ひまわり油の今後
ユルガ夫人経由の貴族たちの対応に、3週間を要した。
「貴族って、なんであんなにガメついんですかね」
パン工房に久しぶりに顔を出すと、
手分けして貴族の対応をお願いしたユリーが毒づいていた。
「なにか、問題でも起きたの?」
「リズ様!聞いて下さいよ!」
この感じは相当溜まっているようね。
「3万イェンって言っているのに、
2万にすれだの、1本おまけすれだの言ってくるんですよ」
頬を膨らませて、貴族の横柄な対応に不満を漏らしている。
「それで、値切ったりしてきた貴族にはどう対応したのかしら?」
「それはもう⋯⋯、他にも欲しい方がいるので、
そちらに売りますねって言ったら、静かになりました」
笑いながら、貴族相手にも臆さなかったことを教えてくれた。
「ユリーにお願いしたのは、
どちらかというと、階級が低めの貴族だから余裕がないのよ」
「それなら、無理して買わなければいいのに」
「それでも、買わないといけないのが貴族ってものよ」
「そういうものなんですかね」
ユリーを宥めながら、
最終的な契約数を元に、大まかな売上を計算する。
20件近くの貴族と面会し、結んだ契約は11件。
油の契約数が、8件。
「1日の作業者が5人で、作れる油とオイルの量が――」
そろそろ、そろばんでも作るべきかしら。
そんなことを思いながら、紙にいくつかの式を書いて計算を終わらせた。
「1か月のひまわり油の売上は⋯⋯」
パン工房にいる、バンズ、ユリー、アレクが静かにこちらを向いた。
「150万イェンで、利益は90万7千イェンね!」
「⋯⋯」
あれ?みんなの反応がないけど。
「嬢ちゃんよ!」
「なにかしら?」
「シードルの1月の利益はいくらだ?」
「200万くらいね」
なぜか、顔を見合わせる3人。
「なにか不満?」
「不満って言うかよ⋯⋯あれだけ大掛かりにやって半分っていうのは」
「あぁ、そういうことね」
確かに、シードルと比べると今は見劣りする。
「わかっていないわね」
「「???」」
3人の頭に、?が浮かんでいるのが見える。
「ひまわり油は色んなものとして、まだまだ売れるのよ」
「商品が増えるってことですか?」
アレクが珍しく、食いついてきた。
「ひまわり油とラードと灰汁を合わせれば石けんを作れる。
シードルをもっと発酵させると、酢と言うものが出来るんだけど、
これと合わせれば、最高級の髪の美容品を作れたりと、
多岐にわたって、商品を増やせるのよ」
やっと「おぉ」という声が上がって、
ひまわり油のすごさを理解できたようだ。
今はまだ、序章も序章よ。
私がこれまでやってきたことは全て、
『ヴェルデン』という名を広げるという目的に集約している。
ハッシュドポテトを、ヴェルデンイモとして売ったのも、
シードルの樽やオセロに、ヴェルデンの焼印をしているのも全て、
ヴェルデンというブランドを確立するための布石だ。
この世界にはまだ、ブランドというものが生まれきっていない。
どこどこ産のブドウみたいな感じに、
原産地によっての味の優劣は根付いているが、
加工品に関しては、まだの状態だ。
商売は信用が何よりも大切だが、
それは、ぶっちゃけ目に見えるものではない。
だからブランドという、目に見えるものにして、
『ヴェルデン』のものなら、信用出来るという状態を作り上げるのが当面の目標だ。
「前に、領地に人を呼ぶにはどうするべきかって聞いたのを覚えている?」
「あぁ、宿題を出されたから覚えているぜ」
「その答えが、私がやっていることよ」
再度、3人の頭の上に?が浮かんだ。
「来年の今頃には、『ヴェルデン』の物を求めて人が集まるようになるわ」
南への交通路が敷設できれば、こんな遠回りをしなくて済んだが、
できないものを嘆いたってしょうがない。
人の流れを生むために、道を必要としたけど、
今は、人の流れを先に生んで、商人や旅人に南への交通路が必要だと言わせれば、
国だって、少しは重い腰を動かすだろう。
「それじゃ、ジーノのところにいかないけないから」
「いってらっしゃいです」
水車の前では、ジーノとギルにギータが話し合っていた。
「それで、りんごの搾り器は作れそうかしら?」
「おぉ、お嬢ちゃんか、丁度いいときに来た」
以前、シードル用の搾り器とライ麦用の製粉の石臼を、
追加できないかと相談していた。
「ギータに色々聞いて、基本はひまわりと同じ仕組みにする予定じゃ」
「水車の増設は必要?」
「製粉の方は、殻割りの方で問題ないが、シードルの生産量を考えると、
水車を増設して、搾り器を2台は置かないと完全に人の手から離れないな」
「じゃ、生産量を増やすためには3台以上は必要ってことね」
「そうですね」
申し訳無さそうにギータが返事をしてきた。
「何を言っているの、今までが無理をお願いしていただけなんだから」
「ただ、もし全部水車で賄えるとなると⋯⋯」
言い淀んで、先を言っていいのか視線を下に向けた。
「どうしたのかしら?」
「あの⋯⋯今の作業員はどうなるかと思いまして」
作業員には、日給として500イェンを支給している。
1ヶ月5000イェンで暮らしている領民にしたら、
大金を得る機会が無くなるのを危惧しているみたいね。
「大丈夫よ。別の仕事を任せる予定だから、
心配しないように伝えておいて」
「はい!わかりました」
胸を撫で下ろすギータを見ながら、
「水車の増設となると、30万は掛かるわね」
「大部分は、開墾のときの木材を使えるが、
軸に使う樫は仕入れないといけんからな」
その他にも、この世界では釘がやたらと高い。
ジーノとギルは、木組みを駆使して、
出来る限り釘の使用量を減らしてはくれているが、
0というわけにはいかない。
「今は生産量で、シードルの契約を断っているから、
生産効率が上がって、契約を増やせるなら問題ないわ」
「それじゃ、すぐに取り掛かるぞ」
「任せたわ」
貴族の対応も、水車の指示も終わったから、
後、調査団に向けた帳簿のまとめに集中できるわ。
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