59:ドラゴンシチュー
人間と虎とロバはシルヴァの小屋に降ろして、私はさっさと野菜を岩山に運び込んだ。
『剛』の霊珠があれば力仕事はあっという間に終わる。
丘の斜面と岩山を二往復して、野菜もすっかり片付けた。
それからドラゴン肉を少々と野菜をいくらか持って、シルヴァの小屋に戻る。
新しい料理、それも冬にぴったりの料理はすでに思い浮かんでいた。
「ただいまー!」
小屋の扉を開けると、既にかまどの準備がされている。
鍋は湯気を立てるお湯で満たされて、温かい空気が漂っていた。
「おかえり」
「おかえりなさい」
「ミャー!」
「プギー」
みんながそれぞれに出迎えてくれた。
さすがに厳冬期なので、ロバも部屋の隅に入れてもらっている。
「思ったより早かったですね」
ヴィオラが白湯の入ったマグカップを差し出してくれた。
「うん。二往復で全部片付いたから」
私はそれを受け取って、コクリと飲む。熱いお湯が喉を滑り落ちていく感触が心地よい。
「それで、移動中に貴族用の料理も考えておいたの」
「ほう。仕事が早いな」
シルヴァがコタローの毛並みを撫でている。
「で、どんな料理だ?」
「ふっふっふ。聞いて驚いてね。その名も――『ドラゴン肉のホワイトシチュー』よ!」
私は胸を反らした。
寒い冬の人気メニューと言えば、これだろう。
前世の娘と息子もシチューが大好きだった。冬になったら必ず作ったものだ。
お肉が安い鶏肉で済むのもポイントが高い。
そう、鶏肉だ。
ドラゴン肉はどちらかというと四つ足より鶏肉っぽいので、こっくりしたホワイトシチューが合うはず。
「ホワイトシチュー? どんな料理ですか、それは?」
ヴィオラが首をひねっている。シルヴァも知らないようで、肩をすくめた。
「あ、やっぱりシチュー、この国にはないんだ」
プリムローズとしても食べたことがなかった。
前世ならば市販のルウの出番だが、なくても作れる。
昔、節約レシピで小麦粉から作ったことがあるのだが、結局コスパは市販のルウに軍配が上がった。
ああいう手作りは結局、製品版を使った方が安上がりで美味しいのよね。前世の技術はすごい。
まあ、あの時は一緒に作った子供たちが喜んでいたので、それでいい。
「材料は小麦粉、ミルク、バター。それだけ。作り方も難しくないよ」
さて、材料の比率はどうだったか。
少し考えて思い出した。
「バターを一、小麦粉を一、ミルクを十の比率で用意します」
「なんで急に敬語? ドラゴンの解体の時もそうだったよな」
シルヴァが不審そうな顔をした。
いやだって、実況といえば丁寧語でしょう。
「せっかくなので、ちょっと多めに作りましょう。火加減は弱火で。まずはバターを溶かします」
弱火と言うが、かまどの火は前世のガスコンロのように簡単に調整はできない。
結果、かまどの上に小さな台を乗せて火から遠ざけ、弱火のようにした。
バターはゆっくりと溶けていく。
外が寒かったので、冷たくなってしまっていた。
本当は室温に戻すのがベターだが、まあ仕方ない。
「バターが溶けましたら、小麦粉を投入します。木べらでしっかり炒めて、ホワイトソースのルウを作ります」
しばらく炒めていると、だんだんバターと小麦粉が混ざってくる。
もったりとしていた鍋の中身が、徐々になめらかに変わっていった。
「あら。既に美味しそうですね」
ヴィオラが鍋を覗き込むが、私は手を止めない。
「まだちょっと粉っぽいので、もう少し混ぜます」
「あくまで敬語なんだな……」
シルヴァが呆れている。別にいいじゃない。こういうのは気分とノリが大事。
さらに炒め続けていると、フツフツと気泡が出てきた。
全体の色も白っぽくなっている。木べらですくってみると、サラリとなめらかな感触がした。
「よし、ここまで。これ以上は焦げてしまいます」
私は鍋を火から下ろした。
前世であればコンロの火を止めるだけだが、かまどの火はすぐに消せない。色々不便である。
鍋の粗熱を取る間に、ミルクを温めておく。沸騰させない程度の温度が良い。
温まったら鍋に投入だ。
「もう一度火に掛けて、今度は沸騰させます。牛乳は少しずつ加えるのがコツですね」
鍋のホワイトソースを熱していくと、とろみが出てきた。
木べらですくい上げれば、とろ~りと筋がつく。そろそろいいだろう。
「塩とスパイス類を加えて、完成です!」
「おおー」
「いい匂いだ」
鍋を掲げてみせると、ヴィオラとシルヴァが拍手してくれた。
「ミャ~!」
コタローも興味深そうに鼻とヒゲをピクピクさせている。ロバもこちらを見ていた。
「といっても、これはソースだけどね。このホワイトソースを使って、シチューを作るの」
ここからは簡単だ。いつもの慣れたシチューの手順である。
ドラゴン肉と野菜類――村でもらってきたニンジン、玉ねぎ、じゃがいもを一口大に切って、油で炒める。
火が回ったら水を加えて、十五分ほど煮込む。今回は固形のルウではないので、水は控えめにする。
ホワイトソースのいい匂いと、具材の煮える香りが漂う。
その頃にはもう、みんなソワソワしていた。
「おい、プリムローズ。まだできないのか?」
「はいはい、もう少しだけ待ってね」
ホワイトソースを加え、かき混ぜながら五分ほど煮込む。
ミルクを加えてさらに煮込んだら、完成!
「はい、できあがり! 盛り付けるから、みんな座って!」
「待ってました」
みんな揃って食卓についた。
コタローも食卓の横で待機している。
熱々の湯気が立つシチューを器に盛り付けた。
順に配れば、シルヴァとヴィオラはうっとりとした顔をしている。
「さあ、食べよう!」
「いただきます!」
「フミャ!」




