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転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第4章

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51/63

51:お肉試食会

 私が差し出したのは、例の葉っぱで包んだ冷凍肉だ。

 一人前ずつ葉っぱでパックして、既に味付け済み、調理済みで解凍すれば食べられる状態になっている。


「これは試食用として、タダで差し上げます。味に納得できたら、次からは対価をくださいね」


 私が言うと、村長たちは首を傾げながらも頷いた。


「そこのお鍋のお湯、使ってしまってもいいですか?」


 土間の真ん中で湯気を立てている鍋を指さした。

 村長の妻が頷く。


「構わないけど……何をするつもり?」


「この凍ったお肉を入れて、溶かします。溶かしたら食べられますよ」


 なお、この肉は角煮の方。

 焼肉であれば、フライパンで焼けばオッケーである。


「ええと、今いる方は……五人ですね」


 村長夫妻、息子夫妻、それに子供が一人。

 私は一度外へ行き、ロバそりの荷物から四つ角煮の包みを持ってきた。

 合わせて五つの包みを鍋に投入する。

 大きな鍋だったので、五つ入れても問題ない。


 しばらくすると凍った肉が溶けてきて、いい匂いが漂った。

 鍋のお湯がいい感じにスープへ変わっていく。

 凍った葉っぱがほどけて、角煮の肉が顔を出した。


「本当に肉だ」


 村長が呟いて、ごくりと唾を飲み込んだ。

 やがて肉はしっかりと解凍され、鍋は角煮でいっぱいになった。

 村長の妻が器を持ってきてくたので、盛り付ける。


「さあ、どうぞ」


 ほかほかと湯気を上げる角煮は、実験した通りの出来栄えである。

 村長の家族はそれぞれ器を持って、半信半疑の顔になった。


「……いただきます」


 いい匂いに耐えかねたのだろう、子供が呟いて、ぱくりと肉の塊を口に入れた。

 途端、彼は目を大きく見開いた。


「なにこれ、うまっ! 前に一度だけイノシシ鍋を食べたけど、それよりずっと美味しいよ! 甘くてしょっぱくて!」


 ガツガツと勢いよく食べている。

 それを見た大人たちも、次々と肉を口にした。


「なんと……これは。初めて食べる味です」


「これがお肉なの? ほろほろと口の中で溶けるわ」


「うまい、うまい」


 そうしてみんな、あっという間に完食してしまった。


「いやあ、うまかった。こんな肉は初めてです。肉の味もさることながら、味付けも実に絶妙です」


 みんな笑顔になっている。

 私も嬉しくなって、ぺこりと一礼した。


「ありがとう。そう言ってもらえると、作った甲斐があります」


「なんと? お嬢ちゃんが作ったのかい」


「ええ。料理は得意なので」


 そんな話をしていると、男の子が私の隣までやってきた。今の私よりも少し年下の子だ。


「ねえ、お姉ちゃん。この肉、何の肉なの? 食べたことない味だったよ」


 私はヴィオラとシルヴァに目配せをした。この質問は想定内だ。当然聞かれるだろうと思っていた。


「それは――ドラゴンのお肉よ」


 私が言うと、大人たちは一斉に「ぶはっ!」とむせた。





「ドッ、ドラゴン!? 冗談もたいがいにしてください!」


 村長が目を剥いている。

 スープが残った鍋に手を伸ばしていた息子夫妻も、慌てて引っ込めていた。


「冗談ではないです。本当です」


 私はあくまで落ち着いた口調で続ける。

 事前に打ち合わせておいた内容を話した。


「私の仲間の一人が旅をしていた途中で、ドラゴンの死体を見つけました。体に傷があったので、他の魔獣やドラゴンと戦って負けて死んだのだと思います」


 私たちの仲間の一人。

 ちょっと含みを持たせた表現だ。

 こういう言い方をしておけば、私たち自身は肉の在り処を知らず、その『仲間』だけが知っていると言い逃れができる。

 農民相手ならそこまで気を使う必要もないかもだが、いずれ貴族相手になった時、脅されたり無理やり取り上げられそうになった時の対策として使う予定である。

「私たちは肉の場所を知らない。仲間の一人しか知らない。聞くならそいつに聞いて。今はいないけど」と。


 で、それ以外の部分については半分嘘、半分本当くらいか。

 最初はコタローの親がドラゴンと戦って、私がトドメを刺したのだから。


「それで、寒い季節なのが幸いしました。ドラゴンの死体は凍りついていて、腐っていません。それで切り分けて料理してみたら、とても美味しい。これは商売になると思って、持ってきたんですよ」


 村長たちはポカンと口を開けている。


「死体を見つけただけなので、元手はかかっていません。それにドラゴンはとても大きい。このまま春になれば腐るだけです。だから今のうちに、安くていいから売ってしまおうと思ったんです」


「で、でも……! ドラゴンと言えば、おとぎ話の存在じゃないか。ウロコ一枚でもすごい値段になるって聞いたぞ!」


 村長の息子が声を上げた。

 今度はヴィオラが答える。


「ウロコは傷ついていて、ほとんど使い物になりませんでしたよ。多少残っていた無事なものは、もちろん町で売りさばきましたけど」


 村長の息子は落胆した顔になった。

 この話を信じてもらえば、一攫千金の夢はなくなる。どこぞにあるドラゴンは今や肉だけで、ウロコや牙の素材はもうない、という話だ。


 ……本当は冷凍の劣化をしながらもたくさんあるんだけど、それを知られると欲をかいた人に狙われる。

 だから「もうない」と言い張っておくことにした。

 それでも疑う人は疑うだろうが、村長の息子は純朴な性格らしい。信じてくれたようだ。


 ちなみにウロコや牙、爪の素材はたくさんありすぎて、ほんとどうしよう……という感じである。

 一気に市場に流すと相場が混乱するし、何よりも私たちが狙われる。

 なので当面はなかったものとして、たくさん売るのは諦めた。一部は根回しに使いつつ売るつもりだ。

 利益も大事だが身の安全も大事。


「そんなわけで、私たちはドラゴンの肉を売っています。私は料理が得意だから、料理してみました。肉はたくさんありすぎて、春になれば腐ってしまう。だから安くていいから売りさばきたい。ここまでオッケー?」


 半分嘘のうさんくさい話だが、勢いで押し切るつもりである。


「オ、オッケー」


 村長はうろたえながらも、返事をしてくれた。


「いやいや、あんた。オッケーじゃないでしょう」


 ところが、村長の妻が不安そうに言った。


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