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魔術師の憂鬱  作者: 卓麻呂


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襲撃13

GC.118.11.20 18:15


イグナスはドアの前で立ち止まり、集音器を慎重に当てて中の声を確認する。扉の向こうから、微かに男の声が聞こえる。相手は緊張しているようだが、何を考えているかは分からない。イグナスは落ち着いた息遣いで応じ、交渉の態勢に入る。


タリアンは背もたれにもたれながら、鋭い視線をスクリーン越しに交渉の方向へ送り続ける。


 艦橋には静寂が漂いっている。タリアンは指示を整理していた。空気は張り詰め、機器の淡い光がタリアンの表情を照らす。ユナは機関室扉から少し離れた位置に立ち、微動だにせず機関室の扉を睨みつけている。小さく独り言をつぶやく。

「はぁ……さっき一発外しちゃったのよね。屈辱だわ……一度も外したことなかったのに」


ユナはタリアンから託された狙撃用ライフルを軽くさする。

「こんなのが艦橋にあったなんて。艦長のかしら?手入れが行き届いてるキレイな子ね」

 呟きながら流れるように銃のチェックを行う。動作には迷いがない。


ロックは医務室で黙々と筋トレを続けていた。腕立て、懸垂、スクワットと、自作の器具を使いながら、汗を滴らせても呼吸は一定である。艦橋の張り詰めた空気の中、異様に大きな上半身の動きだけが目立つ。ベッドに横たわる海賊Cが呟く。

「なぜ?今筋トレなんだ、、、」


傍らのマリエルは静かに治療を行っている。

冷静な瞳がロックを一瞥する。

「汗臭いのよ。やめてくれる?」


無線が入る。イグナスの声だ。

「艦長、機関室前に到着しました。異常はなし、ただし内部から動きあり」

その声は落ち着いているが、熟練の副艦長でも微かな緊張は隠せない。


タリアンは無線越しに応答する。

「交渉が成功する可能性は低いだろな」

「わかっています」


無線が途切れると、艦橋は再び静寂に包まれる。換気音と機器の低い音だけが響く。モニターに映る損傷箇所や通路の映像には、先ほどの戦闘の爪痕が淡々と映っていた。

ユナは冷静だが微かな緊張を隠せず、ロックは腕立てや懸垂を続けつつ指先は小刻みに動いている。緊張、、、しているようには見えない。


タリアンは心の中で自分に言い聞かせる。「何があっても冷静でいろ。ここで狼狽えると全員が危険にさらされる」


再び無線が入り、イグナスが報告する。

「艦長、相手が動き出しました。接触準備のようです」


タリアンはゆっくり息をつき、艦橋の全員を見渡す。

「よし、リサを助けるぞ」


ユナは頷き、ライフルの照準器を再確認する。


タリアンは1人艦橋で指揮を取る。冷静でなければならない。全員の動きが、彼の判断に委ねられているのだから。


「イグナス、状況は?報告を」

「艦長、機関室前に敵影」


無線が途切れると、再び静寂。空気は張り詰めたままだ。


その間もロックは筋トレを続ける。艦橋の張り詰めた空気の中で、異様にリラックスしたテンションで動く彼の姿が滑稽でもあり、同時に心強くもあった。

 

 艦橋の静寂に、機器の微かな作動音と呼吸音だけが響く。戦闘の痕跡はあちこちに残り、金属床や手すりには結構な量の血が付着していた。


マリエルはモニターに映る通路の映像を見つめながら、ぽつりと独り言を漏らす。

「これだけ艦内に血が飛び散ると、後片付けと感染対策が面倒ね……全く、不潔なばい菌(海賊)供だこと」


マリエルの苛立ちを含んだその声は艦橋内の他のクルーには聞こえない。

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