幼少期12
無理やりベッドに押し込まれてから3日後、部屋に執事のジョシュアが迎えに来て
「皆様お揃いですので、どうぞサロンへお越しください」
とのことだった。
この3日何が何でも部屋はおろかベッドから出ることさえさせてもらえなかったのに、今日は朝からお風呂に入れられ、コルセットを絞めなくてもいいドレスに着替えさせられ、髪を整えられたのは、このためだったのか。
ジョシュアのあとに続いて廊下を歩きながら、折れた肋骨にそっと触れてみる。
まだ痛みはあるが、この3日大人しくしていたためか、かなり良くなった気がする。
ジョシュアがサロンの扉を開けると、冬の日差しがあたたかくサロンへ降り注いでいた。
庭に面して一面ガラス張りになっているサロンは、暖炉の火もあるが太陽の温かさも感じられるようだった。
いつもであれば、庭を見ながらお茶が出来るように、丸テーブルとちょっとした椅子が2脚おいてあるだけのサンルームだが、本日は庭の窓に対して直角になるよう細長いテーブルが1つ。そのテーブルの長辺に窓側からお父様、お母様、シェイン様、お兄様、の順で全員がこちらを向いて座っている。そして少し離れた位置にテーブルをはさんで対面するように3人掛けのソファーが1つ。そこにはすでに、ウィズレイが座っていた。
なんだろう、就職活動中の面接を思い出す。
4人もいたら圧迫面接じゃない??
「フェリア嬢、急に呼び出してすまない。怪我の具合はどう?」
面接官・・・ではなく、シェインが気づかわし気に声をかけながら、ウィズレイの隣に座るよう手で指し示してきた。
とりあえず立っているのも何なので、ソファーに座らせてもらう。
「お気遣い頂き感謝いたします。痛みもだいぶやわらぎましたので、大丈夫ですわ。」
令嬢の仮面をつけてそっと微笑むと、隣で笑いをこらえている奴が視界にはいったので、そっとヒールで足を踏みつけておいた。
向こうからは角度的にも、ドレスの裾の陰になってわかるまい。
「そんなに畏まらないで、普段通りにしてほしい。君のことはジェイクからも弟からもきいているからね。」
「・・・それは、ありがとうございます。では以後そのようにさせていただきます。」
兄や、ウィズレイが何を言ったか気になるが、普段通りでいいならそうしよう。
本人がいいっていうんだから、不敬罪にはならないし、そのほうが私も楽だし。
「殿下!遅れまして申し訳ございません!」
バタン!と大きな音を立てて、部屋に転がり込んできたのは黒い塊・・・
ではなく、黒い大きなカバンを持った中性的な青年。
「ハイネお兄様!??」
入ってきた人物にとても見覚えのあった私は思わず声を上げてしまった。
ハイネ・ラグドル。
トリハルト帝国3大公爵家の一つであり、帝国唯一の研究機関で最高責任者を代々歴任する由緒ある公爵家の次男だ。
長く伸ばした深い緑色の髪を顔の横で緩くひとつにまとめたハイネは、きれいな翡翠色の瞳を柔らかく細めて、口元をほころばせた。
「フェリちゃん、久しぶりですね。先ほど、お怪我をしたとメイドから聞いたのだけど、元気そうで安心しました。」
ふにゃりという表現がよく合うような笑顔にやさしい声。
あぁ、その笑顔眼福です!
10歳年上とは思えないくらいかわいらしい!
母性本能がくすぐられるタイプですね!!
分かります!!
と、ちょっと思考がぶっ飛びかけていたけど、なぜ彼がここに居るのだろう。
リドル領は、帝都の西~南に位置する国境沿いに対し、ハイネのラグドル領は帝都から北の国境沿いにあるため大変遠い。移動は馬車で1ヶ月~1カ月半はかかるはずなので、軽い気持ちで来れる距離ではない。
頭にクエスチョンマークを大量に浮かべた私の頭を、軽くポンポンと叩いてからハイネはシェインに膝をついてあいさつをした。
「約束の時間に遅れましたこと、誠申し訳ございません。」
「さして遅れてないので、気にするな。冬の季節、ラグドル領は雪深いのだ。そんな折に無理をいってきてもらっているのだから気にしないでくれ。」
窓際にあるソファーに座るよう指示したシェインが、改めてこちらに向き直った。
「さて、今日二人に来てもらったのは見てもらいたいものがあったからなんだが・・・ハイネ、来て早々で悪いが出せるか?」
「はい、すぐに!」
ハイネはもっていた黒い鞄の中から数枚の紙のようなものをシェインに渡した。
それを確認すると、シェインは一つうなずき
「2人とも、これがなんだかわかるか?」
と、その中の1枚の紙をこちらに向けて見せた。
「!!!??」
その紙に書かれていたのは、1つの絵。
それは、縦に長くて、真ん中で折りたためるようになっており、上半分は画面。下半分には12個の数字と記号が書かれたボタンと、そのほかいくつかのボタンがついていた。
そう、なつかしいパカパカの携帯電話だ。
「その顔、2人とも知っているようだな。」
シェインが確信をもって聞いてくるが、知っていると答えていいのだろうか。
これは異端を見つけ出すための、昔の踏み絵と同じことなのだろうか。
膝の上で軽く合わせていた手のひらがじっとりと汗でぬれて気持ち悪い。
どう答えるべきかと、頭の中でシミュレーションしていたら、左の肩にそっと何かが触れた。




