終わる夜、新たな夜
「君は薄情だね」
「…なんの事だ?」
「君は3日前から和乃がいじめられているのに気づいていた。それなのに君は黙っていた。助けようともせずにね」
正しいよ君は。
「それを薄情と呼ばずなんと呼ぶ?」
認めたくないけどね。
「その挙句、彼女のために涙ひとつ流さない」
「……」
「どうした?なにか言えよ」
「…流したよ」
「あ?」
「彼女のために流す涙は流しきった。次に出てくる感情は怒りだ」
そうだ、
そうだよ。
僕はこいつの息の根を止めに来たんだ。
「…不愉快だね。もう言葉遊びはいいから、かかってきなよ」
「そうだね」
普通なら勝てない。
こいつは和乃以上にそこが見えない。
でも、今は?
今は闇夜だ。
「今この時間はなんの時間だと思う?」
「…夜だろ?何を言っているんだ?」
夜…か。
あっているよ。
でも、少し付け加えよう。
「今は、僕の時間だ」
僕は兄に教えられた。
気配を消して攻撃することを、
闇夜に紛れて背後をとることを、
そして…
僕はこいつ背中を全力で殴った。
彼女は顔をゆがめながら、受身を取り立ち上がった。
「君はなんだ?今妖魔の気配はしなかった。でも、君の気配は人間のものとは思えない。それに、君のその手の青い炎のようなものはなんだ?」
僕が教わったことの最後のひとつ。
それは、
『魔力』を込めて攻撃することだ。
当然初めは信じていなかった。
でも、使えるもんは使えるんだから仕方がない。
「君が何者かは知らないけど、生半可な覚悟なら今すぐ帰れ。今から私は…本気で行くぞ」
その瞬間、彼女の気配がおぞましいものに変わった。
足の震えが止まらない。
でも、
「僕のやることは変わらない」
和乃を助けるんだ。
「そう…。じゃ、楽しい夜を始めよう!!」
人間に育てられた人外と無から生まれた人外の拳が重なる。
僕の手の蒼炎の火の粉が宙を舞う。
すぐに次の手へ、次の手へと。
「君やるね」
「はぁ…はぁ…」
相手は息切れひとつない。
対して僕は体力が減ってきている。
でも大丈夫だ。
「魔力はまだまだ残っているよ」
「そっか」
いくら魔力が残っているからといって、勝てるわけではない。
でも、可能性を切り開いてくれるのが魔力だ。
さぁ、覚悟しろ人外。
僕はここで君を殺す。
足と足が、拳と拳が何度も重なり合う。
僕はそいつの両腕を捕まえた。
後はこいつの腹を足で…
その瞬間、こいつはニヤッと笑って額に額を打ち付けてきた。
「っ!?」
視界がクラっとする。
1度体制が崩れてしまえば終わりだ。
全てが崩壊する。
そいつは何度も殴ってきた。
何度も何度も何度も何度も。
あぁ、ここで死ぬんだ。
気づけば地面に顔がついていた。
「ねぇ、これ何か分かる?」
そいつは手に何か持っていた。
手榴弾だ。
「じゃ、バイバイ」
僕は現実感がなかった。
手榴弾なんて日本にあるはずがないと。
でも、死の予感だけは警告音を鳴らしていた。
死ぬんだな僕。
誰か…和乃を守ってあげてね。
ピンを抜く音が聞こえた。
その後、衝撃音がした。
兄さん、あなたならこいつに勝てたのかな?
ごめんね兄さん。
せっかく戦う術を教えてくれたのに生かせなくて…
死にたくないよ…
ふと気づく。
目を瞑っていたが死んでなかった。
じゃあ、さっきの衝撃音は?
ふと音がした方を見ると人影がふたつになっていた。
「久しぶりだね。随分と派手な登場だね、ココロ」
「このままだと彼死んでいただろうからね。30%くらいで蹴らせてもらったよ。キオク」
「バケモノが…」
そこにたっているのは美しい女の人だった。
だが、気配はさっきの人外以上にバケモノだった。




