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転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第4章

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60/64

60:領都へ

「はふっ、はふっ、熱ッ!」


 スプーンでシチューを口に入れたシルヴァが、熱さに目を白黒させている。

 それを見たヴィオラは、上品にふうふうとスプーンに息を吹きかけてから口に含んだ。


「まあ……! なんて優しい味でしょう。バターとミルクの味があふれるようです」


「ね。シンプルだけど奥深い味よね」


 私も少しずつシチューをすくって食べた。


「ミャオ~ウ」


 コタローも美味しそうに舌鼓を打っている。

 コタローには、炒めたドラゴン肉に味付け前のホワイトソースを少し載せたものをあげた。他の野菜は抜きだ。

 魔獣だから大丈夫かもしれないが、万が一にも玉ねぎなどを食べてお腹を壊してはいけないので。

 ミルクの味が気に入ったようで、何度もお皿を舐めていた。


「これは美味いな……。角煮や焼肉も美味かったが、あれは素材の味がメインだった。このシチューはミルクのソースと具材の味がよく絡み合っている」


「しかも体が温まります。バターが入っているお陰でしょうか」


「肉がまた美味い。噛むとじゅわっと肉汁が出てきて、ソースの味を高めてくれる」


 シルヴァとヴィオラが頷き合っている。

 二人とも食レポが上手になっているのが、何だか可笑しい。


「私の前世では、冬の家庭料理の定番だったの。この世界なら、貴族向けのレシピでいけるんじゃない? 私が王都の実家にいた頃も、こういう料理はなかったし」


「ええ、十分です。これは確実に貴族の心も掴みますよ」


 ヴィオラは力強く言った。


 このシチューで領主の奥様の心を掴んで、貧しい人たちへドラゴン肉を安価で売る商売を認めてもらわねばならない。

 できればじゃがいも栽培も根回しして、領主公認の事業になれば理想的だ。


 私は鍋を指さした。


「今、シチューはちょっと多めに作ったから。粗熱を取ったら小分けにして、『冷凍』しよう。それを持って交渉に行こう」


「了解しました。強力な商材をありがとう、プリムローズ」


「こちらこそ。私が言い出したことだから、成功させないとね」


 私たちは笑い合う。


 これから先の不安はあるけれど、今この時は。

 美味しいシチューを食べながら、幸せな一時を過ごした。





 翌日、私とヴィオラは領都へ向けて出発することにした。

 シルヴァとコタローはお留守番だ。

 希少なスノータイガーの子であるコタローは、毛皮目的で悪質な商人や猟師に狙われかねない。

 シルヴァはハーフエルフの耳を隠すため帽子をかぶる必要があるが、貴族の前では脱がなくてはいけない。


「お前たちだけでは心配だが……仕方ない。コタローの世話をしておくから、早めに帰ってくるんだぞ」


 最後まで憎まれ口を叩きつつ、シルヴァは見送りをしてくれた。


 飛行のための漢字を背中の霊珠へセットする。

 ヴィオラに乗ってもらって、彼女の体もベルトで固定した。


「昨日のスピードからすると、今日のうちに領都に到着できると思います」


「うん。さっさと行って、さっさと済ませてしまおう」


 折しも今日は晴天。

 雪が降っていない分、飛びやすい。

 その代わり他人から見つかりやすいので、街道の上空は避けて人目につかないよう進むつもりだ。


「それじゃあ、行ってきます!」


 私は軽やかに宙へと舞い上がる。

 地上のシルヴァとコタローついでにロバに手を振って、飛び立った。


 荷物には、一人前ずつ『冷凍』したドラゴン肉のシチューがしっかり入っている。


 目指すは北東。

 この一帯を治める領主の住む町だ。





 朝のうちにシルヴァの小屋を出発し、昼休憩を挟んで夕方前には領都近くまでやって来ることができた。

 さすがにここまで来ると人通りが多い。

 私たちは街道から少し離れた木立の中にこっそり着地して、何食わぬ顔で街道へ出た。


 真冬の陽は短い。時間はまだそう遅くないが、早くも辺りは暗くなり始めている。


「領都は城壁で囲まれた町で、門があります。日没と同時に門が閉まってしまうので、急ぎましょう」


 ヴィオラの言葉に、私たちは急ぎ足で町へと向かった。

 門には門衛が立っているが、身元検査などは特にない。その代わり入町税を取られた。


「町に入るだけで税金を取られるの?」


 前世日本の常識ではありえない。私は不満だったけれど、ヴィオラは気にしていないようだ。


「大きな町では珍しくありませんよ。さて、今日はもう暗くなってしまいました。宿を取って、明日ご領主様のお屋敷に行きましょう」


 大きい町なだけあって、表通りには宿屋も数軒立ち並んでいる。

 ヴィオラは迷わず一軒の宿に入った。領都に来た時はいつも利用しているとのことだった。

 簡素だがよく掃除の行き届いた部屋で、居心地はなかなか良い。


 と、コンコンと扉がノックされる。

 少し警戒した私に反して、入ってきたのは宿の女中さんだった。


「お湯を持ってまいりました。お体を拭くのにお使いください」


 大きめのタライの中には、湯気を上げるお湯が張られている。

 さすがにお風呂はないけれど、お湯に布を浸して絞り、拭くと気持ちが良かった。

 汗も落ちるし、体が温まる。


 しばらくして同じ女中がタライを下げに来た。

 ヴィオラと顔見知りのようで、気軽に挨拶をしている。

 女中がふと言った。


「そういえばヴィオラさん、今日はロバがいないんですね。手放したんですか?」


「いいえ。今回は小さい取引なので、ロバは人に預けて来ました。身軽に動きたくて」


「あら、そうでしたか」


 シチューとドラゴンのウロコなどで、物理的に小さいモノ(規模や金額が小さいとは言っていない)の取引。

 他にも何一つ嘘は言っていない。

 ある意味、お見事……!


 ヴィオラが女中を軽くあしらう間、私は何とも言えない微妙な顔で黙っていたのだった。


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