表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/44

37:ざまぁはしません、とりあえずは

「ドラゴンの肉……? どこかで死体を見つけたのですか?」


 ヴィオラが戸惑いながら言う。

 私はシルヴァをちらりと見た。

 彼の態度からして、ヴィオラは信頼できる人なのだと感じている。

 私の視線に気づき、シルヴァは肩をすくめた。


「話して構わんぞ。そいつは僕の杖……魔族の技術も知っている。裏切るつもりであれば、とっくにこの小屋は神殿勢力に潰されているだろうさ」


「裏切るだなんて。貴方は私の命の恩人で育て親なんですよ。裏切るはずがないでしょう」


 ヴィオラは首を振ったが、目つきは鋭くなっていた。

 シルヴァが魔族について口に出したのを、警戒しているようだ。

 この人は正しくリスクを認識している。

 だから私も正直に答えることにした。


「死体を見つけたんじゃありません。私が狩りました」


 ちょっと胸を反らして言い切ると、ヴィオラは完全に固まった。


「え……と、卵から生まれたばかりのドラゴンだったとか?」


「成体に見えましたね。とても大きいし、炎も吐いていたし」


「ええぇ……」


 ヴィオラは頭を抱えてしまった。

 この国においてドラゴン狩りとは、それほどまでに常識外のことらしい。


「あ、でも、私だけの力じゃありません。そのスノータイガーの親と、シルヴァと、私で力を合わせたんです」


「ますますわけが分からないですよ」


 ヴィオラは頭を抱えたまま、ひどく深いため息をついた。

 うーん。ここまでのリアクションがあると、ちょっと申し訳なくなってくる。


「……信じてもらえますか?」


 私が聞くと、彼女は私ではなくシルヴァを見た。

 彼は頷いた。


「本当だ。信じられんのも無理はないがな。スノータイガーの親が子を庇って窮地に陥っていたのを、そこの馬鹿が助けたんだ。親は助からず死んだが、子と僕たちは無事だった」


「馬鹿とは失礼な」


「馬鹿に決まっているだろうが! ドラゴンに喧嘩を売るなんて!」


「フミャ」


 思わず反論すると、だいぶ本気で叱られてしまった。

 しかしそのやり取りで、ヴィオラはある程度信じてくれたらしい。


「嘘ではなさそうですね。ですが、やはりすぐには信じられません。そのドラゴンの肉……肉にできる死体は、どこにあるのですか? この目で見た後で判断させてください」


 私とシルヴァは顔を見合わせた。

 シルヴァが口を開く。


「僕は研究で忙しい。プリムローズ、コタローとヴィオラを連れて行ってこい」


「え、無理でしょ。道を覚えていないもの」


「はあ? ついこの間、案内してやっただろうが。何を見て歩いていたんだ」


「無理、無理。森の中の細い道を一度で覚えるなんて、できっこないって」


 私たちが言い合っていると、横からヴィオラが口を出した。


「ドラゴンを仕留めたということは、かなりの量の肉がありますよね。一人でも多く運び手がいた方がいい。シルヴァも来てください」


「はい、そういうことで」


 女性陣二人に詰め寄られ、シルヴァは思い切り不本意そうな顔をした。


「クソッ、研究が大詰めなのに! 仕方ない、急いで行って戻ってくるぞ。出発は明日だ!」


「はーい!」


「ミャー!」


 私とコタローの声が重なって、シルヴァは嫌そうな顔になり、ヴィオラはくすくすと笑ったのだった。





 その日の夜は、ヴィオラを含めた三人と一匹で過ごした。

 ただでさえ手狭な小屋なのに、もうぎゅうぎゅうである。


 私は昨日の残りのスープにさらに干し肉を継ぎ足して、具材たっぷり肉野菜煮込みを作った。

 ヴィオラが塩の他、ハーブやスパイス類を荷馬車に積んでいたので、ありがたく拝借したのだ。


「まあ、美味しい! プリムローズは本当に料理上手なのですね。貴族とは料理も嗜むのですか?」


 少し打ち解けたおかげで、お互いに名前を呼び捨てで呼び合うことにした。


「あはは、ありがとう。料理は勝手に覚えたよ。実家じゃ冷遇されていて、放っておいたら使用人より粗末な食事になっていたから」


 シルヴァは信頼していいと言ったが、いきなり前世の話をするのもどうかと思う。ここで私の頭の正気度を疑われても困るし。


「それで家出したのですね。貴族の家庭事情は、平民とはまた違うと聞いています。魔力はおおむね血で受け継がれていくけれど、必ずではないと言われていますし」


「そうね。うちはとにかく火属性至上主義で、そうではない私はここぞとばかりに捨てられたの。でもまあ、おかげで家を出て楽しく暮らしているから。結果オーライというやつ?」


「ポジティブすぎるだろ」


 シルヴァが呆れたようなジト目をする。

 ヴィオラは良く煮込まれた干し肉をかじると、ふと言った。


「ご実家に復讐しようとは思わないのですか。ひどい目にあったのでしょう」


 急な質問に私は首を傾げた。


「うーん、別に? 父親と継母と、あとついでに義妹は地獄に落ちろとは思うけど、わざわざ叩き落としてやるのも面倒かな」


 ぶっちゃけ関わりたくない気持ちの方が強い。

 もっとも今後も難癖をつけてくるなら、火の粉は振り払うつもりでいる。

 シルヴァやコタローを巻き込むのは許さない。


「そうですか。プリムノーズは優しいのですね」


 ヴィオラは複雑そうに笑った。


「私も捨て子でした。五歳の時に村で飢饉が起きて、口減らしに森へ捨てられたのです。幸いにしてシルヴァに拾われて、大人になるまで育ててもらいましたが……親と村の大人たちは、今でも許せません」


「それは……」


 さらりと言われた過去に、私は絶句した。


「私は今でも彼らを恨んでいます。あの村にだけは行商に行きません。食料や物資が足りずに困っている話を聞くと、ざまあみろと思います……」


 彼女はふっと笑った。


「ごめんなさい、性格の悪い女で。聞き流してください」


「許せなくてもいいんじゃないかな」


 余計なお世話と思いつつも、私はつい口を出した。


「ひどい目に遭ったのだから、そう簡単に許せなくて当然でしょ。私も実家を許していないよ。ただ関わりたくないだけで、助けるなんてとんでもない」


 もう一つ思うことがある。

 前世のことだ。

 私が死んでしまって、子供たちは苦労しただろう。きっと恨んだと思う。

 当然だ。許されたいとは思わない。許されるものではないと感じている。

 だから私は、許せない気持ちも、許されない立場も理解できる。


「だからそのままでいいと思う。まあ、そのうちどうでも良くなってきたら、その後に許してあげればいいんじゃないかな。今すぐあえて許す必要はないよ」


「プリムローズ……」


 ヴィオラがこうして口に出すのは、たぶん彼女は心の底では親を許したいのだと思う。

 許したいけど許せなくて、苦しいからつい言ってしまったのではないだろうか。


 空気が重くなってしまったので、切り替えるために私はあえて軽い口調で言った。


「それにシルヴァに育てられたら、性格が悪くなって当たり前じゃない。この子は口悪い、性格悪い、生活習慣悪い、三拍子揃っているもの」


「んな……!? 誰が三拍子だ! あとお前に『この子』呼ばわりされる覚えはない!」


 シルヴァが怒り出すが、私は明後日の方向を見た。


「だって見た目が子供だし、言動も子供っぽいもの。思春期男子ど真ん中よ、あなた」


「ぷっ……!」


 思わずという様子でヴィオラが吹き出した。


「本当に! 小さな頃はお父さんに見えたのに、こうして見ると思春期にしか見えませんね」


「ヴィオラが小さい時から、シルヴァはこの見た目?」


「ええ。全く変わりませんね。背丈も途中で私が追い越しました」


「ハーフエルフは年を取らないのかしらね? それともメンタルの問題?」


 好き勝手に言う私とヴィオラを前にして、シルヴァはこの上ない不機嫌な顔になった。眉間のシワがこれでもかというほど深い。


「ミャー!」


 楽しげな空気を察して、コタローが嬉しそうに鳴く。

 美味しい料理と気兼ねない人たちと一緒に、夜が更けていくのだった。


 明日はいよいよ、ドラゴンのお肉回収に出発だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ