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転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第3章

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46:最後の準備

 岩山では調理環境が整っていないのがネックだった。

 今まではただ焚き火を起こして、木の棒に鍋を吊るして煮炊きしていたのだ。

 かまどに比べると火力が安定しないし、不便すぎる。


 そこでかまどを作ってしまおうと考えた。

 かまどは土があればできる。

 土を掘り起こしてきて、粘土を加えて成形すればいい。


「なら、前に水汲みで行った泉の近くの土を使うといい。あの周辺は粘土質の土だ」


 と、シルヴァ。


「いいね。『剛』一文字でも、水汲みとか土運びの効率は相当アップするし。どうせドラゴンを捌くには、『刃』の他に身体能力アップ系や切れ味アップ系の霊珠が必要だし」


 小屋から鍋類を借りて、ヴィオラの積み荷から塩などの調味料を分けてもらう。

 料金は商売が成功したら出世払いだ。


 当面はヴィオラに料理を手伝ってもらいながら、量を確保できたら売りにいってもらう。

 私は適宜料理を補充しつつ、小屋に顔を出してシルヴァの食料を渡す。その時に魔道具のメンテナンスもしてもらう。

 そんな流れを確認した。


「じゃあ、明日から働くということで。みんなで頑張ろう!」


「はい!」


「ミャオ!」


 コタローもメンバーの一員の顔で、得意げに鳴いた。可愛いなあ、もう。


 こうしてドラゴン肉の商売が動き始めた。

 本当に飢える人を減らせるかどうか、ここからが正念場だ。





 それから私たちは、打ち合わせの内容に従って動き始めた。

 ヴィオラの話では、やはり冬に飢える人が増えるらしい。


「今年の麦の出来高は、やや不作でした」


 ヴィオラが言う。


「飢饉というほどではないけれど、餓死者が出かねない状況です」


「そっか。急がないとね」


 今は既に冬に入っている。

 手遅れにならないよう、作業を急いだ。


 まずはヴィオラの荷馬車に『軽』の霊珠を乗せて、軽量化する。

 そこに一通りの荷物と彼女自身を乗せて、私の背中に固定。岩山へ運ぶことにした。

 森の道は細すぎてとても荷馬車が通れるものではないが、飛行していけば問題ない。


「プ、プギー!」


 ロバも乗せようとしたのだが、浮かび上がった荷馬車に怯えきっている。

 暴れるロバを何とかなだめようとしていたら、そのうち泡を吹いて卒倒してしまった。

 倒れたロバを見たコタローが、不思議そうにロバの鼻先を舐めている。


「……なんか気の毒だけど、今のうちに運んじゃおうか」


「そうしてください。この子は気が弱いので、空の旅は怖いでしょう」 


 というわけで、小心者のロバは気絶しているうちに移動が終わった。

 さらに岩山に着いてからは、環境づくりだ。


「よし。かまど、できた」


 岩山近くの土を集めてきて、かまどを作った。

 作り方はヴィオラが教えてくれた。

 行商人の師匠から教わったものであるらしい。


「行商も隊商を組むくらいの大人数になると、野宿のたびにかまどを作るんですよ。大人数の食事の準備は、焚き火だけでは回らないので」


「そうだよねえ」


 鍋類もフライパン、深鍋、小鍋と一通り揃っている。

 料理は単純な焼肉と角煮風だ。

 小分けにして、葉っぱの包装紙でパッキングする。

 私たちは毎日せっせと作り続けた。


 ウロコや爪などの素材は、冷凍で強度が落ちているとはいえ価値は残っている。

 どうせ食べられない部位だ。丁寧にこそげ取って、洞窟に保管しておくことにした。


 作った料理は一日の終わりに『冷凍』する。

 村近くの拠点、あの斜面の倉庫に『冷凍』状態のまま保存しておいて、行商に出る際に『解』する予定だ。

 今は冬なので、冷凍状態を解除してもすぐに溶けることはない。しばらくの間であれば、問題なく凍ったまま持ち運べるだろう。


「夏になったら暑さ対策をしないとね」


「ええ、でも今は料理に専念しましょうか」


「ミャー」


 そうそう、コタローも岩山についてきた。

 シルヴァの小屋に残るよう言い聞かせたが、まったく聞かずに荷馬車に飛び乗ってしまったのである。

 まあ、別に邪魔はしないのでいいかということになった。

 ロバは小さいスノータイガーに怯えていたが……。

 楽しそうに岩場を駆け回って遊んでいる。

 ここはコタローの親が眠る場所でもあるので、元気な我が子を見て親も安心しているかもしれない。


 寝泊まりする場所は、ドラゴンのお肉を保管している人工洞窟の入口だ。

 荷馬車をベッド代わりにして、毛布を使っている。

『暖』の霊珠もあるし、コタローを抱っこして寝るとモフモフでぽかぽかする。

 念のため、ヴィオラと交代で夜番をしたが、特に何も起こらなかった。


 このようにしてせっせと料理作りに専念すること、数日。

 やがて当面十分な量の焼肉と角煮を確保できた。


「やりましたね」


「うん! あとは売るのをお願いしなきゃ」


「それなんですが。プリムローズ、あなたも一緒に行商に行きませんか?」


「え?」


 ヴィオラは穏やかに微笑んでいるように見えて、真面目な視線をで向けてきた。


「この商売はあなたが言い出したもの。プリムローズが助けたいと思った人々はどんな人たちなのか、自分の目で確かめるべきでは?」


 それは……そうだ。

 ヴィオラの意向を曲げてまで、貧しい人向けの商売に切り替えてもらった。

 それならば、私の役割は料理するだけでは終わらない。


「分かった」


 私は力を込めて頷いた。


「一緒に行くよ。私、この国のことを良く分かっていないから。ヴィオラと一緒に行って、色々な人に出会ってみたい」


 プリムローズとしての十年の人生は、ほとんどが実家のお屋敷で完結していた。

 お母様が生きていた頃は出かけることもあったが、亡くなってからは閉じ込められるような生活だったし。

 学校に行くことも家庭教師について学ぶこともなく、今の私は本当に無知なんだ。


 この国にはどんな風景が広がっているのだろう。

 少し怖くもあり、楽しみでもある。


 私は岩場の上から、森の向こう側を眺めた。

 冬の空が広がる先は、どこまでも広く見えた。





 岩場から丘の倉庫までの運搬は、やはり荷馬車に『軽』を使って行った。

 荷馬車に山盛りの冷凍肉を乗せて、落ちないように布で覆って紐で縛る。

 丘に着いたら、片っ端から肉を倉庫代わりの洞窟に放り込む。

 五回ばかりこの作業を繰り返すと、在庫をすっかり移動させられた。

 片道数時間ほどかかるので、二日にわたって移動した。


 最後にシルヴァの小屋へ寄って、魔道具のメンテナンスをしてもらう。

 それから私も行商に同行する旨を伝えた。


「私が言い出したことだから、ヴィオラだけに任せないでおこうと思って。私がいれば、冷凍のコントロールもできるしね」


 そう言うと、シルヴァは無言になった。


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