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【第二部完結】転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第5章

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74:二度目の訪問

 翌日から私とシルヴァは、岩山へ行ってドラゴン肉の料理をしまくった。

 焼肉と角煮の手順はもう慣れたもの。

 加えてシルヴァが火起こしや食器洗い用の水出し、暖を取るための魔法を使ってくれるので、とても便利である。

 前回よりもかなり効率的に、何百人前もの料理を作ることができた。


 ヴィオラと落ち合う予定の場所は、例の丘の中腹に作った倉庫。

 ラウルを信用しないわけじゃないが、シルヴァの小屋の位置はまだ教えないでおく。

 早めにしっかりと作った料理を運び込んで、彼らを待った。


 そうして十日後。

 雪の降り積もる丘のふもとに、二人の人影が現れた。ヴィオラとラウルだった。


「おかえり、ヴィオラ。いらっしゃい、ラウル。領主様との話し合いは上手くいった?」


 私が尋ねると、ヴィオラは微笑んだ。


「ええ、あれ以上おかしなことは言われませんでしたよ。ドラゴンのウロコも引き渡しました」


「俺の同行も許可された。半分以上、厄介払いのようだったが」


 ラウルは苦笑している。


「少なくとも建前上、じゃがいも栽培は領主の事業ということになった。麦の税の免除はないし、予算もないが、邪魔はされないで済む」


「とりあえずそれで十分よ。……あ、紹介するね。彼がシルヴァ」


「シルヴァだ。薬師をやっている。植物に詳しい……という『シナリオ』だな」


 シルヴァはむすっとした顔のまま答えた。

 アドリブで役割を押し付けたのを根に持っているようだ。


「実際詳しいじゃない」


「お前の押し付けた話ほどじゃない。じゃがいものことは知らん」


 言い返してからシルヴァはラウルを見た。


「一応、言っておこう。僕はハーフエルフだ」


 帽子を脱ぐと、少し尖った耳があらわになった。


「混血に対して差別が根強いのは知っている。『じゃがいもに詳しい薬師』の役を演じるために、僕は耳を隠すつもりだ。お前もそのつもりでいてくれ」


「ああ、分かった」


 ラウルは自然体だ。

 ハーフエルフを前に眉をひそめることも、「打ち明けてくれてありがとう」と言うこともない。

 シルヴァは鼻を鳴らして帽子を被り直した。


「ミャー?」


 コタローが顔を出して、知らないラウルを興味深そうに見上げた。


「おっと、いけない。この子も紹介しないとね。名前はコタロー。スノータイガーの子供なの」


「スノータイガー!? すごく希少で強い魔獣じゃないか。一体どうして」


「えーっと、岩山近くで迷子になっていたのを保護したの。親はいないみたいで」


 ドラゴンの話はまだできない。嘘をつくのは心苦しいが、仕方なかった。

 コタローはそうっとラウルに近づいて、匂いを嗅いだりしている。


「肉料理の在庫は十分のようですね。それでは行きましょうか」


 ヴィオラが言って、皆が頷く。

 一つの村用の肉をロバそりに詰め込み、まずは最初の村へ向かった。





「おお、ヴィオラさん。待っておったよ」


 最初の村に着くと、村長以下村人たちが出迎えてくれた。

 一ヶ月前に訪れた時は警戒されてばかりだったのに、今の彼らには笑顔が見える。

 心なしか顔色も良くなっているようだ。


 村長の孫が近づいて来て、私に話しかけた。まだ十歳にもなっていない小さい男の子だ。


「お姉ちゃん、あの肉、また持ってきてくれたの? あれを食べると力が出るんだ。冬は毎年ひもじくて、つらくて、嫌な季節だったのに。今年はへっちゃらだよ」


「そう、それは良かった。もちろん今回も持ってきたよ。今度は前にもらったお野菜入りでね」


「え?」


 村長が戸惑った顔になる。


「野菜は肉の代金代わりだったんじゃないかね? それをもらってしまったら、払えるものがない」


「あー」


 私は目をぐるっと回してみせた。


「大丈夫です。私が本当に欲しいのは、たくさんのじゃがいもなんですよ。春になったらキリキリ働いてもらうから、それでチャラってことで」


「しかし……」


 まだ困っている村長を遮るように、ヴィオラが言う。


「それで村長。頼んでおいた納屋はどうなりました?」


 倉庫というか納屋があんまりボロボロだったので、肉の代金の一環で建て直しを頼んでいたのだ。

 じゃがいもは湿気と日光に弱い。

 種芋の時点できちんと保存するため、納屋の建て直しは必須だった。


「それならやったよ。肉料理のお陰で体力に余裕があったからな」


 村長の息子が進み出た。


「これで問題ないか、見ておいてくれ」


 案内された先の納屋は、確かにしっかりと作り直されていた。

 穴だらけの屋根は塞がれて、日光が入り込むことはない。

 隙間風の吹く壁も修理され、これなら納屋として安心だ。


「ええ、大丈夫です。あとは湿気に注意しながら、種芋を保管してください」


「分かった。腐ったのは選り分けて捨てておいたから。春になったら植えるだけだ」


「畑の場所も目星をつけておいたよ。去年植えた場所は、続けて使うと病が起きやすい。少し離れた場所だ」


 村長と息子が口々に言う。

 確かにじゃがいもは輪作障害が強く出る。別の場所に用意してくれるならありがたい。


「それじゃ、こちらが今回のお肉です」


 ロバそりから冷凍された状態の肉を渡すと、村長ら村人たちは笑顔になった。


「またあの美味しい肉が食べられるなんて、本当に嬉しいわ」


 村人の女性が、大事そうに料理の包みを抱えている。


「私は今年の秋に出産したの。冬は食べ物がないせいで、お乳の出が悪くなって、赤ちゃんにひもじい思いをさせてしまうと覚悟していたんだけど。お肉を食べたら、豊作の年と変わらないくらい元気になったわ」


「……赤ん坊は飢えると簡単に死ぬ。体力が戻っていない母親も同じですよ。本当に助かりました」


 村長の妻が呟くように言って、頭を下げた。


「この前は疑ってすみませんでした。この肉のお陰で、村は救われた」


「そんな、大げさですよ。頭を上げてください」


 私は慌てて彼女の手を取る。


「春になるまでもう少し。来月もお肉を持ってきますから。それでしっかり体力つけて、春から働いてくださいね?」


「そういうことです。肉は決してタダではなく、施しでもないと忘れないでください」


 ヴィオラが少しだけ厳しい声を出した。

 村長が眉尻を下げた。


「ああ、分かってる。今は皆で冬を無事に乗り切るよ。……で、今回も野菜とチーズやミルクは要るかい?」


「はい、もちろん」


 乳製品は色んな料理で使う。貴族用レシピ開発に欠かせない。

 村の様子を見ながら、もらいすぎにならないよう気をつけつつ対価をもらった。


「そうそう、肉とじゃがいもの件はご領主様に話を通して、許可をもらったから。安心してくださいね」


「良かった。貴重な肉を私らが食べてお叱りを受けないか、心配だったんですよ」


 村長の妻がほっとしたように笑顔を見せる。


 こうして二度目の取引は和気あいあいとした雰囲気で終わった。


 その間、ラウルはずっと黙ったままでいた。


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