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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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28/77

うまくいきません

ひまわりを見つけてから、急ピッチで動きはじめた。


油の抽出に必要な種は、花が枯れてからじゃないといけない。


だから、今のうちに工程の検討やひまわり畑までの道の整備など、

やることが山積みだ。


畑までの森の切り開きは、ガリルに頼んで手配済みだが、

脱穀機と搾油機をどうするかが問題。



「ねぇバンズ、ライ麦の脱穀てどうやっているのかしら」

「今は領民総出で、石臼でやっているぜ」

「だよねぇ――」


人力での石臼か、大量生産には不向きね。


「でも7年前までは、水車を使ってたけどな」

「!?、水車があったの!」


水車というワードに、条件反射的に作業台に身を乗り出し、

バンズの顔に顔を近づけた。


きっと興奮した私の鼻息が届いていただろう。


「嬢ちゃん、顔がちけぇって」


私の顔を押し戻して、バンズが教えてくれた。


「7年か8年前の大雨で、川が氾濫したときに、

流されちまったけどよ」

「作り直さなかったの?」

「多分、そんな余裕がなかったんだろ」

「そうよね」


お父様の判断は理解できる。


水車があれば、大量生産が容易になるわ。


「その水車って、誰が作ったの?」

「大工のジーノっておやっさんだ」

「牛の小屋を頼んだ人とは違うのね」

「だけど、作ってくれるかわからんぞ」

「どういうこと?」


バンズも詳しいことを知らないようだけど、

7年前に、水車絡みでなにかがあったとだけ教えてくれた。



バンズに教えてもらった、ジーノの家は、

住居の横に作業場が並んでいた。


「失礼します」


作業場を覗いてみても、人の気配がまったくない。


工具は整理され、綺麗に並べられているが、


「ホコリが積もっているわね」


作業台を指でなぞると、木くずではなくホコリが付いてきた。


「ジーノさん、いませんか?」


大きい声で何度も呼んでみる。


「留守かしら?」


アシュを見て、困った顔をした。


日を改めて来てみようと、背を向けたときに、

作業場の奥から物音がした。


「俺に何のようだ?」


物音の方から、人の声がする。


「居たのね!」



ジーノに、水車を作ってほしいと伝えた。


「それは命令か?」

「はい?」

「それは、領主様からの命令なのか?」

「お父様ではなく、私からの依頼ね」

「そうか⋯⋯」


水車の話をしだしてから、ずっと渋い表情をしている。


「なにか問題かしら?」

「いや、こっちの話だ」


そう言って、黙り込んでしまった。


「それで、脱穀用と搾油用の水車をお願いしたいんだけど」



黙ったまま、返事が返ってこない。


えっ!?これはどういう状況?

なんで、反応がないの?


戸惑って、どうしていいかわからない。


どうしようかと、アシュの方を見るが、

アシュもお手上げの様子だった。


数分の沈黙の間、ジーノは俯いたままだ。



「いらないと言った水車を、

今更作れっていうのか⋯⋯」


静かにジーノが口にした言葉が理解できなかった。


いらない?

壊れて、直す余裕がなかっただけでは?


「それは誰が言ったんですか?」

「⋯⋯領主様だ」


お父様が、『いらない』と言ったの?

なぜ?


その後は、もう話すことはないと、

奥に引っ込んでしまった。



その日の夕食後に、ひまわり油の事業計画書を携え、

お父様の書斎に赴いた。


「あの花から油が取れるのか」


お父様の食いつきは上々のようだ。


「ひまわり油は、従来のアブラナやエゴマと比べて、

苦みが無く、灯明の油で使った際には、煤が少ないという利点があります」

「ほう」


内心では、『どこでそれを知った?』と聞かれないか、

不安ではあるけど、黙ってやるには事業規模が大きすぎる。


冷や汗をかきながら、お父様の計画書に目を通しているのを静かに見守る。


「水車か⋯⋯」


やっぱり、お父様もそこで止まるんだ。


「どうかされましたか?」

「いや⋯⋯」


濁すような言い方をして、口に手をやっている。


「昼に、ジーノに会いましたが、

水車は作らないと追い返されてしまいました」

「やはりか」

「なにが、あったのですか?」


お父様は、静かに、でも低い声で話しはじめた。


「7年前の川の氾濫したときに、ジーノは水車を退避させようとしていた」

「⋯⋯無謀ではありませんか」

「私は領民と一緒に、ジーノを無理やり避難させようとした」

「はい」

「それでも、水車を諦めきれなかったジーノに向けて、

私は⋯⋯」


苦悶の表情で、先の言葉を続けた。


「そんなものはいらん!と言ってしまったのだ」

「でも、仕方ないのでは?」


確かに、言い方はきついかもしれないが、

生死が掛かっている状況では、気にするほどではない。


多分私でも、同じことを言っているだろう。


「あの水車は、ジーノの誇りだったんだ」

「誇り?」

「当時は国中でも、水車を作れる者はわずかだった」

「それをジーノは作ったと」

「脱穀作業は領民にとって重労働だった、

それをどうにかしたいと、作り上げたのが、7年前の水車なんだ」


技術の象徴ではなく、ジーノにとっては、

領地を助けたいという、想いの象徴だったわけか。


「川の氾濫が落ち着いて、すぐに水車を作りたいと言ってきたが、

作り直すほどの余裕は、もう無かった」


ジーノは、自分の領民への想いがいらないと、

そう受け取ったのかもしれない。



その後は、収益予想や価格設定の根拠などを説明して、

お父様の許可が下りた。


「でわ、これで失礼します」


書斎を出る間際に、


「リズ、ジーノを頼んだ」


その言葉に押されるように、書斎を後にした。



最後までお読みいただきありがとうございます。

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