浮き彫りの領地の弱み
ガリルから、柵が出来たと知らされたので、
荒地、改め牧場へ行くことにした。
「4日と言っていたのに、2日でよく出来たわね」
「牛が開墾の方で頑張ってくれてたんで、
早く、自由に歩けるようにしてやりたくてな」
愛着を持って接してくれていることを知れて、
無理したかいがあったと思えた。
「さっ!早く!お嬢様が牛を放してやってな」
「そうね!」
ガリルに促されて、牛の傍に行った。
「2日も繋いだままでごめんね」
牛に話しかけながら、杭と繋がっているロープを1頭ずつ解く。
自分を縛っていたロープから解放されたことを認識した牛は、
恐る恐る歩き出し、新しい居住場所を探索しだした。
「牛って、もうちょっと乱暴だと思っていたけど違うのね」
「あいつらは特別だと思いますぜ、
根っこを引かせるときも暴れねぇし、それ以外のときは草食って静かですぜ」
草を食べたり、座ったりしている牛たちを見て、
心の緊張がほぐされた気がした。
「そういや~、昨日領主様が来られましたけど、
牛を見て驚いてましたぜ」
「そうそう、夕食で聞かれたわ」
元々好きにして良いと言われていたので、
深くは突っ込まれなかったけど、「大切するように」と釘は刺された。
「それで、お嬢様が言ってたように、
牛で土地を改良しても、ライ麦が育つかはわかりませんぜ」
「あら、誰がライ麦って言ったの?」
「違うんですかい?」
「私は、小麦を育てるつもりよ」
これを聞いて、ガリルの顔が引きつった。
「お嬢様、小麦は無理です。ライ麦よりも栽培するのが難しいですぜ」
「わかっているわ、でもやらないことには、なにも変わらないわ」
「そうですけど⋯⋯」
長年、畑を任せられているからガリルだからこそ、
この領地で、小麦が育たないことは痛感しているんだろう。
「一気に小麦に切り替えるワケではないわ、
こっちの土が生き返ったら、こっちでライ麦を植えて
元の畑で一部で小麦を試してみたいの」
ライ麦は、土壌改良の作物だと元の世界では言われていたわ。
もしこれが、この世界でも同じなら今のライ麦畑は、
小麦が育つ可能性がある。
「言いたいことはわかりますがね⋯⋯」
それでも、うんとは言わない。
ガリルの立場的に、簡単には頷けないんだろう。
「この柵の中が生き返れば、単純に今の倍取れるようになるわ。
なら、1箇所くらい冒険しても大丈夫じゃない?」
「そりゃ、そうですが」
「挑戦しなきゃ、なにも変わらないわ!」
うーと唸りながら、下を向いた頭が左右に揺れる。
そして、頭の揺れが止まるとガリルの口が開いた。
「作付面積を倍にして、その上小麦の面倒もってなると、
結構仕事量的に厳しくなりますぜ」
「それはわかっているわ、それまでに人も増やす予定よ」
ここまで言っても、ガリルの中で引っかかるものがあるようだ。
「なにが不安なの?」
「不安じゃねぇんです、本音を言うと新しいことをするのが、
こえぇんです」
「大丈夫よ!責任は私が取るんだから、
その中で、やれることをやり切ってくれればいいだけよ」
やっと、ガリルの頬が緩んだ。
「そうか、そうですな、来年は忙しくなりますねぁ」
やっとやる気を出してくれたガリルに、
もう一つ、仕事を頼もうと思う。
「それでね、来週に20羽ほど鶏も買おうかと思うんだけど、
どうかしら?」
緩んだ頬を再度引きつらせてしまった。
ガリルとの話し合いが終わり、パン屋へと向かう道中。
「確かに、外の人が目立つようになったわね」
「そうですね、以前は誰も来られなかったのですが」
先日セバスが言っていたことを、
こうして見ると、実感できる。
ただ、どの人も向かう先はパン屋である。
パン屋の手前にある、八百屋には誰も足を止めない。
「こっちも、人が来てくれているうちに、
新しいことをしないと、乗り遅れそうね」
「順調そうね!」
工房に入ると珍しい子が居た。
「ジャンはここで何しているの?」
「なにって姉ちゃん、手伝っているんだよ」
ジャガイモを潰しながら、返事をしてきた。
「ジャガイモの仕訳を任せていなかった?」
「嬢ちゃん、それに関してはあっちと話は、
俺がしてあるから問題ない」
「あら、そうなの」
現場同士で納得してのやり取りなら、口を挟む理由はない。
「でも、なんでこっちに来たの?」
「うまいもんを自分で作れるって、すげぇことじゃん」
そう言ってきた目は、とても真っ直ぐだった。
「それなら、いっぱい頑張ってね」
「うん!」
「ちなみに、アンはリリィの手伝いをして、
フックはマリーと一緒だぜ」
いつも3人で行動していると思っていたけど、
各々やりたいことをやっているのね。
「おいジャン!あれを嬢ちゃんに食べてもらえ」
「あっ!」
「なに?」
バンズの一言で、ジャンは生地をこねて、
何かを作り始めた。
「出来るまでの楽しみってことで、
見守ってやっておいてくれ」
バンズが、すこし誇らしげにしていた。
「じゃ、今のうちに話をしたいんだけど、
セバスから聞いたけど、売上が1.5倍のようね」
「あぁ、毎日それなりに領外の奴が来ているお陰でな」
「一過性のものじゃなかったってわけね」
ただ、さっき見た光景を思い出す。
「来てくれるのはいいけど、
このままじゃ危ないわね」
「なんでだ?」
「この領地には、パン屋と八百屋しかお店がないの、
しかも、八百屋には誰も足を止めていない」
「じゃ、酒場とか飯処を作るか?」
その案は一理あるけど、リスクのほうが今は大きい上に、
領民の食事の質で言うと、まだの段階でやるのは違う気がする。
「食材を仕入れてやるほど、余裕はないわ」
「そうか⋯⋯」
「今は、シードルで外から稼いでいるけど、
ゆくゆくは、領地にお金を落としに来てほしいのよね」
バンズとアレクも考えてはくれるが、
これといった案は出てこなかった。
「姉ちゃん出来た!」
停滞した話し合いの空気をあどけない空気が和ませた。
「なにを作ってくれたの?」
「食べからのお楽しみだよ!」
手渡されたパンは、今までの長方形型ではなく、
丸っこいタイプの菓子パンのようだった。
「早く食べて、食べて」
ジャンに急かされて、焼き上がったパンを頬ぼった。
「うん!?」
外のパンはいつもと変わらなかったが、
中に、潰したジャガイモが入っていて、甘さを感じた。
「美味しいわね。これ、ジャンが考えたの?」
「考えたっていうか⋯⋯」
急に様子が変わった。
「こいつの家で、パンと一緒に食べるが流行ったらしくてな、
ジャンが、どうやったらイモの甘みが出るか考えて出来たのがそのパンだ」
「恥ずかしいから、言わないでくれよ」
ジャンが、バンズに種明かしをされて、
照れ隠しの八つ当たりをしだした。
「なんで、照れるの」
「照れてない、ただ、一緒に食べるのは俺が見つけたわけじゃないから」
なるほどね、誰かの発見を利用したって思っているのね。
「一緒に食べるのがジャンじゃなくても、
どうやったらもっと美味しくなるかを考えたのはジャンでしょ?」
「⋯⋯うん」
「なら、これはジャンが考えたパンよ!
下を向いてないで、胸を張りなさい!」
「わかった」
顔を上げて、泣き出しそうな目拭って、
小さく笑い返してくれた。
「じゃ、ジャンに宿題ね」
「宿題?」
「10個作るための材料と焼き時間、
それに原価をみんなに聞きながら、書き出すこと!」
「それをやったらなにかあるのか?」
「それは、出来てからのお楽しみ」
「やってみる!」
そう言って、作業に戻った。
バンズが私の耳元で囁く。
「おい、あれ売り出すのか?」
「結構いい線言ってると思うわよ」
「味の問題じゃない、釜の問題なんだ」
「大丈夫よ、そっちは考えがあるから」
「へ?」
声の大きさを戻して話しも戻した。
「2人にも宿題ね、どうやったら領地に人を呼べるか?
2日後までに考えておいてね」
「おい、まじかよ」
「いい案出ますかね⋯⋯」
バンズもアレクも弱気な声を上げている。
「2人も相談していいからね」
それだけ言い残して、パン屋を後にした。
そろそろ次のフェーズに進む時期だ。
ここで失敗すると、数カ月の努力が無駄になる、
みんなの働きを無駄にしないためにも、慎重に計画を練らないと。
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