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転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第4章

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49/63

49:二人の青年

第二部再開します。

とりあえず今月は毎日投稿をします!



【三人称視点】


 時は少しさかのぼり、秋の頃。

 王都のウェントゥス侯爵家の庭で、二人の青年が会話をしていた。


「ラウル。お前はやはり、故郷に帰るのか?」


 黒髪の青年が言った。髪を短く刈り込んで、良く鍛えられた体をした人だった。

 年の頃は十代後半。

 冬の青空のような透き通った瞳が、目の前の友を眺める。


「ああ、帰るよ。俺にはそれしか道がないからね、アレクト」


 ラウルと呼ばれた青年は、アレクトと同じ年頃である。

 柔らかい茶色の髪色に、ハシバミ色の瞳が笑みを含んで揺れている。


「お前ほど能力のある男が、何もあの辺境で腐らずとも良かろうに」


「ははっ。マルスの神殿騎士殿に褒めていただけるとは、光栄だね」


 アレクトの真面目な口調に対し、ラウルは軽く笑って答えた。


「まあ、今は帰るさ。でもいつまでも大人しくしているつもりはない。母と妹の身辺を安定させたら、後はいくらでもやりようがある」


 ラウルは北の土地の領主の息子。

 しかし正妻の子ではなく、身分の低い側室の子だった。

 正妻には既に嫡男がおり、ラウルが領地で芽を出す可能性はない。

 正妻はラウルの母を憎んでおり、時には命の危険があるほどだった。

 だから彼は、母親とまだ幼い妹の力にならなければと考えている。


 ラウルの意志が固いと再確認し、アレクトは軽く息を吐いた。


「今更説得は無駄だったな。……私が力になれることがあれば、遠慮なく言ってくれ。駆けつけよう」


「ふふ、ありがとう、友よ。でも大丈夫。俺は俺のやり方で、成し遂げてみせるから」


 ラウルは不敵に笑う。

 その笑みはアレクトのよく知るものだ。

 王立学院時代の三年間、悪友として様々なことをやった。

 王都の高位貴族として立場のあるアレクトにはない自由奔放さが、ラウルにはあった。


「助けになると言った直後で、気が引けるのだが」


 アレクトは少し遠慮がちに口を開いた。


「なんだい?」


「北に帰る道すがらでいい。人探しをしてくれないだろうか」


「ああ……プリムローズ嬢だね」


 ラウルは頷いた。

 アレクトは続ける。


「少し前に、王都の北でそれらしき少女を見たとの報告があった。あっという間に逃げていったそうで、信憑性に欠けるのだが……。お祖父様は捜索隊を出したし、プリムローズの親も探している。だが未だに見つからない」


 アレクトの生家であるウェントゥス侯爵家は、プリムローズの母の実家だ。二人はいとこになる。


「プリムローズ嬢が行方不明になったのは、いつ?」


「もう一ヶ月は前になる」


「それは……子供が森で消息を絶ったとなると、無事でいるとは……」


 友の言葉に、アレクトは頭を振った。


「分かっている。だが、あの子はたったの十歳なのだ。前に会ったのはもう四年も前、叔母上が生きていた頃になるが、健気な子だった。可能性は低いだろうが、頼む」


「分かった。気にかけておくよ」


 ラウルの言葉に、アレクトは息を吐いた。

 ラウルは思う。


(本当は自分で探してやりたいんだろうな。だがこいつは、神殿騎士の務めがある。若くして高位の位階に据えられた以上、重い責任と多忙さがある)


 ラウルは立ち上がった。


「さて、そろそろお暇しようか。忙しい君の時間をいつまでも取ってもらうのは悪いしね」


「よく言う。お前はそんなに殊勝な人間か?」


「ははは。まあ、俺も出立の日が近いから。不出来な兄上の後始末をして、親元に送り返してやらないとね」


 正妻の子である嫡男は、ラウルよりも一つ年上だ。

 けれど優秀な弟と違い、兄は何事も今一つだった。それなのに遊び呆けて、留年してしまったのである。

 おかげでラウルは兄の尻拭いに奔走した。


「北の土地は遠い。もう二度と会う機会はないかもしれないが、活躍を祈る」


「私もだ。お前が首尾よくやれるよう、マルス神に願っておこう」


 二人は固く握手を交わした。

 名残を惜しむ気持ちはあったが、表に出すほど軟弱ではない。


 そうして二人は別れた。

 この別れが未来の彼らを深く分かつとは、誰も知らないままに。





 数日後、ラウルは王都を発った。

 向かうのは北。これから冬に向けて、寒さが厳しくなる土地だ。


「おい、ラウル。聞いているのか。父上と母上に学院の様子を聞かれたら、適当に誤魔化しておけよ」


「はいはい。お望みのままに」


 馬車の向かい側の席では、異母兄が偉そうにふんぞり返っている。

 ラウルは内心で肩をすくめた。


(まったく呑気なことだ。領地に戻れば、兄は本格的に次期領主となる。北の土地は貧しい。いつも飢える者が出て、開拓もままならない。父上は何もせず事態を悪化させただけだった。兄上も期待はできない。だが……)


 だからといって、彼自身が領地のために何かをするつもりもない。

 彼は北の土地をいっそ憎んですらいた。


 あの土地に住む者は、母と妹を虐げた。

 ラウル自身も子供の頃は虐められ、冬の雪の降る中に放置されたこともある。

 寒さと貧しさ、ひもじさ。

 北の土地に紐づくあらゆるものが、彼は嫌いだった。


(俺はやっと成人した。これからはなるべく早く母と妹の身柄を引き受けて、幸せにしてやらなければ)


 母と妹を連れて、北の土地を出る。

 それが今の彼の目標だ。


 馬車の窓から外を見る。

 秋の森は、見事な紅葉に染まっていた。

 これから一月かけて北に着く頃には、雪景色になるだろう。


(……プリムローズ・アートライト。火属性の伯爵家か)


 ふと、友からの頼まれごとを思い出す。

 だが正直、森で行方不明になった十歳の子供が、一ヶ月以上の時間を経て生きているとは思えない。

 熊や狼に食われたか、足を滑らせて川にでも落ちたか。きっともう死んでしまっているだろう。

 友への義理で形ばかりの捜索はするつもりだが、気乗りはしなかった。


 ラウルはそのまま北へ視線を向けた。

 彼の嫌いな北が、寒い冬が近づいていた。




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