53:オンボロ納屋
確かに、私が農業指導役では違和感がありすぎる。
「私というか、彼が。シルヴァは若いけれど、優秀な薬師です」
なので今回もシルヴァに押し付けた。
彼も十四歳の外見なんだけど、天才薬師の設定をかぶせて何とかしてもらおう。実際、長生きしている分だけ物知りなわけだし。
「ね、シルヴァ。シルヴァは薬師だから、植物に詳しいものね?」
返事はイエスもしくはハイで言うべし。
プレッシャーをかけながら迫ると、彼はコクコク頷いた。
「そうそう。その通り。植物のことは僕に任せてくれ」
またもやちょっと棒読みである。大根役者め。
村長たちは半信半疑の様子だったが、目の前にぶら下げられたドラゴン肉の魅力には勝てなかったようだ。
「まあ、そのくらいなら……。それで今年の冬を乗り切れるのなら」
と、村長は受け入れてくれたのだった。
◇
この村の人口は、子供も入れて五十二人。ごく小さな村だけど、ここら一帯では標準的とのことだ。
元は開拓村として振り分けられて、そのまま定住しているとのこと。
冬が寒く、税の取り立ても厳しいために暮らし向きは苦しい。
村長が言う。
「少しの不作でも、年寄りや子供の体力がない者は飢え死にしかねなかった。今年も覚悟はしていたんだ。だが、この肉があればどれだけ助かることか」
「ええ、良かった。でも私たちも施しではありませんからね。対価の野菜やチーズはもらっていきます。あとは来年の種芋の準備」
倉庫に案内してもらう。
村長夫妻、ついでに息子夫妻もついてきた。
たどり着いた先は、倉庫というか粗末な作りの納屋だった。
今は雪が積もっているが、屋根はあちこち破れて積もった雪が見えている。
冬でなければ日差しも入るし、雨漏りもひどいだろう。
ここまでボロボロであれば、修繕で何とかなる範囲を超えているかも。建て直しが必要だ。
(こんな所に置いておいたら、種芋じゃなくても腐っちゃうな)
私はシルヴァとヴィオラを手招きして、相談した。
「ねえ、二人とも。じゃがいもという野菜は、栄養たっぷりで飢饉対策になるわ。でも管理が少し難しい。じゃがいもは種じゃなくて種芋を植えるから、種芋が腐っていては話にならない。保存のために、しっかりした倉庫が必要なの。どうしたらいいと思う?」
「じゃがいもの話は、前世の知識ですか?」
「うん、そう」
「なら確かですね」
ヴィオラは考え込んだ。
「お前が霊珠を駆使して倉庫を作ってやる……のは、駄目だな。特殊な魔法使いの噂を広めるわけにはいかん」
と、シルヴァ。
ヴィオラは腕を組んだ。
「であれば、村人自身に作ってもらうしかないですね」
「でも、納得してくれるかな?」
「そこは説得のやり方次第でしょう」
というわけで打ち合わせの後、私たちは村長らに向き直った。
「あー、村長。僕たちはじゃがいもがたくさん欲しい。あれは良い野菜だ。肉の付け合せに、ぜひ欲しい」
シルヴァが棒読み口調で言った。
私は横に立って、黒子よろしく彼にセリフを囁いている。
村長は戸惑いながらも答えた。
「じゃがいもか。正直あれが良いものとは思えんが、あんたらがそう言うなら作付けを増やすよ」
「ああ、ありがとう。それで、じゃがいもは種芋の時から管理が大事だ。腐った芋は育たないからな。で、この納屋では良い状態で保存ができない。新しい納屋を作って、日差しと雨風が吹き込まないようにしてくれ。お日様と湿気が種芋の大敵なんだ」
「そりゃ、大作業になる。飢える冬にそんなことまでできませんよ」
村長は難色を示した。
私はつい口を出した。
「ドラゴンのお肉があるでしょう。あれを食べれば力が出るはず。この納屋だけでいい、しっかり種芋を保管して欲しいんです!」
「いやしかし、肉の対価は野菜と言ったじゃないか。あとはじゃがいもを増やすだけ。納屋までは聞いていない」
おっと、そう来たか。
どう言い返すか考えていたら、ヴィオラが一歩前に出た。
「村長さん。私の行商人の師匠から、私がどういう生まれか聞いていますよね」
村長と妻は頷いた。
「ああ。お前さんは二つ向こうの村の子だろう。二十年ほど前の飢饉で森に捨てられたが、親切な人に拾われて助かったと聞いた」
「ええ、そうです。だから私は貧乏が嫌いで、本当はドラゴンの肉も貴族にだけ売るつもりでした。ところがこのプリムローズが……」
彼女は私を振り返る。
「私の身の上話を聞いて、飢える人を減らしたいと言い張るんです。そして、今度はじゃがいもを作ればお腹を満たせると言う。見ず知らずの他人のために骨を折る、ただのお人好しの馬鹿ですよ」
「そんな言い方……」
私の動機は公共心だけじゃない。もっと個人的なものも交じっている。
言いかけた私をさえぎって、ヴィオラは続けた。
「考えてみてください。村の皆さんやかつての私のように、貧しくて何も持たない者に対して、こんなにも心を配る人がいたでしょうか。きっかけはドラゴンの肉ですが、あれはいつかはなくなる。でもじゃがいも栽培が上手くいけば、私のように捨てられる子供はいなくなる。そのための第一歩として、納屋の建て直しが必要なのです」
「…………」
村長と村長の妻は黙った。
彼らも過去に飢饉で辛い思いをしたはずだ。身内を亡くしたり、もしかしたら子供を捨てたのかもしれない。
「ちょっと待ってくれ。納屋を建てろというが、それだけで本当に上手くいくのか?」
疑問の声を上げたのは、村長の息子だった。




