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転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第3章

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47/65

47:新しい場所へ

「……どうしたの?」


 無言が長いので心配になって尋ねると、彼はやっと顔を上げた。


「行商には僕も共に行こう」


「え?」


 声を上げたのはヴィオラだ。


「シルヴァ、貴方は人前に出たくないと繰り返し言っていたではありませんか。その、出自のせいで……」


「ああ、この耳な」


 彼は苦笑して、少し尖った耳を触ってみせた。


「ハーフエルフへの偏見は根強い。分かっているとも。昔、両親に連れられて旅をしていた頃、散々な目に遭ったものさ。だが耳さえ隠せばバレることもない。魔族の技術の研究は一区切りついた。何より未熟なお前たちだけでは、心配だからな」


 そう言って毛糸で編んだ帽子を取り出した。少し深めにかぶれば、耳はすっかり隠れる。


「これでいいだろう。それにこれを見ろ」


 差し出したのは、長さ二十センチほどの木製の棒だ。表面には魔族の回路が細かく刻まれている。私が貸した霊珠が数個嵌められていた。

 前の杖は野球バットくらいあったのに、かなり小型化している。


「この小型杖があれば、僕も身を守るくらいのことはできる。この大きさなら懐に仕舞っておけるしな。どうだ? 問題ないだろう?」


「……正直、驚いています。私の知っている貴方は、人間と最小限の接触しかしようとしなかったから」


 ヴィオラの言葉に、シルヴァは肩をすくめた。


「僕は別に人間嫌いというわけじゃない。魔族の技術が表に出せないのと、ハーフエルフの差別が面倒だっただけだ。技術も耳も隠せばいい。そろそろ森暮らしにも飽きていたからな」


 人生の大半、四十年も森で暮らしていて、今更飽きることなどあるのだろうか。

 その言葉は少し疑問だったけれど、彼がついてきてくれるなら心強い。

 だから私は言った。


「うん、これからも一緒にいられて嬉しいよ、シルヴァ」


「…………」


 すると彼はみるみるうちに真っ赤になった。


「と、当然だな。お前たちだけでは頼りないからな。僕がついていってやるから、安心するといい!」


 私とヴィオラは顔を見合わせて、くすりと笑った。


「ええ、よろしくお願いしますね、お父さん」


「そうそう、お父さん!」


「ミャオ!」


 コタローまで合いの手を入れるように鳴いた。

 シルヴァは口をぱくぱくさせる。


「な……!? その呼び方はやめろと言っただろうが!」


「あははっ!」


「ミャー、ミャー!」


 私とヴィオラは今度こそ笑い出した。

 こうして私たちは、みんなで旅立つことにした。





 その晩はシルヴァの小屋で過ごし、翌朝。

 朝もやの漂う森の中で、私は飛行のための霊珠をセットした。


「『悠』『飛』『行』『翼』っと」


 光り輝く翼を大きく広げる。

 さらに荷馬車に『軽』の効果を与えて、みんなに乗り込んでもらった。

 ロバは震え上がっていたが、今度は気絶しなかった。


「ロバ、途中で落ちないように気をつけないと」


「紐で縛っておきます。プリムローズは気にせず飛んでください」


 割とひどい。


「ミャー、ミャア!」


 コタローも当然のような顔で荷馬車に登る。


「あー、困ったなあ。スノータイガーは珍しい魔獣なんでしょう? 村に連れて行ったら悪目立ちするんじゃ」


 とはいえ、シルヴァも同行する以上は預ける先がない。

 するとヴィオラが軽い口調で言った。


「まあ、まだ子供ですから。普通の虎だと言い張っておきましょうか」


 ……それで通じるのだろうか?

 というか、この国は普通の虎を連れ歩くのは構わないのだろうか。


「さすがに町は危険ですが、農村ならスノータイガーを知っている人はいませんよ」


 とヴィオラが言うので、とりあえず納得することにした。


「それじゃあ出発! 落ちないように気をつけてね」


 ふわりと舞い上がり、背中に荷馬車を固定すると、途端に文句が降ってきた。


「プリムローズ、慎重に飛べよ。僕は墜落するのはごめんだ」


「大丈夫だって。今まで何度も荷物を運んでいるもの」


「お前の『大丈夫』は信用ならん。信じたら大抵、ろくなことにならない」


 いつまでもブツクサうるさいので、途中から聞こえないふりをした。


「うわ、本当に飛んでいる。高い、怖……」


 ロバ並のビビリである。コタローを見習ってほしい。


「おいコタロー、飛びつくな。馬車が揺れる! うわーっ」


 こんな感じで数時間のにぎやかな空の旅を経て、村近くの丘に到着する。


「ほう、この場所が……」


 シルヴァは感心したように辺りを見回した。


 私は馬車を地面に下ろす。

 みんなが降りた分の空き場所に、丘の洞窟から冷凍肉を積み込んだ。


「さあ、『解』!」


『解』の文字が輝いた。小さな光の粒がお肉に降り注ぐ。

 霊珠の力で『冷凍』に固定された状態が、解除されていく。

 といっても周囲の気温は氷点下だ。すぐには肉に変化はない。


「では行きますよ」


 ヴィオラがロバを荷馬車に繋いだ。

 辺りの積雪は既に深い。

 車輪では進めないので、スキーに履き替えた。馬ソリならぬロバソリだ。

 荷馬車はお肉でいっぱいなので、コタローを含めて私たちは徒歩で進むことにする。


 雪の積もる丘をふもとまでゆっくりと下った。


「まずは東の村へ向かいましょう」


「うん」


「分かった」


「ミャー」


 周囲は道らしい道はなく、積雪した平原だ。

 荷物を満載した荷馬車の進みは遅いが、それでも着実に前へと進んでいく。


 前を見れば雪原の向こうに小さな村が見える。

 後ろを振り返れば、私たちの足跡とソリの跡が残っている。

 森の木々に囲まれた時と違って、どこまでも広く開けた風景が視界に飛び込んできた。


 こうして私は慣れ親しんだ森を抜け出して、新しい場所へと一歩を踏み出した。


 その先に何が待っているのか、今はまだ分からないけど。

 みんなで力を合わせれば、きっと良い結果になると信じて。


 今は前だけを見て、進んでいった。




+++


ここまでありがとうございました。これにて第一部完結です。

第二部は色々書きたい気持ちはあります。


・商売の行方や広がっていく影響

・悪徳領主の介入と対立

・漢字と魔法を使うハーフエルフを危険視した神殿勢力との衝突

・異能バトル対人戦。達人級魔法戦士(神殿騎士。階位がある。マルスの神殿騎士第12階位、とか)

・vs軍隊。霊珠の使い方を工夫して広範な敵を殲滅する


などなど、アイディアだけは膨らんでいます。

……が、今のところの予定は未定です。

こういうアイディアを作品の形に仕上げるのがエネルギーの要る作業ですね。


もしよければ、ブックマークや評価(★5つで満点)で応援してやってくださいね。

何よりのモチベーションになります。


それでは、また。


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