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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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命運を掛ける太陽のオイル

私とアシュにマリーは、初めて見る屋敷の大きさに度肝を抜かれた。


「貴族様って、こんなに家に住んでいるんですね」


マリーの声が少し震えて聞こえた。


貧乏領主とはいえ、私の屋敷だって領地では一番大きい。

でも、そんな屋敷が優に10軒は収まる広大さだ。


門から屋敷まで、200メートルはあるだろう。


「南部の半分を統括している公爵様だからね」


はじめての売り込みに、ここを選んだのには理由がある。


オセロが貴族に広がるきっかけになったのが、

ユルガ公爵が気に入ってくれたことが大きかった。


バートン経由でアポをお願いしたら、

2、3返事で了承してくれたのも、ヴェルデンに興味がある証だと思っている。


「待たせたら悪いから、早く行きましょう」


門の守衛に、公爵夫人との約束で来たことを伝えると、

話は聞いていると言って、簡単に門を通してくれた。



屋敷の入口の前には執事が待っており、応接室に案内された。


執事が、「奥様はすぐに参ります」と言って部屋を出ていった。


ソファに座りながら応接室を見渡し、

夫人が来るのを待った。


置かれているインテリア類もさることながら、

見えるところに、塵一つとない行き届いた手入れ。


「ここにあるものだけで、数年は暮らせそうね」

「⋯⋯」


完全に飲まれているマリーに、


「緊急したって意味ないわよ、

私たちは、ただひまわりオイルを売り込みだけ」

「⋯⋯はい」


返事に余裕が感じられない。



扉が開き、夫人と私と同じくらいの女の子が入ってきた。


立ち上がって、夫人と女の子が椅子に座るのを待って、


「忙しい中、お時間をいただきありがとうございます」


元の世界のありきたりな挨拶を伝えた。


「話は聞いているわ、オイルを作ったとか」


声には、こちらを窺う様な圧を感じた。


「はい、新商品の『太陽のオイル』をお持ちしました」


木箱をテーブルに置き、開いて見せる。

中には、陶器の瓶が3本入っている。


「ガラス瓶ではないのかしら?」

「申し訳ありません、こちらは試供品となりますので、

陶器の瓶を使わせていただいております」

「あら、くれるというの?」

「はい」


夫人であろうと、美容オイルがタダということに食いついてきた。


「お肌に使うものですから、人によって合う合わないがございます、

ですので、試供品で使用感を確かめていただきたいのです」

「言うことは、立派ね」

「普段はどのようなオイルをお使いでしょうか?」

「最高級のオリーブオイルを使っているわ」


それを聞きながら、夫人の横に座る令嬢に目を向けた。


髪は綺麗に結われ、服だって綺麗なドレスを着ているが、

前髪が目を隠してしまうほど伸ばされていた。


そして、フェイスラインに異様に塗られている白粉が気になる。


「失礼ですが、お嬢様はおいくつでいらっしゃいますか?」


私の不意な質問に、不思議そうにしたが、


「⋯⋯14です」

「それでは、私の1個下になりますね」

「それがどうしたっていうのかしら」


その年齢で、おでことフェイスラインを異様に隠す理由は1つしかない。


「お嬢様は、ニキビで悩まれておりますね」

「!?」


驚きと羞恥心で、顔を手で隠した。


「わかりますわ、年頃ですから気になってしまいますよね」

「それで?何がいいたいのかしら?」


夫人の声に、棘が混ざる。


「確実ではありませんが、お嬢様はオリーブオイルが合わないかと」

「なにを言ってるの!!」


とうとう夫人が立ち上がってしまった。


「丁度私たちの年齢は、ニキビが出やすい身体になっております」


思春期だのホルモンバランスだの言っても伝わらないだろう。


「そんなときに、オリーブオイルを多用してしまいますと、

ニキビの発生を逆に助けてしまうのです」


私は立ち上がり、令嬢の元に近寄った。


「お嬢様、失礼しますわ」


令嬢の頬を軽く撫でると、ベタつく感触が指に伝わる。


「お嬢様、私の頬を触って頂けますか?」


私の提案に驚きながらも、恐る恐る手を伸ばし、

頬に指が触れた。


「おわかり頂けますか?」


うんうんと、小さく、そして強く顔が振れた。


「フレイナ、何が違うの?」

「⋯⋯全然ベタついておりません」

「何も塗っていないんじゃないの」


そう疑うのは普通の反応だ。


「私も、こちらにいるマリーとアシュも、

毎日このオイルを手、顔、髪に使用しております」

「髪も触っていいですか?」


私は、笑顔で答える。


「どうぞ、いくらでも触って下さい」


後ろを向いて、令嬢が髪を丹念に触っているのを感触で感じる。


「お母様、すごいですわ。指がすんなりと通ってベタついておりません」

「私にも触らせなさい」


令嬢の反応に触発され、夫人も私の髪に指を通した。


「すごいわ、オリーブオイルではこんなサラサラにならないわ」

「私たちのオイルは、ベタつきにくく、サラリと伸びます」


席に戻って、オリーブオイルと太陽のオイルの違いを丹念に説明をし、

太陽のオイルが、日常使いに向いていることを伝えた。


「それで、おいくらかしら?」

「一瓶3万イェンです」

「いい値段を言うわね」


皮肉のように夫人が価格に触れるけど、


「このオイルはうちだけのものです。

オリーブオイルやアーモンドオイルのように、他からは手に入りません」

「それって、本当に大丈夫なものかしら?」


まぁ、これも当然の疑問だ。

だから、私はこう行動をする。


「失礼します」


木箱から一瓶を手に取り、手と顔に軽く塗ってみせた。

ベタつきも無く、簡単に伸びてくれる。


「触ってみて下さい」


オイルを塗った手の甲を2人の方に差し出す。


「本当に、ベタついてないわね」


使用感は納得してくれたようだ。

それなら、最後に必要なことは、


「不快な振る舞いを先にお詫びいたします」


瓶の中に、まだオイルが残っていることを確認してもらい、

私は、その瓶を口に運んで上を向いた。


「な、何をやっているの?」

「リズ様!?」


夫人だけではなく、マリーとアシュも驚かせてしまった。


ゴクリと、わざとらしく喉を鳴らして飲み込んだ。


そして、掌の上で瓶を逆さまにして、

中身が完全に無くなったことを示した。


「私は、私の商品に自信があります。

元は調理にも使えるオイルですので、飲んでも問題はありません」

「そこまでするのに、原材料は明かせないと?」

「申し訳ありません、模造品、粗悪品の問題がありますので、

今はまだ明かすことが出来ません」


夫人な眉間にシワを寄せながら何かを考えている。


普通に試供品を受け取って、軽く使ってくれればいいのにと、

内心では思っている。


「⋯⋯あの――」


フレイナお嬢様が、静かに質問をしてきた。


「これを使えば、ニキビは良くなるのでしょうか」

「お嬢様の場合は単純にオイルと合わないだけです。

不安だと思いますが、オイルと白粉を1週間控えるだけで改善すると思います」


普通の商人なら、オイルを変えることで治りますとか言っちゃうんだろうな。


「ただ、良くなってもまたオリーブオイルを使い出すと元に戻ってしまうので、

その時は、こちらのオイルを使っていただけると良いかと」


それを聞いたフレイナお嬢様が夫人の方を向く。


「わかったわ、試供品はありがたくいただきます。

そして、もしあなたの言うようにフレイナのニキビが改善したなら――」


無意識に私は、隣に座るマリーの手を握っていた。


「半年間の専属契約を約束してあげるわ」

「「ありがとうございます」」


頭を下げて、お礼を言いながらマリーの手を強く握り、

マリーも握り返してきてくれた。


「フレイナのニキビもだけど、髪がベタつかないで、

あなたたちの髪のように綺麗になれるなら、十分買いよ」


夫人は、マリーとアシュの方を見て、

軽く微笑んでいた。



公爵邸を出て、領地へ戻る荷馬車で、


「うまくいってよかったです」


荷台で完全に力が抜けているマリー。


「令嬢がニキビに悩んでいてくれたお陰ね。

それがなければ、4割くらいだったかも」

「それって低くないですか?」

「シードルだって、そのくらいじゃない?」


そう言われればと、手を叩いて納得したようだ。


「でも、シードルのように1日に何件も回れないのは痛いわね」

「そうですね」


それでも、フレイナ令嬢のニキビが良くなって、

お茶会で話題にしてくれれば、アポを断った他の貴族の方から声を掛けてくるだろう。


お願いだから、いい広告塔になってね。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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