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女社長、転生したら3年で潰れる貧乏領地の令嬢だった 〜現代知識で立て直す異世界経営〜  作者: 冬馬


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19/77

契約と信用

「マリーもう一度さっきのことを教えて」


パン屋に着いた私たちは、工房で緊急会議を開始した。


「はい、取引している酒場にシードルを卸しに行ったら、

別のシードルが見つかったからもういらないと言われました」

「それで、どこの店なの?」

「アイゼン食堂とフルッシュ酒場に――の5店舗です」


これを聞いて、バンズとギータは事の重大さを理解した。


ギータは、シードルの製造のリーダーを任せている青年だ。


「せっかく頑張って作っているのに、

簡単に真似されたらたまったもんじゃないですよ」


ギータは憤って、拳で机を叩いた。


「模造品が出たことはどうだっていいの!」

「え?」


私は、憤るギータに問題はそこではないと告げる。


「遅かれ早かれ模造品は出てきたわ。

私が問題視しているのは、簡単に取引を反故にされたことよ」


これに対して、この場にいる誰も理解できていない顔をした。


「でも嬢ちゃんよ、真似されて安いもんが出たから取引を切られたんだぜ?」

「じゃあなたが作るパンが模造品で悪いものと言うの?」


これを聞いてハッと納得した。


「需要がある商品を安く作って売るのは立派な商売よ、

問題なのは、口約束だとしても商売人同士の取引が、

こうも簡単に破られることが重大なのよ」


マリーが恐る恐る手を挙げる。


「マリーどうしたの?」

「ごめんなさい、まだわかりません」


わからないことをわからないと言えるマリーは誠実だ。


「簡単な話よ。今日取引して明日切られるなら、

私たちは、まともに商売ができないってこと」


なるほど!と手を叩いたマリーが質問する。


「でも、安いものを仕入れたいというのは普通のことですよね?」

「うん、そこは理解できるわ。じゃ、逆の立場で考えてみて。

昨日1樽20000だったのに、今日になったら1樽30000って急に言われたら、

酒場側はどうかしら?」


バンズが小さく呟いた。


「⋯⋯確かに、それをやられたら仕入れなんて怖くて出来ねぇな」

「要は取引は急には切られない、価格を急には上げてこない。

こういった信用の元で、商売人同士は取引をしなくてはいけないの」


ギータが聞いて来る。


「じゃ、今回の5店舗は商売人としてはダメな奴ってことですか?」

「私の物差しだとそうなるわね。これは私の落ち度でもあるわ。

取引先を増やすことを急いで、相手を見ていなかった」


そう、これはまだ元の世界の感覚が抜けきれていない私のミスだ。


「だから、ごめんなさい」


私はみんなに頭を下げた。


「そんな、お嬢様頭を上げて下さい」

「嬢ちゃんが悪いわけじゃないだろ」


みんな私の謝罪は違うと言ってくれたが、

これは自分自身への戒めでもある。


「それで嬢ちゃん、この先はどうするんだ?」

「ルールを作るわ」

「「ルール?」」


私は、パン屋に着くまでに考えた案の説明を始めた。


「契約のことね、私たちの取引するなら契約を交わしてもらうってこと」

「貴族たちがやってるやつか」


バンズが膝を叩いて納得したけど、


「まぁ、そこまでガチガチじゃないわ」


力強く叩いた手が、弱々しく頭を掻いた。


「契約と言っても簡単なものよ、一定期間は私たちから一定数を買ってね、

私たちは、契約に書いた値段で卸しますよってものね」

「それだけで、守ってもらえるものなのでしょうか?」


契約に馴染みがないギータが首をかしげる。


「契約した店には特別な権利を渡すわ」

「権利?」

「ジャガイモの卸と、ヴェルデンイモのレシピを契約した店に渡すわ」

「本気かよ!?」


バンズとマリーに離れて聞いていたアレクが反応した。


「えぇ、いつまでもマリーに売りに行かせている勿体なかったし、

頃合いとしては丁度いい時期でもあるの」

「私のお仕事が⋯⋯」


俯いて仕事が無くなる不安に震えてしまった。


「安心して。あなたの仕事は、むしろ増えるわ」

「えぇぇ!?」

「マリーのおかげで、ヴェルデンイモは相当浸透しているわ、

それを自分の店で売れるとなると喉から手が出るほどほしくない?」

「確かに」

「でも、レシピを貰って辞めるやつとか出ませんか?」


ギータは結構不安症なのかしら。


「そこも大丈夫よ、ジャガイモはヴェルデン領でしか取れない。

レシピがあっても、ジャガイモがなければ作れないでしょ」


そうか!と頷くギータ。


「とりあえず、残ってくれた6店舗には、明日私が契約書を作って話をするわ」

「「はい」」

「おう」


緊急会議が終わって、各々自分の作業に戻ろうとしているところで、


「マリー新しい仕事をお願いするわ」

「はい!」



翌日、ジャガイモと契約書を携えて、

取引が続いている6店舗を回った。


「嬢ちゃん久しぶりね」

「女将も元気そうで」

「あんた聞いたよ、安い酒が出回ったらしいじゃない」


女将の情報収集能力は伊達ではなかった。


「女将さんは、なぜ乗り換えなかったのですか?」

「うちかい?そんなことしたら商売人じゃないよ」

「女将さん⋯⋯」


義理や人情を大切にしている、立派な商売人だ。


「それで、申し訳ないのですが契約を新しく結んでいただきたくて、

今日はまいりました」

「契約かい!」

「酒ごときで契約とは大層なものだと思いますが⋯⋯」


契約書を手渡すと、女将は内容に目を通した。


「いや、うちにもいいことだね。

急に値段が上がらないって保証してくれるわけだろ」

「はい、3ヶ月の契約期間は価格の変動はありません」

「取引している中には、急に吹っかけてくるやつが居るから、

こうやって言い切ってくれるのはいいことよ」


そう言うと、契約書にサインをしてくれた。


「なによりも、ヴェルデンイモのレシピはでかいね」

「これは、残ってくれた店舗限定です。

新しく契約する所は1回の更新をしないと渡しません」

「ほんと嬢ちゃんは商売上手だね」


女将が右手を差し出してきた。

手を握って、2回目の握手を交わした。


女将の店のあと、4店舗を回ったが、

どこも女将と同じ反応をして、快く契約書にサインしてくれた。


「ここが最後ね」


裏口をノックして反応を待った。


「はい?」


扉を開けたのは大将だった。


「お久しぶりです」

「嬢ちゃんか、どうした?」

「シードルの今後の取引についてお伺いしました」

「あぁ~⋯⋯」


急に、顔を曇らせる。


「今後もうちと取引をしていただくことにつきまして、

簡単ですが契約を結んでいただきたいと思います」


契約書を大将に手渡す。


「今まで通りに取引を続けて頂けたら、

なにも問題が内容になっています」


「とはいってもね⋯⋯」


なんか煮えきらないわね


「内容に不明な部分がありますか?」

「内容って言うより、これって縛りだろ?」

「お互い、気持ちよく取引していくためと思っています」

「3ヶ月の縛りって、3ヶ月後も売れている保障ないじゃん」


言い分はわかる。


「一応、売れ行き次第では納入数の調整も出来ますので」

「昨日にさ、同じ酒を1樽12000で売るって奴が来ていて悩んでいたけど、

こんなの出されたら、悪いけどそっちに行くわ」


それだけ言って、契約書を突っ返されて扉を閉められた。


「まぁ、1人くらい居てもおかしくはないわね」

「1発殴ってきましょうか?」


冗談みたいに聞こえたけど、

アシュの目は本気だと言っていた。


「相性が悪かったってことで、気にしないのが一番」


ただ、1樽12000の脅威は大きい。

このまま価格競争を仕掛けられたら勝てない。


見えない競争相手に、胸の違和感を感じるも、

アシュをたしなめて、店を離れた。



荷馬車に揺られながら考える。


「6店舗、離れてしまいましたね」


アシュが悲しげに問いかけてきた。


「その分を補う意味を含めて、

ジャガイモの卸を抱き合わせたのよ」

「そういう狙いもあったのですね」


なんてアシュには言ってはみたものの、

ジャガイモの売上は微々たるものだ。


「新しい取引先を見つけないといけないから、

明日から、また忙しくなるわね」

「頑張りましょう」


明日からやることを組み立てていると、


「外販をやめること、ジャンたちに伝えてなかったわ」

「戻りましょうか?」

「いえ、この時間だとどこにいるかわからないわ」


明日、事情を説明するしかないかと考える。


こんなことで、立ち止まっては居られない。


「1樽12000か⋯⋯」


あまりの安さ⋯⋯安すぎる感はある。

利益が出ているとは思えない値段が、どうにも引っかかる。



最後までお読みいただきありがとうございます。

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