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転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第1章

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08:久々の人工物

 崖に沿って歩いていくと、今度は変わったものを見つけた。

 生い茂った下草に半ば埋もれるように、見慣れた質感のものが転がっている。


「あれは……」


 金属と加工された木材だった。

 大自然いっぱいのこの森の中で、異物と言っていいくらいの異質さだ。


「なんか、久しぶりに人工物を見た気がする」


 私は軽く感動しながらそれに近づいた。

 土にめり込み、草が殆どを覆ってしまっているけれど、よく見れば馬車の残骸だと分かった。

 比較的小ぶりな幌馬車だと思われる。


 私は崖上を見た。

 この位置からすると、崖から転落したと考えるのが妥当だろう。

 崖上には私が今日通ってきた細道がある。馬車が通るのはけっこう無理があると思うのだが、それでも無理矢理に通れば通れないこともないか?

 あるいは時期が違えば、もう少しマシな道があったとか。


「うーん。この馬車、だいぶ古いみたい」


 金属部分はすっかり錆びついて、木材部分も腐食が激しい。

 幌馬車の幌布はかろうじて切れ端が残っている程度で、ボロボロだ。

 少なくとも数年、もしかしたら数十年前のものかもしれない。

 車輪の片方が外れており、近くを探したが見当たらなかった。


 このまま乗り物として動かすのは無理だ。

 だが、腐食しているとはいえ木板は役に立ちそう。

 大破した馬車の下側を確認してみるが、案の定、破れた木材のおかげで雨風を防ぐのは難しそうだ。


 他にも何かないかと探していると、傾いた馬車の中に小箱がある。直径は二十センチくらいの木製の箱だ。


「おお?」


 開けてみたら、日用品の類が入っていた。

 金属のマグカップが二つ、小さなナイフが一つ。

 ハンカチだったと思われる布はボロボロになってしまっている。

 マグカップも錆びついていたが、こういう入れ物があれば霊珠や木の実の持ち運びが楽になる!

 というか、箱そのものも使える!


 箱は頑丈な木製で、四隅が金属で補強されている。

 質の良い木を使ったのか、腐食もない。

 表面には何やら文様のような浮き彫りが施されていた。


 箱の中にはさらに、小さな石片が入っていた。灰色でちょっと光沢のある石である。

 これはたぶん火打ち石だ。

 アートライトの実家で使用人たちが使っているのを見たことがある。


「ありがとう、昔の人!」


 この様子を見るに事故に遭って大変だったと思うけど、もう昔のことだし。

 今、生きている私が有効に活用させていただこう。

 私は箱にアケビの実を入れて、大事に抱えた。


 思ってもみない収穫物を得てしまった。

 こうなると、試したいことがある。





 私は馬車から少し離れた場所まで歩き、崖を眺めた。

 土と石が入り混じった地層である。


 霊珠を一つ取り出した。

 ぐっと握り込んで、漢字をイメージする。

 体から力が――恐らく魔力――が引き出される感覚と共に、空っぽの霊珠に文字が刻まれた。


 ――『爆』。


「できた……」


 これは、もしも想像通りの効果をはっきすれば、今までの『暖』などとは危険度が桁違いに高い。

 最初の『殴』ですら巨大な熊を吹き飛ばした。

 想定以上に大きな破壊力を発揮した場合、崖崩れが起きて巻き込まれる可能性もある。


「あれ。でも、『暖』はすぐに効果が出たのに。『爆』は何も起こらないや」


 よく考えれば『爆』が文字を刻んだ直後に発動したら、私自身が木っ端みじんである。

 今さらながらにその可能性に気づき、私は身震いした。


「ま、まあ、結果オーライということで」


『暖』が発動した時をよく思い出してみる。よくよく考えれば、発動を願ってごくわずかな量の魔力を使った気がする。


「よし。ここまで来たら、ものは試しよ」


 霊珠はまだ数に余裕がある。体力と魔力さえあれば、これからも作り出すことができる。

 であれば今、確かめておこう。


(……発動!)


 少しの魔力を込めた直後、私は崖に向かって霊珠を放り投げた。

 同時、距離を取るために走り出す。


 と。


 どっかーーーーーーーーーーーん!!!


 とんでもなく派手な爆音が響き渡り、爆風がすごい勢いで吹いて私は吹き飛ばされた。

 ごろごろと地面を転がって、近くの木にぶつかって止まる。伸び放題の銀の髪が絡まって、ひどいことになった。


「いたたた……」


 木にぶつかった背中が痛いけれど、怪我をしたと言うほどでもない。

 手足に絡まった髪を解く。

 この髪こんなに長く伸ばす必要はないのに、切って手入れする手間を実家の大人が惜しんだおかげでこんなんなんだよね。


 で、崖を見やれば、もうもうと煙が立っている。

 煙が収まるのを少し待って、私は崖に近づいた。


「おぉぉ……」


 崖には見事に穴が空いていた。石混じりの固く締まった土が崩れて、洞穴のようになっている。

 どうやら目論見は成功したようだ。


「『爆』の文字は、魔力で発動させた上で何かにぶつかると爆発するみたいね」


 そうでなければ、私の手の上で爆発したはずだ。

 これは中々いい発見である。

 この文字を使いこなせば、たとえ魔物が出ても戦える!


 私は洞穴を覗き込んだ。

 入口は縦横二メートル程度、奥行きは三メートルほどか。

 爆弾のことには詳しくないが、割と貫通力があるような気がする。まあ、この霊珠は実際の爆弾ではなく魔法のたぐいだから、挙動はあまり気にしないでおく。


 先ほどの天然の洞穴と違い、もちろん虫はいない。

 ただ爆発の余波なのか、ぱらぱらと土が崩れている部分がある。


「よし。補強しよう」


 私は壊れた馬車まで戻った。

 木材は腐食しているので、子供の手でも引きはがせる。板を何枚か剥がした。

 それを洞穴まで持ってきて、崩れかけた部分に埋め込むようにしてみる。


「とりあえず応急処置にはなったかな」


 即席DIYだ。

 若干不安定なのは否定できないが、土が崩れるのは止まった。


「いやー、良くない!? すごい良いよ、私の家!」


 きちんと三方が囲まれていて、屋根もある。

 最初の日の岩場は囲まれていたが、屋根がなかった。

 二日目は大木の根本で縮こまって寝た。

 それに比べれば洞穴のお家の何と素晴らしいことか。


「玄関のすだれは、明日以降に蔓草でも編んで作ればいいんじゃないかな」


 そうすれば完全に家だ。なんて素敵なんだろう。


「あ」


 テンションを上げていた私の頬に、水滴がかかった。

 ついに雨が降ってきたのだ。


「家造りが間に合ってよかった」


 私はもう一度馬車まで戻り、マグカップとナイフが入った箱を持ってきた。

 大事なものなので、新居の中央にでんと置く。


「さて。新しいお家で最初の食事といきましょう」


 箱を開けて、先ほど入れたアケビの実を取り出した。

 文字を刻んだり爆風に吹き飛ばされたせいで、少々体力を使ってしまった。

 ここはしっかり食べて回復させておこう。


「もぐもぐ。うん、甘くて美味しい」


 雨が降っているけれど、アケビの皮は少し遠くまで行って捨ててきた。

 甘い匂いに引かれて虫がたかっても嫌だし。


 雨雲に覆われた空は薄暗い。

 夕焼けが見えないと良く分からないが、体感ではそろそろ夕方だと思う。


 今日も一日歩き詰めだった。

 いい加減、足がパンパンだ。

 本当は着替えてお風呂に入りたい。

 でもそんな贅沢が許されるはずもない。


「霊珠、作っておこう」


 眠る前に、そろそろ日課になってきた霊珠作りをする。

 だんだんスムーズに作れるようになってきた。

 作った霊珠は二個は今まで通り服の袖に入れて、残りは箱に収めておくことにした。

 服の袖だと走ったり激しく動くと転がり出てしまいそうだし、普通に邪魔だったからだ。


 冷えてきたので、『暖』の文字を刻む。

『暖』を毎日使うとしても、もう一個は余裕ができる。何に使うか良く考えなければ。


「おやすみなさい……」


 洞穴とはいえ屋根と壁のある住処で、今までで一番安心して眠ることができた。

 さあ、明日は何をしようかな。


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