太陽の花
自室の机の前で、私は頭を抱え続けていた。
領地に人を呼ぶためのいい案が出てこないのだ。
領地が、主要路から外れた位置にあるため、
立ち寄るには、2時間を犠牲にしないといけない。
この2時間を穴埋めする案が思い浮かばない。
「バンズとアレクの案は、宿屋に酒場なのよね⋯⋯」
案としては悪くはないが、どちらも立ち寄る前提である。
ジャンたちが居たアタンの街は、主要路上にあって、
北と南に、人と物が丁度分かれる場所でもある。
ただ、南に行く道は実際は迂回する形になっている。
「アタンより南にあるうちが、南の主要路と繋がっていれば、
南行きの中継地点になれるのになぁ――」
地図上で道を引いてみたが、おおよそ6キロの道を、
森と川を跨いで、敷かないといけない。
それでも、1日ちょいは短縮出来る計算にはなった。
お父様とセバスに、これを相談したけど、
軽く見積もっても、税収5年分の5000万イェンに匹敵する費用が掛かるらしく、
おいそれと、やれることではないと言うのが3人の結論だ。
「シードルの利益全部突っ込んでも、1年ちょいか⋯⋯」
道以外にも、宿屋や酒場などもと考えると、
プラス2000万イェンが、上乗せされるはずだ。
お金以外にも注意しないといけないのが、
アタンの領主との摩擦だ。
前に、アタンの実態調査をしたときに、
南への往来が約4割だった。
半分近くの人を奪うのだから、衝突は避けられないだろう。
「ほんと、ままならないわね⋯⋯」
ダメ元で、国に道を敷くために補助などをしてくれないかと、
1日ちょいの短縮のメリットを書き連ねて、手紙を出してもらっている。
「空からお金が降ってこないかしら」
煮詰まりかえった頭が、現実逃避をしようとしている。
頭を振って、無理やり思考を現実に戻し、
「⋯⋯とりあえず、みんなの作業でも見に行こう」
立ち上がって、身支度をはじめた。
外に出ると、数日前には感じなかった暑さが襲ってきた。
「そういえば、もう夏なのね」
「はい」
アシュは日傘をパッと開いて、日陰を作ってくれた。
「水分補給をこまめに取るように言わないとね」
熱中症の知識があるのか不安な世界だ。
牧場をはじめに見に行くと、
小屋が出来上がっていて、牛たちはのんびりしてた。
柵の周りでは、子供達が牛を見てはしゃいでいた。
「またあんた達、勝手に森に入ったでしょ!」
遠くの方から、女性の怒っている声が聞こえてきた。
母親らしき女性の前に、子供が5人しょぼくれていた。
「まぁ、あの年だと森の中を探検したくなわよね」
森には、イノシシや熊が生息しているから、
子供だけで入るのは、禁止されている。
「お嬢様もですか?」
「もうそんな時期は通り過ぎたわよ!」
アシュの何気ない問いに、
ちょっとムキになって返してしまった。
「でも⋯⋯今年もひまわりが咲いているか見たかったの」
「あんな花、毎年咲いているでしょ!」
あぁ、ひまわりが自生しているのね。
「!?、ひまわり!」
1人の子供の手には確かに、オレンジ色の花が握られていた。
「アシュ!着いてきて!」
握られている花が、知っているひまわりか確かめるため、
子供達の元に駆け寄った。
「ちょっといいかしら」
「あら、リズ様」
母親は私に反応したが、子供達は下を向いたままだった。
オレンジ色の花を握った男の子の前にしゃがんで、
「ねぇボク、その花を見せてもらえる?」
「え?はい」
男の子は、握っていた花を見せてくれた。
間違いない、ひまわりだ!
「これって、どのくらい咲いていたの?」
「うんとね⋯」
違う子供が答える。
「ここよりももっと広いよ」
”ここ”と言うのが、なにを指しているかわからなかったが、
それなりの範囲ということは理解できた。
「そこには、ひまわりがいっぱいあるの?」
「もういっぱいじゃなくて、たくさんだよ!」
ひまわりにやたらと興味を引かれている私を、
母親がちょっと不思議そうにしていた。
「リズ様、ひまわりがそんなに珍しいですか?」
立ち上がって、母親の方を向いた。
「えぇ、領地内でひまわりが咲いているなんて、知らなかったわ」
「そうだったんですね」
「ねぇ、ひまわりが咲いている場所に、行きたいんだけど」
「それは、お辞めなられたほうが⋯⋯」
渋る母親を納得させるために、
ガリルに、緊急の重要案件だと言って、
ガリルと作業員2人に付いてくるように指示をした。
これを見て、母親は渋々案内を了承してくれた。
森の中は鬱蒼としていた。
ただ、不思議な色をした花や木などはなく、
ここだけを見たら、元の世界でも見ることが出来そうな光景だった。
「あともう少しです」
先を歩く母親が、目的地が近いことを告げた。
森の中は、木の葉が日光を遮ってくれて、
涼しく感じてはいたけど、森を歩くのは体力を相当使う。
「結構きついわね」
「お嬢様は、もうちょっと体力をつけねぇと」
これは普通の反応よ!と言い返そうなったけど、
子供達が走り回っているのを見て、飲み込んだ。
「この先です」
言われた先は、森が終わっていた。
そして、その先に広がっている光景は目を見張るものだった。
視界に入ってきたのは、オレンジ色の壁だ。
「すごいわ⋯⋯」
想像以上の光景に、息を呑んだ。
大人よりも背が高いひまわりたちが、
太陽に向かって花開いていた。
背が高いせいで、先が全く見えない。
「これ⋯どのくらい咲いているの?」
「多分ですが、うちの畑の2、3倍はありますぜ」
それを聞いて、ここに来た価値があったことを確信した。
「やっと見つけたわ⋯⋯」
「こんな背の高いだけの花をどうすんでい?」
私は、鼻を鳴らして答えた。
「油を取るのよ!!!」
「こいつから油を!?」
これは、シードルを超える事業になるわ。
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