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転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第4章

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52/64

52:じゃがいもの可能性

「ドラゴンの肉なんていうすごいものを、お貴族様を差し置いて、あたしらが食べるなんて。お貴族様に知られたら、罰を受けちまいますよ!」


 村長の妻は本気で怖がっているようだ。

 手に持った食器をどう扱っていいのか、迷っているように見える。


「大丈夫です」


 だから私は言った。


「貴族用には、特別な料理としてドラゴン肉を売る予定です。今、皆さんにお出ししたようなシンプルな料理ではなくて、もっと豪華でオシャレな料理です。ちゃんと差別化して売りますから、罰を受けることはありませんよ」


「そう……?」


 村長の妻はそれでも疑わしそうな目で私を見る。

 ただ、角煮の煮汁の誘惑に勝てなかったようだ。器の汁をずずっと飲んだ。美味しさについ顔がほころんでいる。


「で、本当に代金はクズ野菜やチーズでいいのかい? それ以外に出せるものはほとんどないが」


「ええ。野菜があれば、もっと料理ができますから。どんな野菜がありますか?」


「たいしたものはないですよ」


 村長の妻と息子の妻が立ち上がり、土間の奥へ消える。少しして戻ってきた。

 手に持っているカゴを覗き込むと、キャベツやニンジン、大根なんかの日持ちする野菜が入っていた。


 ただキャベツは小ぶりで表面は虫食いだらけ。ニンジンと大根も干からびて小さい。

 玉ねぎもやけに小ぶりで、皮が破れている。


 その中で、私は一つの野菜に目を奪われた。


「これって、じゃがいも?」


 しなびてシワシワで小さいけれど、じゃがいもに見える。前世は北海道民で、農業のヘルプもしていたのだから間違いない。

 この世界は中世ヨーロッパ風だと思っていたけれど、じゃがいもがあるのか。

 王都の実家では見たことがなかったので、驚いた。


「ああ、じゃがいもだ。すぐ傷んでしまうし、そうしたら毒になるしで、ろくでもない野菜だが」


「じゃがいもがろくでもない……?」


 じゃがいもは栄養もカロリーもたっぷりな、食料不足地域の救世主のような野菜なのに。


「じゃがいもは長持ちするいい野菜ですよ。常温でも三、四か月は保つでしょう?」


 私が言うが、村長は首を横に振った。


「そんな馬鹿な。すぐに緑色になって、芽が出るだろ。そうなれば食べると腹を壊しちまう」


 じゃがいも毒か。

 太陽に当ててしまうと、確かにそうなる。

 けれど新聞紙に包んで――いや、この世界には新聞紙がないので布袋にでも入れて、太陽が当たらない地下室などで保存すれば長持ちするはずだ。


「畑に埋めても腐ることが多く、あまり増やせないんだよ。一応作っているが、良くない野菜だ」


 と、村長。


(そんなことってある? ……いいや、種芋の管理が甘ければそういうこともあるかもしれない)


 前世の農業は種・種芋の確保の時点で優れている。

 農家であっても専用の種苗業者から種を仕入れて、それを使う。

 専用の種や種芋はきちんと殺菌されていて、病気になりにくい。


 逆に病気持ちの種芋を植えてしまえば、周辺の畑に病気が感染してしまいかねない。

 ……と、前世の職場の同僚で農家が実家の前田さんが言っていた。

 彼女には収穫期のバイトを紹介してもらったりして、助けられたんだった。


 私はカゴの中のじゃがいもを手に取った。ぶよぶよしている。

 軽く握ってみたらなんか汁が出てきた。これは腐っている。

 もう一つ手に取る。こっちは弾力があり、しっかりしている。大丈夫そうだ。


 私はふと思った。

 じゃがいもの栽培。

 これがしっかり成功すれば、この地域の食料不足改善に役に立つのでは……?


 じゃがいも栽培のノウハウは、基本的なものであれば私が知っている。前田さんが教えてくれた。

 きっと、不可能ではない。


「今回は一通りの野菜をください。でもそのうち、じゃがいもがいっぱい欲しいですね。じゃがいもを増やすために、良い種芋を選別しておかないと」


「プリムローズ?」


 ヴィオラが疑問の眼差しを向けてきたので、私は親指を立ててみせた。任せてくれ、の合図である。


「じゃがいもはしっかり育てれば、良い野菜ですよ。肉との相性もいいので、春以降に作付けを増やしてもらえれば」


「春? だが、ドラゴンの肉は春になれば腐ってしまうんだろう?」


 村長が言うが、私は首を振ってみせた。


「……実を言うと、ドラゴンの肉はあの岩山の方で見つけた……と仲間が言っていました。あそこは奥に行けば万年雪が積もっているくらい、寒い山でしょう? だから春になってもしばらくは保ちます」


「何? あんたらは岩山まで行ったのか? あそこは危険な魔獣がたくさん出ると有名だぞ」


 村長の息子が声を上げる。


「そこのシルヴァは薬師で、魔除けのお香を調合できます。だから魔獣に遭わずに冒険できました」


 私がシルヴァを指し示すと、急に話を振られた彼は目に見えてうろたえた。


「えーっと、その、まあ何だ。冒険心旺盛な仲間のワガママに付き合っていたら、ドラゴンの死体を見つけてしまったわけだな」


 棒読みだし、シルヴァも見た目は少年なんだけど。

 でもどれも完全な嘘は言っていないのがおかしなところである。


「だから春を過ぎても、ドラゴンのお肉は供給できます。場所は内緒ですよ。魔除けがなければ危険な場所ですから」


 これも嘘ではない。だから説得力がある。


「あ、ああ。我々村人は、岩山どころか森の奥にも近づかんよ」


 村長は混乱した様子だ。

 村長の妻も眉を寄せながら言った。


「それで結局、本当にこんな野菜であのお肉を交換してもらえるの?」


「ええ、します。とりあえずじゃがいも以外の野菜をもらっていきます。じゃがいもは、種芋として使うものをしっかり選別して、この村の倉庫で保管しておいてください。種芋と来年の作付けアップ。これを野菜以外の条件にさせてください。栽培方法は私が教えますから」


「あんたが?」


 思い切り不審の目で見られた。まあ私の外見は十歳の女の子だから……。


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