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魔術師の憂鬱  作者: 卓麻呂


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マリエルの日常

GC.118.12.08

 艦内食堂。

昼時のざわめきに混じって、ナイフとフォークが皿を打つ小気味よい音が響いていた。


マリエルのトレーには、香ばしく焼かれた白身魚のムニエル、澄んだコンソメスープ、そして彩りのよいパスタ。

対してタリアンの皿には、脂の照り輝く分厚くいステーキが鎮座している。

湯気とともに漂う香りは、戦場であっても兵士の士気を上げるだろう。


「やっぱり肉は最高だな」

満足げにナイフを入れながら、タリアンは口の端をわずかに上げた。

血の気の残る断面が彼の好みにぴったりだ。


「肉はいいとして……野菜は?」

マリエルはフォークでパスタを巻き取りながら、淡々と尋ねる。

声の調子は穏やかだが、視線はまるで診察室の医師のように鋭い。


「草は食べない主義なんだ」

「好き嫌いはモテないわよ」


タリアンは苦笑し、わざと大げさに肩をすくめて言った。

「うるさいな、余計なお世話だ」


その言葉に、マリエルはほんの一瞬だけ目を細めた。


「ところで、ユナはどう?」


タリアンは口元にステーキを押し当てながら考える。

「ん?海賊の時の射撃にはビックリしたな。改めてプロフィールを確認したら、射撃だけスナイパークラスの成績だった」


マリエルは眉をひそめる。

「見てなかったの?」


「そんな細かい所まで見ないよ。人間性やオペレーターとしての資質には関係ないからな」


「そう。それはそうと、あの子、最近髪切ったの。分かった?」


タリアンはフォークを止め、首をかしげる。

「え?髪?いや…気づいたかもしれんが…」


マリエルは軽く笑いながら言う。

「気づいてないのね。さすが艦長。」


「いや、気づいたっていうか…なんで俺がそんな細かい変化に注目しなきゃならないんだ?」


「だって女の子よ。変化に気づいてくれる人がいると嬉しいものなの」


タリアンはステーキを見つめながら小さく頷く。

「…なるほど、そういうもんなのか」


マリエルはフォークで魚をひとすくいし、タリアンをちらりと見やる。

「艦長としては優秀なのに、ちょっと朴念仁なのよね。今度褒めてあげなさい」


「あ、ああ、わかった…」


タリアンは小さく息をつき、心の中で「どうやって褒めりゃいいんだ」とつぶやく。


「それはそうと、この前捕虜にした海賊のこと、すっかり忘れてたけど傷は治ったのか?」


マリエルは軽く笑みを浮かべる。

「もうピンピンしてるわよ。今は医務室で働いてる」


タリアンは目を丸くする。

「え?海賊だぞ?」


「元ね。彼は律儀な男よ。とても器用だし、重宝してるわ」


「大丈夫なのか」


「何が?」


「いや、何でもない」

マリエルがそう言うなら問題ないんだろう。タリアンはこれ以上追求しないことにした。


GC.118.12.20

医務室


医務室の一角、淡い光に照らされ、ダグは小物を慎重に並べていた。色とりどりのリボン、ミニチュアのツリー、電飾の小さな束。


「何やってるの?」

マリエルが腕を組んで覗き込み、軽く眉をひそめた。


「クリスマスですよ!」

ダグは胸を張り、少し誇らしげに答える。


「宗教行事だったかしら?」

マリエルは首をかしげる。


「お祭りですよ。宗教とか関係ないです。みんなで楽しむイベントですよ!もしかしてマリエルさん知らないんですか?」

ダグは信じられないという目でマリエルを見た。

「知ってるわよ。私、地球出身だから」

マリエルは当然の事のように答える。


「ふーん、まあ、好きにすればいいわ」

マリエルは冷たく一瞥した後、何も言わずにその場を離れ、タブレットに目を移す。


ダグは小さく「よ、よし…」と息をつき、ツリーの飾りを手に取りながら、ふと鏡に映った自分を見た。エプロン姿でこうして普通の作業をしている自分。なんだか妙に落ち着く。


その時、医務室の扉がゆっくり開き、ユナが入ってきた。


「わぁ、クリスマスですか?懐かしい!マリエルがこんなことするなんて、意外ですね」


「私じゃないわよ。彼がね」

マリエルは視線をダグに向ける。


「海賊?」

ユナが興味津々で覗き込む。


「元よ」

マリエルは軽く答える。


ダグの心臓が跳ねる。目の前のユナ、よく見れば凄く可愛い…しかし、あの女は悪魔だ。俺を拷問しようとしていた女だ。その上凄腕のスナイパーだ。実に見事な精密射撃だった。強化装甲のセンサーに一発必中なんて聞いたことない。狙われたらまず逃げるのは無理だろう。腹の奥がぞわぞわし、胃のあたりがひりひりする。冷や汗が滲み、手先がわずかに震える。


「え、えーと…トイレに…ちょっと行ってきます」

ダグは小声で言い、飾り付けの手を止めると、そそくさと医務室を飛び出した。

 そっと振り返ると、ユナが小首をかしげる姿が見えた。ダグは鳥肌が立つのを感じた。女は怖いな。


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