第五話:孤独な食事
父と母がいなくなったその日、
俺はこの世界で初めて“ひとりで”ご飯を食べた。
机の上には、昨日までと同じ皿。
同じスプーン。
同じ匂い。
なのに、全部が違って見えた。
スープを口に運ぶたび、胸の奥がじんと熱くなる。
(……懐かしい)
前の世界で、俺がまだ“人類で唯一の存在”だった頃。
誰もいない場所で、ひとりで食べた日々を思い出す。
ぽたり、と涙が落ちた。
コン、コン、と控えめなノックが響く。
扉を開けると――先生が立っていた。
「……話は聞いたわ。つらかったでしょう」
その優しい声だけで胸が揺れる。
「今日はひとりで食べるのはやめましょう。いっしょに食べましょう」
先生は温かいパンとスープを広げ、俺の向かいに座った。
パンの話、ゼンの話、ミリアの話。
他愛もない会話が、胸の痛みを少しだけ和らげてくれた。
やがて先生は、パンを見つめたまま表情を引き締めた。
「……ノア。少し大事な話があるの」
俺はスプーンを置き、先生を見る。
先生はゆっくりと話し始めた。
「ノア、この世界には“三つの大きな領域”があるわ。
西には人間の国。
東には魔物の国。
そして南には――誰も踏み入ったことのない“空白の地”。」
俺は静かに頷いた。
先生は続ける。
「そしてね、この村は西と東の“境界”にあるの。
人間の国と魔物の国の狭間。
だから両国は、互いに侵略されないように“強い者”をこの境界に置いてきたの」
胸の奥が、かすかに揺れた。
「この村には昔から“特別な役割”があるわ。
人間の国と魔物の国の狭間で、世界を支えていくという役割が」
先生は、ほんの少しだけ息を吸った。
「だからここの村にいる人たちは全員――
1000年前に現れた勇者の“血を継ぐ者”なの」
空気が静かに沈む。
「表向きは普通の村に見えるけれど……
この村は“勇者の血筋が静かに暮らす場所”。
だからこそ、境界を守る力があるの」
先生は指先を組む。
「でも最近ね……
この境界に現れる魔物が“弱いものばかり”なの」
「本来なら、境界に来る魔物は強いはずなの。
なのに弱い魔物ばかり……これは仮説だけど――」
先生は俺を見つめた。
「この村から“魔王”が現れるかもしれない」
パンをちぎる手が止まる。
「魔王……?」
先生は静かに頷いた。
「そしてね、ノア。
今年あなたが受けるスキル鑑定。
そこで“魔王”が現れる可能性が高いの」
空気が止まった。
先生は俺の目をまっすぐ見た。
「本来、勇者の末裔からは魔王は現れない。
だけどあなたの親だけは別よ。
あなたの父と母は勇者の末裔じゃない。
あなたの父と母は――人間ではないわ」




