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Files 02: Taurus 01


昔々――

ある国に、こんな伝承がありました。


国が危機に陥るたび、

必ず現れる怪物の話です。


その怪物は、普段は山奥に棲んでいます。


けれど、ひとたび国に災いが訪れると、

城の前に姿を現し、こう言うのです。


「安心しろ。俺が守ってやる」


不思議なことに――


怪物が現れるのは、

いつも“姫がいる時”でした。


怪物は姫を守りました。


誰の手にも触れさせず、

誰にも奪われないように。


そうして姫は、何度も救われたのです。


そして――また、国に危機が訪れました。


これで、七度目。


七人目の姫の番でした。


七人目の姫は、聡明でした。


怪物の優しさの奥にあるものを、

最初から疑っていたのです。


姫は、静かに問いかけました。

「今までの姫たちは――

 本当に救われたのでしょうか?」


怪物は、少しの間だけ黙り――


やがて、笑いました。

「ああ」


そう言って、自分の腹を叩きます。

「ここだ」


重く、鈍い音。

「ちゃんと守ってる」


怪物は、誇らしげに続けました。

「ああ……美味かった」


その夜。


七人目の姫は、逃げ出しました。

怪物の目を盗んで。


音を立てず、振り返らずに。


――それきり、姫は戻りませんでした。


おしまい。


その名も知らぬ童話。


擦り切れるほど読まれたであろう、古びた本が静かに閉じられる。




平坦な道を、4人のサイクリストが隊列を組んで走っていた。


先頭を行くのは、体格のいい男。

一定のリズムでペダルを回し、全体のペースを作っている。


今回のマスツーリングは高校の仲間たちでの集まり、

久しぶりのサイクリング。


そのため速度は抑えめ。無理のない巡航だ。


それでも男にとっては――慣れたものだった。


日差しを遮るサングラス。

カラフルなサイクリングウェア。

フレームの軽いロードバイクは、長距離走行用に調整されている。


男は時折、肩越しに後方を確認する。

隊列が乱れていないか。誰か無理をしていないか。


その横顔は、どこか穏やかで――

仏のような顔。


袋寛治。

(……恵子ちゃん、きつそうだな)


わずかな変化を見逃さない。


寛治は片手を上げ、ハンドサインを出した。

減速。休憩。


安全なスペースへと誘導し、全員を止める。

「ここで一回休もう」


今日は隣のC県にある温泉地までのツーリングだ。

距離はおよそ五十キロ。

ルートは平坦で走りやすい道を選んでいる。


現在は、ちょうど半分地点。

自転車を降り、各々が水分を取る。


「いや~、今日は最高だな」

声を上げたのは、山口勇。


自転車ショップ「山口サイクル」の店長であり、寛治の親友だ。

「天気もいいし、風も穏やか。文句なしだ」


久しぶりのマスツーリング。

しかも高校時代の仲間が揃っている。


気分が上がらないわけがない。


「はぁ……いや~、久しぶりだから……

ちょっと足引っ張ってるかも。ごめんね」

中森恵子が、水筒に口をつけながら苦笑する。


「そんなことねぇよ……俺も結構キツいぞ……」

汗だくで答えたのは、少し太り気味の長義人。

水を一気に飲み干し、大きく息を吐いた。


「義人、まだ半分」

寛治が軽く笑う。


「まぁ今日は同窓会みたいなもんだ。のんびり行こうぜ」

山口が場を明るくする。


「この先で一つだけ登りがあるからな。ここで休憩入れたのは正解だよ

さすが寛ちゃん、よく見てるな~」


「いや、たまたまだよ」

そう言いながらも、寛治はルートを確認している。

「恵子ちゃんも義人も、無理しないで。

きつかったらすぐサイン」


「はーい」


穏やかな空気。


笑い声。


風の音。


ペダルの余韻。


――どこにでもある、休日の風景。


そのとき。


「……ねえ、寛治くん」

不意に、恵子の声が少しだけトーンを落とした。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」


寛治が顔を上げる。

その瞬間――


風が、止んだ気がした。


誰もいない部屋。

薄暗い室内に、テレビの光だけが点いている。


夕方のニュースの時間、テレビのアナウンサーが原稿を読み上げる。


「昨夜未明、A市内の公園で――」


わずかな間。


「黒いビニール袋に入れられた白骨遺体が発見されました」


画面には、規制線の張られた公園。

青いシート。

慌ただしく動く捜査員の姿。


「警察によりますと、遺体は白骨化しており、

身元の特定には至っていません」


淡々とした声。

感情は、ない。


「骨格の特徴から、被害者は未成年の女性――

およそ十二歳から十六歳前後とみられています」

映像が切り替わる。


黒い袋。

運び出されるストレッチャー。

「また、遺体は複数の部位に分断されており、

警察は殺人事件として捜査を開始しました」


一拍。


アナウンサーは、次の一文を読む。

「さらに警察は――」


わずかに、声のトーンが落ちた。

「およそ四年前に同様の手口で発見された、

バラバラ白骨遺体事件との関連についても調べています」


画面の端に、小さくテロップが表示される。

――未解決事件との関連か


「現場周辺では、

これまでにも過去複数の行方不明者の届け出が確認されており――」


言葉は続く。

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