信用を失った末路
バリス商団の悪事は、想像よりも広がるのが早かった。
女将とマリーのおかげで、バリス商団の評判は地に落ちた。
「アシュ、女将さんのとこで昼食を取りましょう」
「かしこまりました」
これが、最近の私の楽しみだ。
「あんたんところと取引なんて出来るかい!!!」
路地の方から、怒鳴り声が聞こえてきた。
店の前に、バリス商団の印がついた荷馬車が止まっており、
店主が商売人を追い払っている光景だった。
それでも食い下がる商売人に、店主が手を振り払って、
「今度来てみな、熱湯をぶっかけてやるからね!」
そう言い残して、勢いよく扉を閉めた。
扉の前で立ちすくむ商売人、
荷馬車には、荷が満載のままだった。
「この時間で、あの荷を見るとどこも相手にしてないわね」
この街で、バリス商団を相手にする店は無くなった。
自然と口元が緩んだ。
女将に、さっき見たことを話した。
「信用を失うのは一瞬ね」
「いまや、バリスって聞くだけで、みんな追い返しているから、
ここら辺では、もう商売が出来ないさね」
実際に目の当たりにしたけど、女将が言うと重みが違う。
「バリス商団ってどういう商団なの?」
「バリス領主お抱えの商団だね、細々と流し屋をやっているんだよ」
「流し屋?」
「他の領地や他国で仕入れて、別のとこで売ることさね」
「じゃ、商団が主な収入源ではないって感じね」
「あそこは鉱物で支えられている」
聞く限り、領主の道楽的な商団に聞こえるけど、
今回のやり方は、これまでと違う違和感を覚えた。
「それと、嬢ちゃんのやつを転売してた店あっただろう?」
「あの酒場がどうしました?」
「3日前に、潰れたさ」
「自業自得ね」
潰れるように仕向けたのは私だ。
悪事を広げるときに、酒場の名前も広げていた。
「酒場なのに、あんなやり方で小銭を稼いだのが悪いわ」
「私たちは、客の腹を満たしてなんぼさ」
女将は胸を張って言い切った。
「言うとおりです」
私も女将の料理でお腹を満たして、店を出た。
「ついでに見ていこうか」
私はそれだけ言って、あの酒場の方に歩き出した。
1週間前に3人で乗り込んだ店は、
看板が外されて、人の気配が無くなっていた。
「たった3日で潰れるとは⋯⋯」
「当然の報いです」
「ある意味では、ここもバリス商団の被害者ね」
商いに限らず、信用を無くした末路は、
大概ここに行き着くのよ。
「なんかここに来ると落ち着くのよね」
工房の椅子に座って、バンズとアレクの作業を眺める。
「今回はやばいと思ったぜ」
「私があんなやり方に負けると思っていたの?」
「領主お抱えの商団を相手にして、普通はやり合おうとは思わねぇよ」
私がおかしいみたいにバンズは言ってきた。
「黙って見過ごしていたら、こっちが潰れるとこだったのよ」
「嬢ちゃんを敵に回したらいけねぇってことだ」
領地を守るためなら、なりふりかまってなんて居られない。
「でも、そのおかげでシードルの契約は順番待ちよ」
「ギータさんが、仕込みが追いつかないって悲鳴を上げていました」
「人を増やす予定ではあるけど、時期が悪いのよ」
「あぁ~畑の方でも人を集めていたな」
「そうなのよ」
お父様と話をして、ジャガイモの作付けを3倍にするために、
開墾をする人員を集めていた。
「ヴェルデンイモのレシピを買いたいって声もあるけど、
売っちゃうとこっちの食べる分が無くなるわ」
「食いもんで思い出したが、肉美味かったぜ!」
「はい、美味しかったです」
最近になってやっと、利益を領内に還元出来るようになった。
「今は4日に1食分配っているけど、
ゆくゆくはみんなが自分で買えるようになるわよ」
「楽しみだな」
「おぉ~!」
そのためには、もっと稼がないといけない。
「和んだことだし、ギータのところに行ってくるわ」
「おう、無理はするなよ」
バンズの労いの言葉に身体が軽くなった。
「ギータ、作業は順調かしら?」
「リズ様!!!」
作業場に入るやいなや、ギータが駆け寄ってきた。
「進捗は予定通りなんですが、
どうしても発酵途中で腐ってしまう物が出てしまいます」
「大体どのくらい?」
「10樽に1つと言った感じです」
「今は割り切るしかないわ、
間違っても出荷はしないようにだけ気をつけて」
「はい」
これから夏になる、気温が上がるからまずいわね。
「それ以外に問題は?」
「人ですかね」
「そっちは今手配してるからちょっと待って」
「わかりました」
簡単な報告を受けながら、作業している人たちを見回す。
「!?」
1人の女性の後ろ姿が目についた。
「お母様!?」
「見つかっちゃった」
子供のような笑みを浮かべて振り向いたお母様。
「何しているんですか」
「昨日の夕食で、リズが人が足りないって言っていたでしょ」
「言ったけど⋯⋯」
私はギータの方を見た。
「僕もはじめは断ったのですが、奥様がどうしてもと言うので」
「ジャガイモのときも言ったけど、
お母さん、こういうの好きなのよ!」
立ち上がり、腰に手を当て言い張る。
その後ろで、そっと逃げ出そうとする影があった。
「もしかして!?」
その小さな影を捕まえると、
「シルクも!?」
「お母様、見つかってしまいました」
腕の中でしょげるシルク。
「シルクだって、リズを手伝いたいのよ」
「僕もお姉様のお役に立ちたいです」
「だからって⋯⋯」
ため息をついた私に、
「リズは、この仕事を蔑んでいるの?」
「え!?」
「領主の妻と息子がやるべき仕事じゃないと、
仕事を分けているわけ?」
「そういうわけでは⋯⋯」
「アシュから聞いているわ、契約を取るために、
領主の娘が、頭を下げて店を周っていると」
作業場に居るみんなが、それを聞いてざわついた。
「それは、私の仕事ですから」
「今更言えたことじゃないけどね、
屋敷に居るだけの人間で居たくないのよ」
ダメだ、これは勝てない。
「⋯⋯わかりました、でも、無理だけはしないで下さい」
「大丈夫よ」
作業場を出る際に、ギータに伝えた。
「2人をお願いね」
「かしこまりました」
一難去っただけで、やることは山積みだ。
最後までお読みいただきありがとうございます。
気に入っていただけたら★評価とフォロー・感想お願いします。




