模造品の正体
6店舗の取引を失ってからの1週間は忙しかった。
別の街にも営業を掛けて取引先を探したが、
模造品が先に取引を取っていたため難航した。
どうにか、7店舗と契約を結ぶことが出来て、
赤字に陥らなくて済んだ。
「これが、噂の”ヤツ”だ」
女将が私の前に置いた1つの樽。
女将に頼んで、どうにか手に入れてもらった模造品だ。
「お手数おかけして、すみません」
「競合品が気になるのは、商売人としては当然さ」
女将は笑って苦労を流してくれた。
「はっきり言うけどね、嬢ちゃんが気にする相手じゃないよ」
女将は意味深な発言をして、調理に戻っていった。
樽を荷馬車に積んで、領地に戻った。
パン屋には、バンズ、マリー、ギータが集まっていた。
模造品を評価するためだ。
「色は、うちのと似ているな」
バンズがグラス越しに色味を観察した。
「ですが、りんごの香りがなくてアルコール臭が鼻に来ますね」
マリーは香りに嫌悪感を持つ。
「「ゴクリ」」
!?
口に含んだ瞬間、違和感が走った。
りんごの甘みがない。
代わりに、アルコールの味と苦みだけが残る。
「⋯⋯雑ね」
「うえ、なんですかこれ」
ギータが憤慨した。
「不味いなこれ、これがシードルかよ」
ジュースみたいだと言っていたバンズも、
模造品の味に苛立ちを滲ませていた。
「これで、安さの理由が判明したわね」
「味でわかったのですか?」
「不味い以外にわからないです」
マリーとギータが聞いてきた。
「発酵を早くするために温度を上げているわ。
だから、りんごの香りも甘さも飛んで雑味だけが残っている」
「味だけで、そんなことがわかるんですね」
女将が言っていた意味はこれだったのね。
「でも、まずいわね」
「あぁ、不味いぜ」
「味のほうじゃないわよ」
「へ!?」
バンズがきょとんとしているので説明する。
「シードルを広めている段階だから、
この味がシードルだと認識されてしまうのよ」
「そういうことか!」
「このシードルもどきを仕入れているお店結構ありました」
外販からシードルの営業を任せたマリーが心配する。
「売り込みに行った店だけでも、40店舗近くはこっちを仕入れているわ」
「じゃその店の客は、シードルはこういう味だって認識するのか」
「そうよ、ジャガイモのときと同じ事が起こるわ」
人が開拓した市場を好き勝手踏み荒らされたことに、
苛立ちどころか、殺意に近いものが込み上げた。
ただ、この味で40店舗以上も?
味と規模が釣り合わない。
「うちから仕入れていた店は、この味でなぜ乗り換えたんでしょうか?」
ギータも同じ違和感を感じていた。
「売り込むときはうまいのを持っていったんじゃねぇか?」
バンズの言葉を聞いた途端に、納入表が頭に浮かんだ。
「⋯⋯やってくれたわね」
すべての謎が、私の中で繋がった。
翌日、私たちはある店舗を見張った。
人目につかない路地裏で、息を潜めて裏口を監視する。
「この店が怪しい理由は何だ?」
バンズが、根拠を求めてきた。
「店の規模に対して、発注数が合わないのよ」
繁盛している女将の店でも、1日に1樽だ。
でも、席数も客数も劣るこの店が、途中から2樽発注して来た。
「うちのシードルで売り込んで、
実際に卸しているのは不味いやつってことか」
「多分そういう手口ね」
1時間。動きはなかった。
「来たか!?」
裏口に、1台の荷馬車が付けた。
御者がノックすると店主が顔を出し、樽を一つ渡し荷台に載せ、
御者が店主に小袋を手渡した。
「間違いないわ!うちの樽よ!」
そう言って、裏口の方へ駆け寄り、
「よくもやってくれたわね」
私たちの登場に店主は明らかに動揺している。
「なっ、なにを言っているんだ!」
「転売しておいてよく言うわ」
「転売だと!?言いがかりを付けるなよ!」
怒鳴れば萎縮すると思ってか、大声をあげる店主に対し、
「うちの樽をその御者に渡していますよね?」
「その樽は、こいつから仕入れている樽だ」
「なら、この印は何かしら?」
私は、荷台に載っている樽の印を指さした。
「これ、うちの家門の焼印ですけど?」
焼印を見た途端に、さっきまでの威勢が形を潜めた。
「わ、渡すのを間違ったんだよ」
この期に及んで、言い訳をする店主に、
「満杯の樽をどう間違うっていうのですかね?」
語気を強くして問う。
旗色が悪いのを察しって、
馬を出そうとした御者をバンズが制止する。
「兄ちゃん!どこに行こうとしてるんだ」
「俺はただ雇われただけだ」
と、ありきたりなことを口にする。
「誰に雇われたのかしら?」
「⋯⋯バリス商団です」
首を傾げ、バンズに聞く。
「バリス商団って?」
「隣領のバリス領が運営している商団だ」
「じゃ、頭は領主ってこと?」
「たぶんそうだ」
商団かどっかの領地が絡んでいることは予想していたけど、
両方なのは予想外だわ。
「これって罪に問えるのかしら?」
「難しいんじゃねぇか?転売禁止とは契約書に書いてないだろ?」
「そうよね⋯⋯」
あぁ、この世界の人に良識を求めたらいけないのかしら。
「そいつの言うとおりだ。仕入れたものを売って儲けて何が悪い!」
バンズを指さして、何故か威勢が戻る店主。
「そうね、小銭稼ぎもここまでよ。契約は今日で終わり」
「あんなもん、すぐに飲まれなくなるわ」
捨て台詞を吐いた店主の顔に近づき囁く。
「人の商品横流しして、このままで済むと思っているの?」
店主の顔から血の気が引き、腰が砕け、その場に座り込む。
「そっちも放してあげて」
「いいのか?」
「買ったんだからしょうがないわ、でも樽はちゃんと返して」
「は、はい」
返事をして去っていった。
「で、どうするんだ?」
「相手の手の内が見えたから、いくらでもやり方はあるわ。
それに、気づかない?」
「なにが?」
「これで、相手は新規顧客をもう望めないのよ」
「あぁ!!!」
それでも、久しぶりに腹わたが煮え返る。
「ただの競合相手だと思っていたけど、
人の商品をダシに使って市場を荒らすなら、こっちだって容赦しないわ」
私の中で、明確に敵と認識した。
「手を出さなくても自滅するけど、
そじゃ、私の腹の虫がおさまらないわ」
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