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## 第8話 「触れた瞬間、世界が少しだけ静かになる」



## 第8話 「触れた瞬間、世界が少しだけ静かになる」


夜。


朔の部屋は、いつもより静かだった。


時計の音だけがやけに大きい。


ルナはベッドの端に座っている。


いつもみたいに、少しだけ距離を保って。


でも今日は違う。


その距離が、落ち着かない。


---


「なあ」


朔が言う。


「うん」


「さっきの続き、まだ残ってる気がするんだけど」


ルナは少しだけ目を逸らす。


「続きってなに」


「わかってるくせに」


沈黙。


エアコンの音がやけに響く。


---


ルナはゆっくり立ち上がる。


そして、朔の方に一歩ずつ近づく。


「朔」


「ん」


「私、たぶん……ずるい」


「どこが」


「こういうの、覚えちゃったところ」


「何を」


ルナは答えない。


その代わり、ほんの少しだけ笑う。


---


距離がゼロになる。


もう、逃げられない距離。


朔のシャツの裾を、ルナが軽く握る。


その手が少しだけ震えている。


「ねえ」


「なに」


「これ、やっていいのかな」


「知らねぇよ」


「ずるい」


またその言葉。


---


沈黙。


呼吸が近い。


目を逸らす理由が、もうない。


朔は小さく息を吐く。


「嫌ならやめる」


「……嫌じゃない」


その言葉は、小さかった。


でも確かだった。


---


ルナが、ほんの少しだけ背伸びする。


朔は動かない。


逃げない。


---


そして――


触れる。


ほんの一瞬。


柔らかくて、静かで、現実っぽくない感触。


世界の音が、一瞬だけ消えた気がした。


---


数秒後。


ルナはゆっくり離れる。


顔が少し赤い。


でも、どこか不安そうでもある。


「……今の、何」


「知らねぇよ」


朔はそう言って、少しだけ笑う。


でも心臓はうるさい。


---


そのときだった。


空気が、わずかに揺れた。


ルナの輪郭が、一瞬だけ“薄くなる”。


「……っ」


朔が気づく。


「ルナ!」


ルナは慌てて自分の手を見る。


「今、一瞬……」


「消えかけた」


小さくそう言った。


---


沈黙。


さっきのキスの温度が、急に怖くなる。


ルナは俯いたまま言う。


「ねえ朔」


「なに」


「私、これ以上近づいたら、いなくなるかもしれない」


その言葉は、冗談じゃなかった。


---


朔は少しだけ間を置いてから言う。


「それでもいい」


ルナが顔を上げる。


「よくない」


朔は続ける。


「でも、離れるのも無理だ」


---


ルナは、小さく笑う。


今度の笑いは、ちゃんと人間っぽかった。


でも少しだけ泣きそうだった。


---


## エピソードタイトル


**「触れたら、存在が壊れるかもしれない少女」**


---



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