表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
48/63

48:【閑話】その頃のアートライト伯爵家

 冬の季節に入った頃、王都では貴族たちの魔法試合大会が開かれていた。

 貴族とはすなわち神の力を引き出し、使いこなす魔法使いに他ならない。

 己と己の家の力を誇示するため、定期的に王の御前試合が開かれていた。


 王宮の庭の一角に闘技場が作られている。

 周囲には見物用の椅子が多く並べられていて、満員だった。

 出場者も見物客も貴族ばかりなので表面上は優雅だが、ここは力を見せつける場所。上品な笑顔の裏で火花が散っていた。


「それでは続きまして、アートライト伯爵家当主。お相手はウェントゥス侯爵家嫡子、アレクト殿」


 司会進行役が声を上げる。

 呼ばれて二人の男性が闘技場に上がった。


 一人はくすんだ赤髪の壮年の男、アートライト伯爵。プリムローズの父親にして、娘を森に捨てた人物である。

 もう一人はまだ二十歳に満たない黒髪の若者だ。


「これはアレクト殿。貴殿のような成長著しい若者の相手をするなど、この身に余る光栄です」


 アートライト伯爵は慇懃無礼に礼をした。

 アレクトは確かに最近目覚ましい成長を遂げている青年だが、いかんせん王立学院を卒業したばかりの若造。試合出場も今回が初めてである。

 魔法大会の上位入賞常連の伯爵にとってみれば、青二才だった。


 アレクトは無言で礼をした。

 彼の生家、ウェントゥス侯爵家はアートライト伯爵の亡妻の実家になる。つまり夫妻の娘であるプリムローズとはいとこの関係だった。


 アレクトと伯爵は接点が薄い。

 しかし彼は伯爵に薄らとした不信感を持っていた。

 叔母であるプリムローズの母が病死した際も、伯爵は大いに悲しんでいた。悲しみすぎて、どこか芝居がかっていると感じたほどだ。


「では、始め!」


 試合開始と同時、伯爵の朗々とした詠唱の声が響いた。


『原初の炎、宇宙の真理にして永遠なる女神ウェスタよ。御身の純なる炎の渦にて、我が敵を飲み込みたまえ!』


 力ある祈りの声に応じて、伯爵の手から真紅の炎が噴き出る。それは渦を巻くように広がり、アレクトを飲み込もうとした。


『禍つ星、赤く燃ゆる星の神、軍神マルスよ。戦いの時は来たり。御身の力、我が身に宿りて敵を打ち砕く剣とならん』


 アレクトの詠唱は無駄がなかった。剣を構える一呼吸で詠唱をこなし、神の力を体に降ろす。

 そして一閃。

 剣の一振りで伯爵の炎は消し飛び、アレクトは一気に肉薄した。


『狼の足、キツツキの翼。忍び寄るは迅速に、退路を与えず!』


 さらなる速度増加をするまでもない。

 炎を吹き散らされた伯爵は、あっさりと喉元に剣をつきつけられた。


 アレクトは冷めた目で相手を見た。


「噂に聞くアートライト伯爵のウェスタ神の炎、いかほどかと楽しみにしていたのですが。ここまでですな」


 実際、拍子抜けだった。

 伯爵の炎は『青い』はずだったのだ。通常の赤い炎よりも高温で素早く広がり、何もかもを燃やし尽くす。それが伯爵の本領だったはずだ。

 それなのに炎は赤かった。何の変哲のないものだと、見た目にもよく分かる。


「ば、馬鹿な……」


 自分自身の力の不発と、若造と侮っていた相手にあっさりと負けた屈辱で、伯爵はぶるぶると身を震わせた。


「勝負あり! 勝者、アレクト殿!」


 司会が声を張り上げる。

 両者は形ばかりの礼をして、すぐに闘技場を降りる。

 伯爵は呆然としながら、アレクトは既に興味を失い無関心な足取りだった。


 あっけない幕切れに、見物客から失望の声が上がっている。

 伯爵の力の衰えを目の当たりにして、ヒソヒソと陰口を始める者もいた。


「お父様! どうしちゃったの?」


 愛人と娘――プリムローズの義妹が駆け寄ってくる。


「去年はあっという間に敵をやっつけていたのに。あんな若い人に負けるなんて!」


「ご体調が優れないのですか?」


 愛人が気遣わしそうに言う。

 伯爵は無理な笑みを浮かべてみせた。


「ああ、まあな。実はここ数日、体調が思わしくなかった。そのおかげで負けてしまったよ」


「そうだったのですか……。おいたわしいこと。今日はもう帰って休みましょう」


 嘘だった。体調不良は特にない。

 ただ強いて言えば、ここしばらく魔力が安定しない感覚はあった。


(しばらく前から……、そうだ、プリムローズがいなくなった後からだ)


 伯爵は考えて、すぐに頭を振った。


(あの出来損ないと私の魔力に何の関係があるものか。あれはもう死んだ。冬の森で子供が生きているはずがないのだから)


 彼は知らない。

 特殊な魔法、霊珠の使い手であるプリムローズは、そこにいるだけで魔力を安定させる効果をもたらしていたこと。

 血の繋がった父親である伯爵は、その恩恵を特に強く受けていたこと。


 全ての真相は闇の中だ。誰も知らないがゆえに、対策も取れない。

 貴族社会は魔力至上主義であり、魔力と魔法の腕が衰えるとあっという間に権威を失う。

 今も伯爵に向けられる目は冷たい。比類ない炎の魔法の使い手であるために見過ごされていた愛人との関係も、これからは厳しく見られるだろう。


 その暗い予感を感じ取り、アートライト伯爵はぶるりと体を震わせた。






+++


なんか知らないうちにプチざまあしていた、という話です。

プリムローズの従兄のアレクトは第二部で改めて登場予定です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ