公爵夫人からの呼び出し
ユルガ公爵夫人との交渉から2週間近く過ぎると、
夫人から、屋敷に来て欲しいとバートンから伝えられた。
前回と同様に、執事に応接室に通されると、
夫人とフレイナ令嬢がソファに座って待っていた。
「お呼びいただき、ありがとうございます」
ソファに座る前に、あいさつとお辞儀をして座った。
そして、フレイナ令嬢の方に視線を向ける。
前回、目まで覆い隠すほどに伸ばされていた前髪は、
綺麗に短く切られ、大きな目と翡翠色の瞳が顔を出していた。
フェイスラインに塗りたくられていた、白粉も無くなっている。
夫人も、前回よりは白粉が薄い気がする。
「フレイナお嬢様のお悩みが、改善されたようで安心しました」
「あなたが言ったように、オリーブオイルをやめて、
白粉も控えてから、みるみる良くなっていったわ」
夫人の声が、弾んでいるように聞こえる。
「リズ様、本当に感謝しています」
フレイナの屈託のない笑顔に、私は胸がいっぱいになった。
やばい、なんて可愛いのかしら。
こんな笑顔を年頃の男子が見たら、一発でノックアウトよ。
フレイナの笑顔にほだされていると、
「それで、前回約束した件だけども――」
フレイナのニキビが改善した暁には、
半年間の専属契約を交わしてくれるという約束だった。
緩んだ顔を引き締め直し、
「はい、今回はその件でお呼び頂けたと思っております」
「問題が少し起きてしまってね」
「!?」
ここに来て、あれはなかったことにしたいってこと?
公爵夫人とあろう人が、約束を反故にする気なの?
「私とフレイナを見た他の夫人や令嬢たちが、あなたに会いたいと――」
夫人が従者に目で合図をすると、
従者が私に数十枚の手紙を手渡してきた。
「これは⋯⋯?」
「あなたへの呼び出しの手紙よ」
手紙の差出人に軽く目を通す。
手紙には、面会を断られた貴族たちの名前が書かれていた。
中には、西部の貴族の名前まで混ざっている。
「それで、これが問題といいますのは?」
「わからないかしら⋯⋯」
「申し訳ありません、私にはわかりません」
はぁとため息をつき、夫人が視線を外して小さく言う。
「そこまで多いと、オイルが買えなくなるのでないかと⋯⋯」
夫人が赤くなっていた。
なるほど、そんな心配をしたのね。
「夫人は、太陽のオイルをいたく気に入って頂けたみたいですね」
「そうなのよ、数年ぶりにルートンに綺麗だと言われたのよ!」
そういった夫人の顔は、女の顔をしていた。
そういうことね、他の夫人に言われるよりも、
旦那に言われたことが、なによりも嬉しかったみたいね。
「大丈夫です。夫人とフレイナお嬢様のお陰の縁ですので、
優先的に、オイルの方はお売りいたします」
「本当かしら!?それなら助かるわ」
「私も何人かの方に、お食事に誘って頂けました」
もう、あの笑顔に誘惑された人たちがいるとは。
「フレイナお嬢様の場合は、前髪という重いベールで、
可愛らしい顔を隠していただけです」
「そんなことはありません、健康的な肌が綺麗とお褒めいただきました」
声を弾ませて、ウキウキで話してくれた。
「それでは、契約の話をしたいのですがよろしいでしょうか?」
「えぇ、構わないわ」
カバンから契約書を取り出し、
大まかな内容を説明し、サインを貰う。
ユルガ公爵家とは、1か月4本の契約を結んだ。
「ご契約ありがとうございます」
深々と頭を下げて、感謝をする。
広告塔になってくれて、ありがとうという意味合いも含めてだ。
2本のオイルを渡して、応接室を出た。
屋敷に戻って、貰った手紙を一通り読んだ。
大体は、面会を断ったことを謝罪されて、
出来れば面会をお願いしたいという内容だった。
「貴族から謝罪されるってそれなりのことね」
それよりも、西部の手紙が気になった。
内容は、美容オイルだけでなく、
オセロやシードルを一度見させてほしいというものだった。
「相当魅力的な話なんだけど⋯⋯」
西部まで馬車で1日ちょい。
仮に契約を取れたとしても、定期的に物を運べないのよね。
今は、マリーと数名でシードルを納入をしているが、
西部まで手を伸ばすのには、どうしても力不足だ。
「蹴るしかないかなぁ⋯⋯」
うーん、うーんとうめきながらいい方法がないかと考える。
「とりあえず、会うだけ会ってみよう、
物流に関しては、その後考えればいいし」
全員に会うのに1ヶ月は掛かる見込みだ。
そして何よりも、調査団がいつ来るかわからない。
普通、日時を提示するのが常識じゃないの!
なにが近々よ!!
国からの手紙をしわくちゃにして、1人で怒ってみる。
貴族のところに行っている間に来られると面倒だし、
何よりも、税が決まらないと冬の準備が進められないのよ。
とりあえず、貴族たちへ返事を書きはじめる。
稼がないことには、なにも始まらない。
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