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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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30/78

きっかけなんてなんでもよかった

昼過ぎにオセロ広場に行くと、昨日以上の人が集まっていた。


「やったー3連勝だ!」

「次よ!すぐに次やろう!」


子供も大人も、ましてや性別関係なく、

オセロに夢中になっているのを見ると、

娯楽って必要だなとしみじみ思った。


「何やっているんだ?」


領外から来た人に尋ねられた。


「ヴェルデン生まれの新しい娯楽よ」

「新しい娯楽ね⋯⋯」


ルールを説明して、子供と対戦させてみると、


「挟むだけなのに、こんなに難しいんだ」


と、首を傾げながら順番待ちの列に並び直していた。


そんな光景を微笑ましく眺めていると、

後ろから、聞き慣れた声に呼ばれた。


「リズ様、バーカスでございます」


振り向くと、唯一うちに出入りしている商人が立っていた。


「バーカスさん、お久しぶりね」

「樽を納めに参りましたら、こちらのほうが賑わっておりましたので、

少しばかり寄らせていただきました」


完璧なタイミングでバーカスが来てくれた。


「ねぇ、新しい娯楽に興味はありませんか?」


最高の笑顔で、バーカスに問いかける。



「ほうほう、なるほど、これは面白いですね」


1回遊んだ後に、遊んでいる人たちを見て、


「それで、リズ様はこれをおいくらで売っていただけると?」

「話が早くて嬉しいわ」


はじめは領外の人に1個ずつ売る予定だったけど、

バーカスならまとめて買ってくれるはずだ。


「1個2000イェンで、30個すぐに渡せるわ」

「結構強気な価格ですね」

「そりゃ、流行を作る商品ですから」


この世界の娯楽はたかが知れている。


子供は野山を走り回るか、石を的に当てて遊ぶ。

大人は酒を飲んで酔うのが、平民の娯楽だ。


貴族だとしても、お茶会や夜会などをするか、

年に数回の狩りしか娯楽はない。


「酒場で1回10イェンで遊べるように置いたりとか、

貴族に、知能遊戯だと言って売り込めば結構売れると思うわよ」

「なるほど⋯⋯」


腕を組みながら静かに考え込むバーカス。

頭の中で、計算しているのだろう。


何度かの唸りの後に、


「わかりました、30個買わせていただきます」

「お買い上げ、ありがとうございます」


ジーノの作業場で、オセロの引き渡しを行った。


「リズ様、こういうとおかしいかも知れませんが⋯⋯」

「簡単に模倣されるって話でしょ」

「気づいておられましたか」


驚嘆して、眉を一瞬持ち上げるバーカス。


「一応家門の焼印を入れてはいるけど、

模造は気にしないわ」

「豪胆でございますね」

「まぁ、売るときには『ヴェルデンのオセロ』とは、

伝えて貰えると助かるわ」

「かしこまりました」


バーカスとの取引が終わり、荷馬車に乗って去っていった。



「ということで、ジーノさん30個追加依頼ね」

「はいはい、2日後に取りに来な」


ジーノの作業の早さと精巧さには本当に驚いている。


「これを水車に向けてほしいのに⋯⋯」

「なんか言ったか?」


思わず、心の声が口に出てしまった。


「材料を取りにいくときに、ギルさんの様子を見ていると思うけど、

うまくいくと思いますか?」

「なんでワシに聞く?」

「ジーノさんなら、ギルさんが躓いている原因とか、

わかるんじゃないかと思って」

「⋯⋯」


黙り込んでしまった。


これ以上聞くとヘソを曲げそうなので、

作業場を出ようとした。


「若造に伝えろ。円に固執しすぎだってな」

「え!?」


振り向いたときには、ジーノは奥に戻っていた。


「円に固執しすぎ?」


私には、わからなくても、

ギルに伝えれば通じることなのかしら?


とりあえず、ギルの作業場へと向かった。



昨日と変わらずに、ギルは軸の削り出しに没頭している。


「どうですか?」

「お嬢様⋯⋯」


作業の手を止めて、こちらを向いた顔には、

疲労が色濃く出ていた。


「ギルさん!休んでいますか?」

「えぇ、休んでいます」


声に覇気を感じられなくなっている。


作業場の隅にあった失敗作は、1日で倍近くになっている。


「今日は、作業をするのを禁止します」


苦渋の決断ではあるが、ギルを使い潰す気はない。


「ですが、2機分の軸を作らないといけません」

「わかってはいるけど、あなたに倒れられる方が困るのよ」


これを聞いて、見るからに落ち込むギル。


「申し訳ないです、足を引っ張ってしまい」

「焦ってやっても、いいものは作れないわ」

「はい⋯⋯」


今伝えていいのか悩んだけど、

このままじゃ、自分を責めそうなので伝えることにした。


「ジーノさんがね⋯⋯」

「え!?ジーノさんがなにか言っていましたか?」


ジーノの名前を出した途端、沈んでいた顔が、

一瞬明るくなっていた。


「円に固執しすぎだと言っていました」

「円に固執⋯⋯」


目を閉じて考えている。


「伝えたからね。今日はしっかり休みなさいね」

「わかりました」


返事はしてくれたけど、

ぶつくさ言いながら、図面とにらめっこするギル。



ジーノの助言から1週間が経った。


何度かギルの作業場に顔を出したが、

軸が完成する様子は無かった。


逆に、ジーノの助言がギルを堂々巡りさせてしまった感まである。


「200万かぁ⋯⋯」


外注の見積もりを見ながら、

そろそろ決断しないといけないと、私も焦っていた。


200万イェンは別に出せない額ではない。


ただここまで引っ張ってしまったことで、

お金以上に失うものが出来てしまった。


「はじめから外注に出せば、ここまで悩まなかったわね」


ため息しか出ない。


廊下を走る音が聞こえ、その音が次第に近づいてきて、

私の部屋で止まったと思うと、扉が勢いよく開いた。


ナツが、慌てた様子で駆け込んで来て、


「お嬢様!ジーノ様とギル様が――」


ナツの慌てようを見ると、

1ヶ月前の、ハシュの騒動が頭に浮かんだ。


「取っ組み合いでもはじめたのかしら」

「一緒に作業されておりました」

「え?」


ナツの言ったことが理解できず、

聞き間違えかとさえ思った。



急いで、ギルの作業場に向かうと、

確かに、ジーノとギルが図面を見ながら話し合っている。


「どういうことかしら?」


どういった経緯で、こうなったのかを聞こうと声をかけると、


「どうしたのその顔!!」


こちらを向いた2人の顔には、アザが出来ていた。



2人を座らせて話を聞く、


「昨日、ギルがジーノのところに教えを乞いに行ったと」

「はい、いくら頼んでも聞く耳を持たない態度にイラッとしてしまい、

『お嬢様が領地のために、水車が欲しいと言っているのに、

いつまでガキのようにヘソを曲げているんだ』と言ってしまいました」


ギルの気持ちは十分わかる。

多分、私が20とか30歳なら相当前にキレていたから。


「それで、ジーノはどうしたの?」

「お嬢ちゃん、なんで呼び捨てなんだ?」

「いい年した大人が、アザをこしらえているんだから、

敬称なんていらないでしょ」

「⋯⋯、ワシだって、ヘソを曲げているわけじゃねぇ、

ただ、ワシの想いを踏みにじられたままなのが許せねぇんだ」

「それで?」


2人は顔を見合わせてモジモジしながら、


「はじめは口喧嘩だったんですが、

気がついたらお互い手が出て、こんな有様に」


ギルが目の周りのアザを指さした。


「喧嘩した経緯はわかったけど、

ジーノが手伝い出した理由がわからないわ」


ジーノを見て問いかけるが、

そっぽを向いて応えようとしない。


「ジーノさん⋯⋯」


ギルが嗜めるように声を掛ける。


ジーノがそっぽを向いたまま腕を組んでこたえる。


「ふん!お嬢ちゃんが悪いんだぜ」

「私?」


急にこっちに矛先が向いた気がして驚いた。


「はじめから、水車を作ってくれって言わずに、

領地のためにって言わねぇから」

「え?」


どういうこと?全く理解できないんだけど!


戸惑う私を見て、ギルが付け加えてくれた。


「要はですね、お嬢様は領地を良くするために、

水車が必要だということを言わなかったからヘソを曲げたと」

「誰がヘソを曲げたって!」

「ジーノ!静かに」

「へい」

「本当にそれだけなの?」


そんなことで、私はこの2週間近く悩んでいたの?


「多分ですが、理由は何でも良かったんだと思います」


ギルがジーノの気持ちを代弁する。


「はじめは本当に、誇りを踏みにじられたことだとは思います。

でも、お嬢様や他の人の頑張っているのを見て、

動き出すきっかけを待っていただけかと」


きっかけを待っていたって⋯⋯


私は立ち上がって、ジーノの前に立った。


「ジーノ!」

「なんじゃ?」

「私はこの領地を豊かにするわ。そのためにはみんなの力が必要なの」

「⋯⋯」


すっとジーノに手を出す。


「あなたの力も貸してくれないかしら」


そっぽを向いていた顔が、手に向けられたが、

じっと見つめたまま手を取ろうとはしなかった。


この流れで、ヘソを曲げ直すの?

なんてことを考えていると、


ジーノが足を叩いてから、


「ふん!それを早く言え!」


不貞腐れたことをいいながら手を取ってくれた。




「じゃ、これはもう要らなくなったわ」


ポケットから取り出した、200万イェンの見積もり。


「外に出すつもりだったのですか?」


はじめて知ったギルは動揺しているが、


「本当の最終手段として、用意はしていたわ」

「作るだけで200万とは、ボッタクリもいいところじゃ」

「2人のお陰で、払わなくて良くなったわ」


2人の目の前で見積もりをビリビリに破って捨てた。


「これで、後戻り出来なくなったからね」

「ふん、外の奴らよりいいもの作ってやるわい」

「絶対に作ってみせます!」


結局最後は、作業の邪魔だと、

ジーノに追い出されてしまった。


「ねぇ、アシュ」

「なんでしょうか?」

「私の伝え方が悪かったのかしら?」

「人って難しいですね」

「ほんとよね」


アハハハとアシュと笑いあって、屋敷に続く道を歩いた。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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