表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生少女は魔法の世界を『漢字』の力で生き抜きます  作者: 灰猫さんきち
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/45

11:お肉、お肉

 私ことプリムローズは、今は十歳の少女である。

 つまり食べ盛り、育ち盛りの子供なわけだ。

 森に入ってからずっと果物ばかりを食べてきたが、いい加減飽きてきた。あと力が出ない感じもあった。

 ここはしっかりタンパク質を採りたいではないか。


 前世の職業は食肉加工工場の従業員だった。

 主に扱っていたのはブロイラーだが、お肉の扱いは全体的に自信がある。

 血とか臓物も平気です。


 ちなみに前世の職場では、定期的に「ブロイラー捌きコンテスト」が開催されていた。

 いかに素早くきれいに美しく、ニワトリをお肉に解体する腕を競うものだ。

 私は入賞者の常連だった。ドヤァ。


「いやしかし、でっかいなあ」


 前世でイノシシを間近に見たことがなかったので、私は思わず感心してしまった。

 頭を落としたというのに、かなりの大きさだ。体重百キログラムは軽く超えていそうである。


 さて、なるべく素早く捌いてお肉にしなければならない。

 いつまでも血の匂いをぷんぷんさせておくと、もっと怖い魔物が寄ってくるかもしれないし。

 どう捌くか考えながら何気なく毛皮を触ると。


「うひぃっ!?」


 ノミみたいな小さい虫がたくさんピョンピョン飛び出てきて、私は思わず後ずさった。

『速』の霊珠をまだ握っていたので、素早く避けて虫がくっつくことはなかった。

 よく見ればダニみたいな虫もいる。


「ああ、そうか。野生の動物なり魔物なりには虫がいるんだ」


 前世で一番馴染み深かった野生動物は、エゾシカだった。

 あれも食肉加工する際は、毛皮の虫をしっかり落とすと聞いたことがある。


「どうするかな」


 ここは川が目の前にある。

 川の水に漬ければいいかな?

 しかしイノシシは頭を落としてもなお巨体である。少女の腕ではちょっとの距離も運べない。


「んー」


 考えた結果、肉を細切れにすることにした。

 ロスは増えてしまうが仕方ない。ろくな設備がない以上、ノミに噛まれる危険は犯したくないし。


「もう一回、もう少しだけ大きくなって」


『硬』と一緒に握っている『刃』に向かって念じてみると、ちゃんと反応があった。

 最初は勝手が分からず伸びたり縮んだりしたが、やがてちょうどいい感じの大きさになる。剣道の竹刀くらいの大きさである。

 その『刃』でイノシシを切ると、手応えが全くないままに肉も骨も切れた。


「すごい切れ味」


 間違って自分の指や足を切らないようにしないと。血の惨劇になってしまう。

 長い刃を活かして毛皮を剥がす。毛皮をよけようとしたのだが、刃は切れすぎて刃を当てると全部切れてしまった。

 包丁の腹みたいな場所もないらしい。なんだよこれ。


 手袋も手洗い石鹸もないので、できれば生肉には触りたくない。どんな寄生虫やバイキンがいるか分かったものではない。

 私は近くの木から、割合に大きい葉っぱを何枚か切り離した。

 見事な肉塊になった元・イノシシから、ロースやモモなどの良い部位の肉を切り分け、葉っぱに包む。

 焼いて食べることになるから、五ミリから一センチ程度にスライスしておいた。


「うん。とりあえずこのくらいで」


 内臓などはやっぱり寄生虫が怖いので、触らないでおく。

 その後はまた肉を切り刻む。

 太めの木の枝を切ってきて、それに引っ掛けるような形で小さな毛皮と肉塊を川へと流した。

 細切れになったそれらは、どんぶらこ、どんぶらこと流れていく。

 近くに転がっていた大きな頭も、虫にたかられないよう注意しつつ川に転げ落とした。

 ごめんね川の下流の人、いきなりのスプラッタ・イノシシ三昧で。


「で、この『刃』はどうしよう」


 私は拳を開いて、『刃』と『硬』の霊珠を見る。

 手を開いたおかげで二つの霊珠が少し離れた。

 と。


 パキッ。


「あれ……」


 途端に『刃』が砕けて、ミニサイズにしておいた刃も消えてしまった。

『硬』はまだ残っている。


「形容詞の霊珠にくっつけておけば、名詞の霊珠もすぐには消えない?」


 そういえば、いくら『刃』といえどあの切れ味は良すぎる気がする。

 仮に『硬』の効果が上乗せされていたとしたら、納得できるかも?


「私の能力なのに、まだまだ謎が多いなあ」


 試せば試すほど不思議が増えてしまう。


「まあいいか。とりあえず今日は焼肉パーティだ!」


 私は生肉部分を触らないよう気をつけながら、葉っぱに包んだお肉を持ち上げた。





 洞穴の我が家の前には、ここ何日かで集めた枯れ枝がたくさん積んである。

 火打ち石の着火は上手くいかなかったけど、そのうち霊珠で火を点けられないかと思って準備しておいたのだ。


「残り霊珠はあと二つだけ」


 先ほど思い切りよく三つも使ってしまったので、在庫は残り少ない。

 今日の夜用の『暖』が必要だが、寝る前までには新しい霊珠を追加できるはず。

 だからあと一つは使ってしまっても問題ない。


 数日前に雨が降って以来、晴れと曇りが続いている。

 枯れ枝はいい感じに乾燥が進んでいた。


 時間はちょうどお昼時。

 いい具合にお腹が減る頃合いである。


 葉っぱに包んだお肉は、ざっと七、八キログラムほどはある。一度に食べ切るには多すぎる量だ。


「とりあえず、食べられるだけ焼いちゃう!」


 そのためには火を準備しないといけない。

 私は霊珠を取り出して、『火』の文字を刻んだ。


(『火』は名詞になるのかな? よく分からない)


 たとえすぐに消えてしまっても良いように、『火』の霊珠を組んだ枯れ枝の中に放り込む。


 ボッ!


 すぐに赤い炎が生まれた。

 勢いよく燃え盛る炎は枯れ枝に燃え移って、ごうごうと音を立てた。


「おお?」


 枯れ枝が燃える中に『火』の文字が見えて、少ししたら消えた。

 文字は消えたが炎は残っている。

 どうやら霊珠としての火は消えても、他のものに燃え移れば残るようだ?


「よしよし、結果オーライ。焼くぞー!」


 私はいそいそと木の枝に肉を突き刺して、焚き火となった枯れ枝の火で炙った。

 肉の焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。思わず唾を飲み込んだ。


 かぶりつけば、肉汁がじゅわっとあふれてくる。

 塩を振ったわけじゃないので、味付けはされていない。

 それでも肉本来の味わいが口いっぱいに広がって、思わず笑顔になった。


(ああ、美味しい。あの子たちにも食べさせてあげたかったなあ……)


 思い浮かぶのは前世の娘と息子たちだ。

 シングルマザーでお給料も少なかったため、子供たちには苦労させてしまった。

 そして最後には私が事故死して、どれだけ悲しませたことか……。


 もしもイノシシのお肉をお腹いっぱい食べさせたら、あの子たちは何と言っただろうか。

 お母さんが狩ってきたのよ! と言っても信じないだろうな。

 どんなハンターだよ、ゲームじゃないんだから! と笑われるのがオチだ。

 可笑しくて、懐かしくて。肉を噛みちぎりながら、涙がじわりと滲んできた。


「美味しい。生きているって、実感できる」


 必ず生き抜かなければ。

 二度と半端な死に方はしたくない。

 前世の子供たちにはもう会えないけれど。

 新しく生まれ変わったこの命を、粗末にはしたくない。


「美味しい……」


 このイノシシも、きっと生きたかった。

 襲いかかってきたのは子供を守るためだ。

 だから無駄にはしない。


 パチパチと炎が爆ぜる音がする。

 私は涙をこぼしながら、美味しいお肉を食べ続けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ