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【第二部完結】転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第5章

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69:ラウルの思い

 私がドラゴン肉の農民への商売をやっているのは、飢える人、特に子供を助けるためだ。

 その動機はとても個人的なもので、前世の娘と息子に償いがしたいからだった。

 私が早くに死んだせいで、あの子たちは苦労したはずだ。

 大人になるまでそばにいてあげられず、無念で悔しくて、申し訳なくて、今でも思い出すと泣きたくなる。


 だからせめて、この国の子供たちを一人でも多く助けたかった。

 娘と息子には何の償いにもならないとしても、そうしないではいられなかった。


 そして今、私の目の前には身を寄せ合う家族がいる。

 もしも私が助けになれるなら、手助けしたい。

 けれど食べ物のように切羽詰まった問題ではない以上、当人たちの意向を無視するわけにはいかない。

 だから私は、返事を待った。


「……君たちの言い分は分かった」


 長い沈黙の後、ラウルは口を開いた。


「君たちがやろうとしていることを、領主に言うつもりはない。そこは安心してくれ」


 彼は父を領主と呼ぶのか。既に修復不可能な溝があると感じる。


「だが、俺は協力しない。貧しい民たちが飢えようが苦しもうが、俺には関係ないからだ。普通の貴族であれば、彼らの血税で暮らしている責任があるだろう。だが少なくとも俺たち家族は、領主の金だけで暮らしていたわけではない。ろくに食べ物を与えられなかったから、子供の頃から外で小銭稼ぎをしていた。住む場所はあるが、冬の薪も事欠く有様だ。何よりも母は望んでここへ来たわけではない。無理に連れてこられた」


 ラウルはぎり、と拳を握りしめている。


「俺はこの北の土地が嫌いだ。貧しい寒さに震えるのも、他人から虐げられるのも、もう御免なんだ。貧しい民を助けたとて、俺に何の得がある? 手柄が立っても領主や義兄に譲るだけだろう。俺が成人した以上は、速やかに母と妹を連れてこの家を出る。それだけが望みだ」


 部屋に再び沈黙が落ちた。

 パチパチと暖炉の炎が爆ぜる音だけが聞こえてくる。


 ……そうか。彼はそんな生い立ちを抱えていたのか。

 賢い人で領主の一族であれば、農民たちの苦しさを分かってくれるかもしれない、責任感から立ち上がってくれるかもしれない。そう考えた私が甘かった。

 領主に言わないと約束してくれただけで十分だろう。


 分かった、と言いかけた私の言葉の直前、カミラが口を開いた。


「ねえ、プリムローズ。農村の農民たちは、そんなに貧しいの?」


「……そうね。冬になると、ほとんど毎年のように飢えて死ぬ人がいるそうよ。私が見てきた範囲では、みんな痩せこけて顔色が悪かった。家も粗末で寒かったな」


「そっか……。それじゃあその人たちは、あたしたちとおんなじなんだね」


 ラウルがはっとしたように妹を見た。


「だってあたしもお母様も、お兄様も。領主のお父様から助けてもらえないで、奥様に虐められてばかりだから。いつも寒くてひもじくて、大変なことがとっても多いよ。農民たちも誰かに虐められているの?」


「誰かに、というわけじゃないけど。開拓の支援をしてもらえず、税金ばっかり取り立てられているから、領主に虐められていると言えるかもしれないね」


「じゃあやっぱり、あたしと一緒だね」


 カミラは毛布にくるまったまま立ち上がった。


「ねえ、お兄様。その人たちを助けてあげたら? あたしはお兄様に助けてもらって、ずいぶん楽になったよ。お母様もいるから、今は大丈夫。だから……」


 カミラはまだ小さな手で、兄の手を取った。

 母親も言う。


「ラウル。私たちのことは気にせず、やりたいようにやりなさい。お前は今まで力を尽くしてくれました。親として苦労ばかりかけて、申し訳なく思っています。カミラ一人は、私が何があっても守ります。だから何も気にすることはないのですよ」


「母上、カミラ。俺は……」


 ラウルは戸惑いながら、母と妹を交互に見た。


「俺は自分が何をすべきなのか、未だに分からないのです。子供の頃は母上と二人で生きるのに必死だった。カミラが生まれてからは、守る人が増えた。王都の学院へ行って、初めてこの家がどれほど異常なのか知った」


 彼は頭を振る。


「プリムローズ嬢、それにヴィオラさん。あなたがたはどうなんだ。どうして民を助けるなどと、無関係なのにやろうとしている?」


「無関係ではないので」


 ヴィオラは答えた。


「私は貧しい村の出身で、幼い頃の飢饉の時、森へ捨てられました。彼らを見捨てるということは、かつての我が身を見捨てるということでもあります。彼らを助けるということは、無力だった自分の救済になる。それをプリムローズが教えてくれました」


「我が身を……見捨てる」


 ラウルは呟き、次に私を見た。


「プリムローズ嬢、君は? 王都の貴族家に生まれて辛い境遇だったろうが、北の民とは関係ないだろう?」


「それは……」


 さすがに今ここで前世の話をするわけにはいかない。

 考えながら、嘘にならないように話した。


「私には守りたい人がいたの。でも守れずに、私だけ遠いところへ来てしまった。もうその人たちには二度と会えないけれど、せめて何か償いがしたくて。目の前に困っている人、特に子供がいたら、見捨てられなかった」


「そうか……。守れなかった人のために……」


 ラウルは息を吐いて、妹の手を握り直した。冷え切ってしまった、でも少し温まってきた妹の手を。


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