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転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第4章

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58/64

58:小さな魔法

「別に追われていないよ。私が行方不明になった当初は、実家が形だけ探していただろうな、というだけ」


 消えた娘を探すポーズくらいはしておかないと、世間体が悪いだろう。

 あからさまに放置すれば、お母様の実家である侯爵家も不審の目で見てくるに違いない。

 その辺の追及をかわすために、うまいことやったと思うのだ、あのクソ父は。


 王都からこの北の土地までは、街道を通っても一ヶ月はかかる距離である。

 間に別の貴族の領地を挟んで、噂なども届きにくい。

 だいたい、私が森に放り込まれてからもう何か月も経っている。

 今でも探しているとは思えないし、そもそもこの土地まで捜索情報が回っているとは思わない。


「というわけで、大丈夫。別に目立つようなことはしないし」


「そうか……。目立たないというのは、大いに疑問が残るが」


 シルヴァは複雑そうな顔ながらも頷いた。


「じゃあ、急いで貴族用のレシピを考えるね。何ならそれを作って『冷凍』して持っていこう」


 話はまとまった。





 野菜や乳製品をロバそりの荷台に積み込んで、一度、岩山のドラゴン肉がある場所まで戻ることにした。

 野菜は岩山の倉庫(という名の洞窟)に保存する予定だ。

 寒い今の季節であれば、『冷凍』は必要ないだろう。天然の冷蔵庫である。

 肉料理の時は何往復もしたけれど、今回は二、三往復で全部運べそうだ。


「霊珠の漢字は『悠』でもいいんだけど。せっかくだから、少し違うのを試してみたい」


『軽快』の『軽』などどうだろうか。安定はしつつ『悠然』よりはスピードが出そうだ。


「『軽』『飛』『行』!」


 試しに『翼』を抜いてみる。

 背中に装着した魔道具の霊珠が光を放った。


「お? 悪くない、けど」


 トンと地面を蹴ると、私の体が軽やかに空へ舞い上がった。

 びゅう、と耳元で風が鳴る。

 スピードもそこそこ出るし、安定感もある。ただ『翼』がある時の方がずっと小回りが効くというか、かなり便利な感じがする。


「飛ぶという行為は、翼と強く結びついている。鳥もそうだし、空を飛ぶ多く神の多くも翼を持っている」


 シルヴァが言う。


「つまり、飛ぶという概念と翼はセットになっているんだろう。お前の霊珠は概念が強く働く魔法だからな」


「なるほど。翼はただの飾りではなかったのね」


『翼』一文字では飛べないが、『飛行』と組み合わせるにはベストな文字ということか。

 そういうことなら使うことにしよう。


「『翼』!」


 霊珠に文字が刻まれると、背中の魔道具から光り輝く大きな翼が現れた。

 このままでは目立って仕方ないので、ぐっと意志を込めて小さく光らなくする。

 最初の状態では片翼二メートル以上あったが、今は三十センチ程度だ。キューピットという感じ。

 小さくしても特に性能が変わらないのだから、最初から小さい状態で出てくればいいのに。


(あの魔王と仲の良い女性の趣味だったりして)


 光り輝く翼とか、いかにも好きそうである。


「さあみんな、背中に乗って固定してね」


 野菜を積み込んだ荷台に『軽』を付与して紐で固定し、乗ってもらった。

 前回の空の旅の時は、まだ冬の初めだった。今の季節は真冬へ変わっている。

 雪がちらついていて風はかなり冷たい。特に今回は『悠』よりもスピードを出すので、体温が奪われそうになる。


「これは『暖』も使った方がいいかな」


「いや、待て。そのくらいなら僕がやる」


 背中のシルヴァが言った。言葉と同時に彼の魔力が巡るのが分かる。


 そして。

 ふわり、と。優しい暖気が背中に生まれて私を包み込んだ。


「これ、シルヴァの魔法?」


「そうだ。これを見ろ」


 彼は私の背中から飛び降りて、新しく作った杖を見せてくれた。

 複雑な回路といくつかのカラの霊珠が嵌め込まれた杖は、なめらかに魔力を循環させている。

 魔力は暖かな空気を生み出して、みんなを温めてくれた。


「霊珠に文字を入れていないのに、魔法が使えるの?」


 私が驚くと、彼はニヤリと笑った。


「そうだ。文字を入れれば霊珠は砕けるが、僕の杖の中で魔法を使っても壊れることはない。ただ魔力が巡るだけだ。神への祈りは必要なく、僕の意志に応じて効果が出る。お前の漢字と同じように」


「すごいじゃない! エコだよ!」


「まあ、その代わり効果は漢字よりも低い。暖気の魔法もお前ほどの暖かさではないし、範囲も狭い。僕自身の魔力も相応に消費する」


「それでもすごいよ。漢字と似たような効果ということは、工夫次第で色々なことができるもの」


「まあな。お前のお陰だよ」


 シルヴァは嬉しそうだ。

 かつて「ハーフエルフは魔法的無能」と自嘲していた彼が、遂に力を手に入れた。

 私のお陰と言うけれど、魔族の技術を長年研究していたのは彼自身。新しい技術を見つけてきたのはご両親。

 努力と想いが報われたのだと思うと、私まで嬉しくなってしまった。


 弾む心のままに、もう少し体を浮かせる。


「よし。それじゃあ寒い中を飛んでも平気ね。行くよー!」


「おい、待て! まだ僕が乗り込んでいない!」


 シルヴァは慌てて荷台に飛び乗った。

 最初の時は飛行を怖がっていた彼だが、だいぶ慣れたようだ。


「うわぁ……。高い。怖い」


 少し高度を上げると、背中からそんな声が聞こえてくる。……慣れていなかったようだ。


「怖くないでしょう。ほら、岩山の稜線がきれいに見えますよ」


「見たくない! 怖い!」


「ミャー」


「やめろコタロー、動くな! バランスが崩れる!」


 ロバの声がしないのは、今回も卒倒したからかな。合掌。


 こうして私たちは、半月ぶりに森へと戻ってきたのだった。




お読みいただきありがとうございます。

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