勘違いって誰でもあるよね
宴会の翌日、私は脱穀機と搾油機の製作を一旦止める事態に陥った。
「潰しすぎだな」
石臼から出てきたひまわりの種を見て、
ジーノが渋い顔をしながら唸る。
私は石臼で殻を割って、風選で実を選り分けて、
それを潰せば油が取れると思っていた。
でも、実際は殻だけじゃなく実まで潰してしまっていた。
「これじゃ、風選出来ないわね」
手に乗せた粉に息を吹きかけると、
殻も実も一緒に飛んでいった。
「バンズがライ麦の脱穀を石臼でやっていると⋯⋯」
「それ、勘違いしてんなぁ」
ジーノの言っていることが理解できなかった。
「どういうこと?」
「脱穀で石臼を使うなんて聞いたことねぇぞ」
やっぱり、聞き間違いじゃなかった。
「アシュ、バンズを呼んで来てもらえる」
「かしこまりました」
「あっ、それとガリルもお願い」
アシュは頷いて走っていった。
はじめから工程を勘違いしていたってこと?
殻を割るだけの工程を考えないと、
元の世界で見た工程を何種類も思い出す。
バンズとガリルが到着して、これまでの話を伝える。
「あぁ、多分ですが領民のほとんどが、
間違って覚えていると思いますぜ」
ガリルはよくあることだと答える。
「どういうこと?」
「ちげぇのかよ?」
バンズと一緒にどこが間違いかと聞き返した。
「ライ麦を叩くまでが脱穀で、石臼で挽くのは製粉ぜ」
「でもよ、ガキの頃からみんな言ってたぞ」
「まぁ、ここでは脱穀と製粉を一緒にやっていたから、
いつの間にか、一緒くたになったんだろな」
なるほどと思ったが、私は脱穀に石臼を使うと思っていた。
「まだ水車までしか作ってないなら、問題ないんじゃ?」
ガリルが笑って、取り返しがつかない段階ではないことを教えてくれた。
これを聞いて、やっと冷静になれた。
「そうね、とりあえず殻を割るだけの方法がいるようね」
それからは、みんなでどういう工程がいいかを思案しあった。
実際に、ジーノたちに小さい試作機を作ってもらい、
本当に油が絞れるのかを何度も繰り返し、
気がつけば、3週間が過ぎていた。
うなだれたひまわりが、収穫の時期を告げる。
「うん、種も固くなっていい感じね」
「これなら、天日干しもすぐ終わりますぜ」
「それじゃ⋯⋯収穫開始!!」
鎌を持った領民30人が合図とともに、ひまわりの茎に鎌を入れていく。
「早く収穫しないと、鳥やネズミに食べられてしまうわ」
私も鎌を手に、ひまわりを刈り取っていく。
計算すると、ここには1万5千本近くのひまわりが咲いている。
これを、5日間で全部刈り取る予定でいる。
30本ほど刈り取ると、鎌を握る手に力が入らなくなった。
何もしていないのに、右手が勝手に震える。
「15歳には、重労働だわ」
他の人達は大丈夫かしら。
「お嬢様、もうへばったのかい?」
ガリルが意地悪な言い方で聞いてくる。
前なら、負けん気が出て無理に頑張ったけど、
今の私は15歳のリズなのよね。
「もう、ヘトヘトよ」
肩の力を抜いて見せた。
「俺達がやるから無理しなさんな、
こっちは任せて、種取りの方を見てきてくれ」
ガリルの優しさに胸を打たれ、
お言葉に甘えてひまわり畑を後にした。
種取り場では、木製の網に押し付けて種を取ってもらっている。
女性たちが多いけど、
こっちもこっちで重労働そうだ。
一応念のために、お母様がいないか確認したけど、
こっちには来ていないようで、胸を撫で下ろした。
あまりジロジロ見ても申し訳ないので、
ついでに、ジーノたちの水車の方にも寄ってみる。
川に近づくと、涼しい風が熱くなった身体を癒してくれる。
水車の横には、小屋が出来上がっていた。
「順調ですか?」
「お嬢様、こちらは滞りありません」
小屋の屋根で金槌を振るギルが返事をしてくれた。
「ジーノは?」
「おやっさんなら、中にいます」
中では、ジーノが黙々と作業をしていた。
「順調かしら?」
「おう、こっちは最終段階だな」
ジーノが調整していたのは、殻割り用の設備だった。
最終的に、杵を打ち付けて殻を割って、
風選したあとに、木のローラーの間を通して軽く実を割る工程になった。
「試しに、動きを見ていくか?」
「お願いするわ」
ジーノがギルに杵を動かすことを叫んで伝ると、
杵を固定していたロープを取った。
水車の軸から伸びた棒が、杵を持ち上げて、
一定の高さまで行くと棒が外れて、杵が自由落下をして殻を割っていく。
数度の打ち込みをした種を見ると、
見事に殻が割れている。
「実も大きく割れていないわね」
「杵の高さ調整には苦労したからな」
その後に、風選と粗挽きの工程も見て、
これなら行けると実感できた。
「本当に、試しに石臼でやってよかったわ」
「あれがなきゃ、半月は伸びてたからな」
今だから笑って話せることだけど、
本当に冷や汗ものだったんだから。
「この水車って、これ以上の装置を追加するのは難しい?」
「ものによるんじゃねぇか、なにが希望だ」
今はひまわり油用に作っているけど、
「ライ麦の製粉とりんごの搾りがほしいの」
「そうじゃな、それらも使えたら楽になるな」
うーんと唸りながら考えてくれる。
「すぐにはわからんが、なんか考えておくわ」
「お願いね」
シードルに関しては、今や32件と契約を結んで、
月に350万イェン、1月で税収の3ヶ月分を稼ぐまでに成長している。
ただ、今の人力ではそろそろ限界に達しかけている。
会うたびに、ギータが泣きついてくるのが何よりの証だ。
それでも、シードルよりも先にひまわり油に投資したのは、
ひまわり油はそれさえも大きく凌ぐ見積もりだからだ。
シードルだけでは届かない、年間1億イェンが届く距離まで行ける。
そうすれば、やっと貧乏領地から脱出出来る。
そのためにも、脱穀を石臼するなんて、
ありえないポカはなくしていかないといけないわね。
種の天日干しが終わる、来週が楽しみでならない。
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