69:ラウルの思い
私がドラゴン肉の農民への商売をやっているのは、飢える人、特に子供を助けるためだ。
その動機はとても個人的なもので、前世の娘と息子に償いがしたいからだった。
私が早くに死んだせいで、あの子たちは苦労したはずだ。
大人になるまでそばにいてあげられず、無念で悔しくて、申し訳なくて、今でも思い出すと泣きたくなる。
だからせめて、この国の子供たちを一人でも多く助けたかった。
娘と息子には何の償いにもならないとしても、そうしないではいられなかった。
そして今、私の目の前には身を寄せ合う家族がいる。
もしも私が助けになれるなら、手助けしたい。
けれど食べ物のように切羽詰まった問題ではない以上、当人たちの意向を無視するわけにはいかない。
だから私は、返事を待った。
「……君たちの言い分は分かった」
長い沈黙の後、ラウルは口を開いた。
「君たちがやろうとしていることを、領主に言うつもりはない。そこは安心してくれ」
彼は父を領主と呼ぶのか。既に修復不可能な溝があると感じる。
「だが、俺は協力しない。貧しい民たちが飢えようが苦しもうが、俺には関係ないからだ。普通の貴族であれば、彼らの血税で暮らしている責任があるだろう。だが少なくとも俺たち家族は、領主の金だけで暮らしていたわけではない。ろくに食べ物を与えられなかったから、子供の頃から外で小銭稼ぎをしていた。住む場所はあるが、冬の薪も事欠く有様だ。何よりも母は望んでここへ来たわけではない。無理に連れてこられた」
ラウルはぎり、と拳を握りしめている。
「俺はこの北の土地が嫌いだ。貧しい寒さに震えるのも、他人から虐げられるのも、もう御免なんだ。貧しい民を助けたとて、俺に何の得がある? 手柄が立っても領主や義兄に譲るだけだろう。俺が成人した以上は、速やかに母と妹を連れてこの家を出る。それだけが望みだ」
部屋に再び沈黙が落ちた。
パチパチと暖炉の炎が爆ぜる音だけが聞こえてくる。
……そうか。彼はそんな生い立ちを抱えていたのか。
賢い人で領主の一族であれば、農民たちの苦しさを分かってくれるかもしれない、責任感から立ち上がってくれるかもしれない。そう考えた私が甘かった。
領主に言わないと約束してくれただけで十分だろう。
分かった、と言いかけた私の言葉の直前、カミラが口を開いた。
「ねえ、プリムローズ。農村の農民たちは、そんなに貧しいの?」
「……そうね。冬になると、ほとんど毎年のように飢えて死ぬ人がいるそうよ。私が見てきた範囲では、みんな痩せこけて顔色が悪かった。家も粗末で寒かったな」
「そっか……。それじゃあその人たちは、あたしたちとおんなじなんだね」
ラウルがはっとしたように妹を見た。
「だってあたしもお母様も、お兄様も。領主のお父様から助けてもらえないで、奥様に虐められてばかりだから。いつも寒くてひもじくて、大変なことがとっても多いよ。農民たちも誰かに虐められているの?」
「誰かに、というわけじゃないけど。開拓の支援をしてもらえず、税金ばっかり取り立てられているから、領主に虐められていると言えるかもしれないね」
「じゃあやっぱり、あたしと一緒だね」
カミラは毛布にくるまったまま立ち上がった。
「ねえ、お兄様。その人たちを助けてあげたら? あたしはお兄様に助けてもらって、ずいぶん楽になったよ。お母様もいるから、今は大丈夫。だから……」
カミラはまだ小さな手で、兄の手を取った。
母親も言う。
「ラウル。私たちのことは気にせず、やりたいようにやりなさい。お前は今まで力を尽くしてくれました。親として苦労ばかりかけて、申し訳なく思っています。カミラ一人は、私が何があっても守ります。だから何も気にすることはないのですよ」
「母上、カミラ。俺は……」
ラウルは戸惑いながら、母と妹を交互に見た。
「俺は自分が何をすべきなのか、未だに分からないのです。子供の頃は母上と二人で生きるのに必死だった。カミラが生まれてからは、守る人が増えた。王都の学院へ行って、初めてこの家がどれほど異常なのか知った」
彼は頭を振る。
「プリムローズ嬢、それにヴィオラさん。あなたがたはどうなんだ。どうして民を助けるなどと、無関係なのにやろうとしている?」
「無関係ではないので」
ヴィオラは答えた。
「私は貧しい村の出身で、幼い頃の飢饉の時、森へ捨てられました。彼らを見捨てるということは、かつての我が身を見捨てるということでもあります。彼らを助けるということは、無力だった自分の救済になる。それをプリムローズが教えてくれました」
「我が身を……見捨てる」
ラウルは呟き、次に私を見た。
「プリムローズ嬢、君は? 王都の貴族家に生まれて辛い境遇だったろうが、北の民とは関係ないだろう?」
「それは……」
さすがに今ここで前世の話をするわけにはいかない。
考えながら、嘘にならないように話した。
「私には守りたい人がいたの。でも守れずに、私だけ遠いところへ来てしまった。もうその人たちには二度と会えないけれど、せめて何か償いがしたくて。目の前に困っている人、特に子供がいたら、見捨てられなかった」
「そうか……。守れなかった人のために……」
ラウルは息を吐いて、妹の手を握り直した。冷え切ってしまった、でも少し温まってきた妹の手を。




