牛を買ったら、思ってたより大事になった
開墾の進み具合を確認するために、畑に来ている。
「思いのほか進んでいるわね」
1週間前から、30人を投入して森を切り開いている。
開墾と畑関連を指揮しているガリルが、
「お嬢様が来るとは珍しい」
私を見つけて、駆け寄ってきた。
「結構進んでますね」
「まだ、森の入口なんでね」
「これからが本番と?」
「へい、木も太くなってきますから」
「なるほど、切るのに苦労するのね」
「いえ、一番の問題はその根っこ」
「根っこ?」
「根っこも掘り起こさないといけねぇんで、
デカい木は、当然根っこもデカいですから」
「なるほど!」
根っこか⋯⋯
確かに畑にするのに、そのままにはしておけないわね
「なんか良い道具とかないのかしら?」
「道具というか、牛ですね」
「牛をどう使うの?」
「根っこの周りを掘って、牛に引かせて抜くんですぜ」
あぁ~、確かにそれなら楽そうね。
「牛っていくらするのかしら?」
「仔牛だと10万で、成牛だと30万ってくらいですかね」
「結構いい値段ね」
「そりゃ、食べて良し、物を引かせて良しですからね」
牛かぁ、うちには豚しかいないのよね。
牛乳があれば、バターも作れる――
「そういえば、昔に麦を作付けしたけど、
うまくいかなかった場所があるって聞いたけど、どこかしら?」
「それはこっちですぜぇ」
ガリルに案内され、ライ麦畑の方に向かった。
「ここです」
視界の先に広がるのは、だだっ広い荒地。
「雑草も僅かにしか生えていないわね」
「栄養が少ないんでしょうね」
「荒地に強いと言っても、ここではジャガイモも難しそうね」
「勿体ねぇけど」
たしかに、今の作付面積の倍近くある土地が、
何も生み出さないのは勿体無い。
「ちなみに、開墾に使うとしたら牛は何頭必要?」
「根を抜くだけなんでぇ、1頭で十分ですぜぇ」
「そう、1頭ね⋯⋯」
それだけ言い残して、屋敷へ戻った。
ガリルは、不思議そうな顔をしていた。
私は、3日後にもう一度ガリルの元に行った。
「お嬢様!どうしたんですか?」
「買ったのよ!」
私の後ろには、成牛5頭に仔牛2頭が、
モーモー鳴きながら、商人に引き連れられている。
「買ったって、数日前話したばかりですぜ、
ましてや、開墾に必要なのは1頭でいいと」
驚きというよりは、呆れに見える表情で、
ガリルが私を見ていたが、
「別に、開墾のためだけじゃないわ」
「と言いますと?」
「荒地の改良と牛乳を取るためでもあるの」
2日間私は悩んだ。
一番のネックは、すぐに売上に直結しないところだ。
牛乳もバターも普通に市場に出回っている。
それでも、1ヶ月分に近い利益を投じたとしても、
広大な土地を改良するメリットの方が大きいと判断した。
「それにしても多すぎませんか?」
「はじめは3頭と思ったんだけど、
5頭買ったら、仔牛2頭付けてくれるって言うから」
私は、商人に視線を向けた。
「いや~、いい買い物をしたと思いますよ。へっへへへ
それに、あんたは目利きが出来るようだ」
と言って、腹黒い笑いを上げた。
商人から牛を引き取り、荒地に杭を打って繋いだ。
「柵が出来るまでは、窮屈だけど我慢してね」
撫でながら、準備不足を牛に謝った。
「柵は、4日もあれば出来ると思いますぜぇ」
「仕事を増やして、ごめんなさいね」
「それよりも、牛が来てくれたほうが、
開墾の方が捗るんで、問題ありません」
事前に相談したかったけど、
牛を見に行ったら、あの商人が今決めるならって言うから⋯⋯
「あとは、ここの草だけじゃ足りないんで、
開墾で刈った雑草も処理してもらいますぜ」
「そうね、いっぱい食べて、いっぱい出してもらわないと」
「出すって⋯⋯お嬢様⋯⋯」
笑いを我慢しながら、アシュが反応をした。
「だって⋯⋯!」
私は、急に恥ずかしくなって顔が赤くなってしまった。
翌日から、牛は活躍していた。
「よーし、引っ張れ!!!」
ガリルの合図で、牛は根っこを引っ張り、
簡単に引っこ抜いていた。
「お見事ね!」
「いや~、人力だとまだ掘って、10人で引かないといけないんで、
数倍作業が進んでいますぜ」
「10人分の仕事をしているのね」
「ほんと、助かります」
「少しは早くなりそうかしら」
「1週間は、縮められますね、
なによりも、抜かなくていいから疲れ具合が違いますぜ」
そっかそっか、思ってた以上に喜ばれているのね。
周りを見ると、牛が物珍しいのか、
子供達が、牛だとかモーモーと言いながら見ていた。
いつか、乳搾りを体験させたら喜ぶかしら?
「他の牛たちはどんな感じ?」
「あぁーそうだ!聞かなきゃって思ってましたぜ」
「?」
「成牛は、お嬢様が選んだんですかい?」
「えぇ、メス3頭にオス2頭を私が選んだわ」
「昔牛を飼育してたやつが言うには、1頭妊娠してるみてぇです」
「あっ!」
これを聞いて、商人が言っていた意味がわかった。
「意味があるかわからなかったけど、
一番胸が張ってそうな子を選んではみたの」
「なるほど!」
乳牛は高くて諦めたけど、これならすぐ取れそうね。
「なんでぇ、小屋の方も早めに作らないといけませんぜ」
「そうね、小屋の方はこっちで手配するわ」
「とりあえず、みんなも牛も無理しないようにしてね」
「へい!」
妊娠は嬉しいけど、
予定よりも出費が増えそうね⋯⋯




