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水螢  作者: タケウマ
8/10

第七話

数時間前


「んーよかったー今日は晴れて」

男性は思いっきり背を伸ばした。

今日は久々の休暇だった。

なので前日、仕事が終わった後、家から釣り道具をかっさらい、そのまま車を走らせて県外まで来てホテルに泊まったのだ。

朝から釣りをやるはずだったが、思った以上に疲れがたまっていたのか結局昼過ぎになってしまった。

もはや1秒も無駄にできないと考え、さっそく準備を始めた。

「昨日の雨で増水して濁ってるけど荒れてるって程ではないなっ」

男性は思いっきりキャスティングした。

仕掛けは川のほぼ中央に落ちた。

そこから少しずつ巻き上げていくとすぐにウキが沈み、竿に重みを感じた。

「おっ、さっそくか」

すぐに魚と格闘をしようとしたが、すぐに違和感に気づいた。

重さを感じるが振動を感じないし引っ張られる感じもしなかったのだ。

「えぇ~初っ端から根掛りかよ」

そのあといろいろと試してみたが一向に外れる気配がないので、男性はもう自分で取りに行くことにした。

落ちていた木を杖代わりにして足元を確かめながら川の中を進んでいった。

そして何とか仕掛けのそばまで来ることができた。

「この辺だよな。ん?」

杖に何かが当たった。しかし石ではない少し変わった感触だった。

やわらかく弾力があるそれが何なのかと思い手で触れてみた。

男性はそれに触れると猛烈に嫌な予感がした。

そしてそれを思いっきり持ち上げ水から引き上げた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ」

男性は叫びをあげ尻もちをついた。

そして水から顔を出していたのは変わり果てた人間の死体だった。


志水澪音に病院まで付き添ったちょうどその時、冴木のスマホから着信音が流れた。

「はいはい。ん?鈴木か、はいもしもし。こっちは無事着いたけどなにか」

「大変です冴木さん。雨谷未央さんの遺体が発見されました」

それを聞いた瞬間冴木の目は鋭くなり背筋も伸びた。

「状況は?」

「川で釣りに来ていた男性が遺体を発見。持ち物から現在行方不明届けの出されている雨谷未央さんと判断。これから司法解剖に移すそうです」

「わかった。いったん戻って...いや、やっぱり大学病院に直接向かう。車頼めるか」

「そう言うと思ってましたよ。あと五分で着きます」

さきほどの志水澪音の出来事を考えると、おそらく雨谷未央の身にも相当不可解なことが起こっている可能性がある。

だとしたら直接聞いた方がいいと冴木は判断したのだった。


鈴木の車で大学病院に着いた冴木たちは使われていない教室の一つに通された。

そこでしばらく待っていると大柄な男性が教室に入ってきた。

「すいません。お待たせしてしまったみたいで」

「いえいえ、気にしないでください阿立先生。それで、結果は」

挨拶もそこそこに冴木は司法解剖の結果を求めた。

「それがなかなか不可解なことになっていましてね」

やっぱり、と冴木は思った。

「これがご遺体の写真なんですけど」

そう言いながら阿立は黒板に写真を張り付けた。

「これは」

隣で鈴木が息を呑んだ。

無理はないと冴木は思った。

その写真には無数の赤い手の後が全身に付けられた遺体が写っていた。

「手のサイズから大体5~7歳ほどのものと思われますが、それにしては力が強すぎますし、そもそもこの数に説明が付きません。1人くらいならまだしも手の大きさが違うので少なくとも10人は怪力を持った子供がいることになります」

「死因は何なんですか」

その冴木の問いに阿立は難しい顔をした。

「溺死だとは思います」

「思います?」

「はい。というのも体内から水が検出されなかったんです。右心血の血中カリウム濃度が高かったので水は入っていたとは思うのですが、体内には一切残っていませんでした」

「つまり溺死した後水だけがきれいに蒸発したと」

「すみません。私もこんなケース初めてでして」

頭を下げる阿立に冴木は手で制した。

「いえ、十分です。ありがとうございました」

そう言って冴木達は大学病院を後にした。


「いよいよって感じですね」

車の中で鈴木はそう言った。

「とにかく志水澪音には洗いざらい知ってること話してもらわないといけなくなったね~」

冴木が澪音を泳がせていたのは同情があったからだ。


行方不明になった人物を自分で見つけたいと思い行動するのはいいことだと思っている。

特に警察は多くの場合何の成果も得られずに捜査を断念してしまう。

そうなってしまった後はもはや被害者家族が探すしかないのだ。

それに探せる場所があるということは希望があるということだ。希望さえあれば早まったこともしないだろう。

だから好きにさせていた。

だが事情が変わってしまった。

不自然な遺体が出たのならそれはもう事件だ。

悪いとは思うがこれ以上第二第三の被害者が出ないように


その時鈴木の電話が鳴った。

「あっ冴木さん代わりに出てもらえます」

「はいよ。はいこちら冴木です。...なんですって」

「何があったんです」

信号で車を止めた鈴木が冴木の顔を見た。

「担任の熊野大吉が死亡したらしい」


次の被害者はもう出てしまった。

お読みいただきありがとうございます。

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