問してきた。


「領民の家を全部立て直すとしたら、どのくらい掛かりそう?」

「それは金か?それとも時間か?」

「わかるなら両方」


最後のひと口を放り込み、水を飲んでから、


「どんな家を想像しているかわからんからなんとも言えんが、

この事務所と同じ感じなら、1軒10万ちょっとで20日はいるな」

「ここより大きい食堂は2週間じゃなかった?」

「ありゃ、嬢ちゃんが出来るだけ早くって言ったから、

総動員で取り掛かったからな」


先日の領民調査で、人が住んでいる住居は62軒だったはず。


それだと全部建て替えるのに、3年半掛かる計算になる。


「もう少し早くなる方法とかはない?」

「解体がないなら、15日くらいにはなるかもな」


それでも2年半か‥‥


「それよりも問題は木材だな」

「どういうこと?」

「10万は領の木を使ったやつじゃ。

だけど、全部建て替えとなると足りん」

「木材を買わないといけないってこと?」

「そうじゃな、そうなると1軒20から30はいくかもしれん」


軽く見積もっても1000万オーバ⋯⋯


「領地の木を切って使うのはダメなの?」

「家に使うなら乾燥させんといけん、

乾燥が不十分で建てると、すぐ反ってしまう」


想定よりも大掛かりな話になりそうだ。


「とりあえず全部建て替えは、長期計画が必要ってことがわかって良かったわ。

じゃ次に、今年の冬を乗り越える修繕なら?」


ジーノが辺りの家を見渡し、考え込む。


「冬を越すってことは隙間を埋めりゃいいんだろ、

なら1日に2・3軒は行けるべ、費用も大したこともないだろ」


やっぱりこれが、一番現実的な方法か。


「事務所が終わってからでも、冬に間に合う?」

「もしやるなら、先に見るだけ見て見積もるが?」

「じゃそれでお願い」

「それじゃ、明後日までには出しておくわ」


そう言ってジーノが立ち上がり、


「別に去年もおんなじ家で冬を越したんじゃ、

今年になったからって、すぐに死んだりはせん」


私が焦っているように見えたのか、

労る言葉を残して、作業に戻っていった。


ジーノの言葉は理解できる、

確かに死にはしないかもしれない。


だからって我慢させていいわけではない。


だって私も知っている。

ボロアパート時代の家の中でさえマイナスの気温で、

灯油代を捻出できずに、布団にくるまりながら凌いだ日々を。


「アシュ、雪が降るのはいつくらいなの?」

「例年通りですと、3ヶ月後の12月中盤ほどかと」

「3ヶ月か⋯⋯」


1300万までならどうにか捻出できる。

木材を買って、大工も外から呼べば⋯⋯


3か月でどうにか出来ないかと頭で組み立てる。


「時間をお金で買――」


突然視界が真っ暗になった。


「お嬢様、多分今考えていることは誰も望みません」


額に感じるアシュの鼓動で、私は抱きしめられていることを知った。


「ジーノさんが言っていたように、

去年も問題なく冬を過ごせました」

「だけど⋯⋯」

「でも今年は、おいしい温かいご飯が食べれて、

何よりも来年は良くなると思えると思います」

「辛くないかな?無理強いしてないのかな?」


私の問いかけに、抱きしめる力が強くなり、

一層アシュの鼓動が大きく聞こえた。


「何事も下準備は大切です。

それを怠れば、良い結果はそうそうでません」

「それは料理の話?」

「全てです」


そっか、全部どうにかしようとする私の悪い癖が出ていたのか。


「ありがとう、アシュ」


アシュの背中に腕を回して、抱きしめ返した。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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