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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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初搾り

木が軋む音が、小屋の中に響き渡る。


頬が触れ合う距離で、顔を近づけあって

搾油機の下部に付いているノズルをみんなで凝視し続ける。


「⋯⋯まだか?」


ジーノが焦れったい様子で呟いた。


ギギッと音が大きくなったと思うと、

ピタッと音が止まった。


「壊れたか!?」


ギルが不安そうに、搾油機の上部の木製のネジの部分を見上げる。


「最後の方のネジ山を細かくしているから、

こっからはゆっくりなんじゃ」


キュッキュッと、高い音に変わると、

ノズルから一滴、樽へと滴り落ちた。


それを見て、ゴクリとつばを飲む。


徐々に、2滴、3滴と滴り。


いつしか、止まること無く、

濃厚な琥珀色の液体が流れ始めた。


「⋯⋯で、出たわ!」


止めどなく出てくる液体を見て、


「やったわ!⋯⋯イッタ!!!」

「オッブゥ⋯⋯」


嬉しさのあまり立ち上がると、

頭に強烈な衝撃を受け、頭を抱えてしゃがみ込んだ。


背後で、バンズのうめき声が聞こえる。


「お嬢様、大丈夫ですか!?」


アシュが、慌てて駆け寄ってくる。

みんなも私の心配をする。


「おい、俺の心配はないのかよ!」


被害者であるバンズに、誰も駆け寄っていなかった。


「⋯⋯ごめんなさいね」


頭を擦りながら、バンズに謝った。


「それよりも、ひまわり油じゃ」


ジーノの一言に、再度ノズルに視線を向けると、

油はまだ出続けていた。


「⋯⋯すごいわ」


思わず心の声が出てしまった。


「あのお化け花から、油が取れるなんて⋯⋯」


ギルが、感慨深げに言った。


「これでやっと⋯⋯領地を救える」


ずっと流れ続けるひまわり油を見て、

胸が一杯になった。


シードルに続く商品に悩んでいた中で、

子供達が教えてくれたお陰ね。


ジーノとギルが、搾油機に問題ないかを確認し、

領民に作業を引き継いで、

ギルの作業場に移動することにした。



作業台を囲むように、みんな座ったのを確認して、


「油を搾るところまで来たわ」


作業台を軽く叩いて、成功を称えた。


「それで、油の用途はなんじゃ?」


ジーノが聞いてきた。


「基本的には、炒め物などの調理用なんだけど⋯⋯」


間を少し置いて、人差し指を立てて、


「石鹸や肌に塗るといった美容にも使えるのよ」

「じゃ、貴族様向けってことか?」


バンズが、鋭い質問をする。


「両方よ!」

「「両方?」」


みんな口を揃えて聞き返した。


「一般層には、簡単な処理をしたものを販売し、

貴族向けには、香料を混ぜて付加価値を加えて売るわ」

「そんなんで、売れるのか?」


チッチッチッと、人差し指を左右に振って、


「売れるか?じゃなくて、売るのよ!」

「って言ってもよ⋯⋯」


バンズが言いたいことはわかる。

事前に、布石は打ってある。


「私が、なぜ模造されやすいオセロを売ったかわかる?」

「少しでも売上を増やすためじゃないのか?」

「それもあるけど、今のオセロの買い手の8割が貴族なのよ」


これを聞いて、何人かは理解したようだ。


「オセロのお陰で、『ヴェルデン』という名は少なからず広まっているわ」

「そういうことか」

「そう、バーカスからオセロを買った貴族の名簿は買ってあるから、

その貴族に、試供品として渡すだけでいい」


ゴクリとみんなが息を呑んだ。

ダメ押しと言わんばかりに、私は続ける。


「後は使った貴族が、お茶会や夜会で宣伝してくれるってわけよ」

「そこまで、先を見ていたのかよ!」


バンズが作業台を叩いて、感心しているようだった。


貴族は、オリーブ製のオイルと石けんを使っているが、

これは、馴染みにくくてベタつきやすい。


その点ひまわり油であれば、馴染みやすくてベタつかない上に、

香りを付加しやすいから、日常的に使える。


「一般層向けはどうするんだ?」

「そっちは、ラードを多く混ぜた石けんを売るわ」

「ラードの量で差別化するんじゃな」

「そうよ」


とはいっても、石けんの製作はオイルが売れてからだ。


まずは、ひまわり油とひまわりオイルを普及させないと、

話が進まない。


「まずは、ジーノとギルは水車と設備が壊れないように注意して」

「へい」「はい」

「ガリルは、種がネズミや鳥に取られないように」

「わかったぜ」

「バンズは⋯⋯、特にないわね」

「だよな」


これにはみんなして笑いあった。


笑いが収まったタイミングで手を叩いて、


「よく聞いて!ひまわり油が上手くいくかコケるかで、

ヴェルデンが大きく発展するかが変わるわ」


さっきまでの笑って緩んでいた顔が、一気に引き締まった。


「シードルもよく稼いでくれているけど、

領地を生まれ変わらせるには足りないの」


瞼を閉じて、ゆっくりと息を吸う。


領主邸の修繕もしたい。

領民のツギハギだらけの家だって直してあげたい。

生きるためだけの食事から、楽しい食事へと変えたい。


はじめて領地に来たときに見た、

『今日も硬いパン』と言った痩せた子供も、

それを申し訳なく頭を下げる母親も忘れられなかった。


瞼を開け、


「ひまわり油が成功すれば、今年の冬は間違いなく暖かく過ごせるわ」

「おう」「楽しみだぜ」「はい」

「それじゃ、持ち場に戻って」


号令と共に、各々が持ち場へと戻っていった。


後は、私とマリーの腕の見せ所ね。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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