ヘソを曲げた職人
昨日、お父様にジーノを任されてしまったが、
本音を言うなら、かまっていられない。
収穫までに、水車の完成は絶対条件だ。
「水車を2機作って欲しいの」
「お嬢様、水車は⋯⋯」
牛小屋を頼んだ若い大工のギルは、
困った顔をしてきた。
「作れないの?」
「やってやれなくはないですが、
なにぶん、自分も初めて作るので、どれくらい掛かるか⋯⋯」
一瞬、視線を逸らすギル。
「水車ってそんなに難しいの?」
「水車のキモは、軸と軸受なんですが、
この2つが悪いと、すぐに軸が折れます」
難しい顔をしている私を見て、
ギルが追加で説明してくれた。
「両方とも、硬い樫の木を使うのですが、
それを2m近く反りもなく削り出して、
芯を出すのは並大抵のことではありません」
ギルの言葉で、モヤモヤが晴れた。
「軸受も真円にするのが難しいと」
「そういうことです」
目を閉じて考える。
首を縦に振らないジーノを説得するか、
試行錯誤が必要なギルのどちらに任せるか。
時間を取るか、不確実でも今動かすか、
両方を天秤にかけて、
「ギル、とりあえずはあなたに任せるわ」
「わかりません、すぐに取り掛かります」
ギルとの打ち合わせを終え、
ジーノの作業場へ行く道中で、
「アシュ、念の為他領の大工に見積もりを取っておいてもらえる」
「かしこまりました」
ギルもジーノもダメだったための、
最終手段は用意しておかないとまずい状況だ。
「ジーノさん、居ますか?」
少しすると、奥の方からジーノが顔を出した。
「なんだ、昨日のお嬢ちゃんか」
私の顔を見て、あからさまに嫌な顔をした。
「それで、今日は何の用だ?」
「今日は、別の仕事を頼みに来ました」
「ほう」
水車のときは嫌がったのに、
他の仕事ならすんなり話を聞いてくれそうだ。
私は、簡単に描いた図面をジーノに渡した。
「それで、なんだこれは?」
「オセロってものです」
子供達が牛を見たり、ひまわりを見に行ったりしてるのを見て、
この世界には、子供向けの娯楽が足りないと思った。
「開墾で出た木材が余っているので、
それを使って、オセロを10個作って下さい」
「納期は?」
「3日でどうですか」
「こんなもんに、3日もいらんわ」
水車にそのやる気を向けてくれれば、
頭を悩まさなくていいのにと思ってしまった。
「材料はどこに取りに行けばいい?」
「”ギルさん”のところです」
「うんじゃ、材料を取り行くから、
帰った、帰った」
ジーノに、私とアシュは背中を押されて、
作業場から押し出された。
見積もりを見て、私は叫んだ。
「工賃だけで、200万!!」
水車が難しいのはわかるけど、
「家1軒と同じ値段って」
見積もりを放り投げ、肩を落とす。
「最終手段とは言え、本当に最終手段ね」
納期は、半月と書かれているので、
外注に出すなら、判断も早くしないといけない。
「ほんと、ままならないわね」
天井を見上げ、思い通りに進まないもどかしさを嘆いた。
「お嬢様、領地に行く時間です」
「わかった、今行くわ」
いつもなら、パン屋に先に行くのに、
見積もりの件もあって、ギルの作業場に向かった。
「調子はどうかしら?」
「思っていた以上に難しいですね」
汗を流し、必死に木を削るギル。
作業場の隅には、失敗した木材が重ねられていた。
「軸以外の部分を先にやったら?」
「そちらは、仲間の方で進めています」
私が心配することでは無かったようね。
「まだ3日しか経っていないのだから、
無理をして倒れたりしないでね」
「はい!気をつけます」
長く居ても、邪魔になるだけだと思い、
作業場を離れようとしたとき、裏から材料を抱えたジーノが出てきた。
「ジーノさんの方は順調ですか?」
「ふん、追加の30個なら夕方には出来上がるわ」
「本当に早いわね」
はじめの10個なんて、1日で作って来て、
追加分は2日で作ってしまうとわ。
感心していると、ジーノの視線がチラチラとギルに向けられていた。
「気になるかしら?」
「知らんわ!」
拗ねた子供のように、去っていった。
「完全に無関心ってわけではなさそうね」
「お嬢様、子供達との約束時間です」
「そうね」
まだ3日だと、言い聞かせてパン屋へ向かった。
パン屋の前には、ハルとナツに頼んで、
簡易的な長椅子と長テーブルを用意させていた。
祭りで、型抜きをするような感じだ。
「結構集まったわね」
昨日声を掛けたのに、20人以上が集まってくれた。
「それじゃ、今から新しい遊びを教えるわね!」
向かい合って座るように指示をすると、
さっきまで騒がしかった子供達が、すんなりと言うことを聞いた。
テーブルの上に置いてあるオセロを見て、
みんな不思議そうにしている。
「目の前にあるのを使うんだけど⋯⋯」
子供達に、オセロのルールを説明し、
実際に遊ばしてみると、飲み込みが早かった。
「いっただき!」
「あぁ~また負けちゃたよ」
方方からいろんな声が上がって、
楽しんでくれているようだ。
「リズ様、どうやったら勝てますか?」
女の子が悔しそうな顔でアドバイスを聞いてきた。
「そうね~⋯⋯」
女の子の耳元で、小さくアドバイスを伝えた、
「おいずるいぞ!リズ様に教えてもらうなんて」
「男の子は、小さいことを気にしないの」
「セコっ、それでも俺が勝つけどな!」
気がつけば、大人たちも気になって、
集まりだしていた。
夕方を前に、大人も混じってワイワイとオセロに興じている。
「子供だけかと思ったけど、大人も遊ぶのね」
中には、大人を負かす子供も居たりする。
「これなら、追加分が無駄にならなさそうね」
日が暮れ始め、オセロ広場の閉店の時間だ。
「今日はもうおしまいよ」
「「え~」」
子供だけじゃなくて、大人からも不満の声が上がった。
「明日も昼過ぎから、この時間まで置いておくから、
好きに遊んで」
「はーい!」
反応は上々だった。
明日これを見た、他領の人の反応が楽しみだ。
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