第四話:世界の異変
ゴブリンが崩れ落ち、残骸から淡い光が漏れた。
光は一点に集まり、黒い魔法石となって地面に転がる。
俺はそれを拾い上げた。
石の表面に黒い線がゆっくり浮かび上がる。
古い文字。
この世界では誰も読めないはずの言語。
なのに――俺には読めた。
「……呪い、か」
胸の奥で、静かに確信する。
(そうだ……これは“俺が人類で初めて作った文字だ”)
人類がまだ俺しかいなかった頃。
世界を理解するために、俺は言葉を作った。
その最初期の文字が、今この魔法石に刻まれている。
そのとき、後ろから足音がした。
「ノア!」
ミリアとゼンが駆け寄ってくる。
先生もすぐ後ろにいた。
「三人とも無事ね……ほんとうによかった」
先生は倒れたゴブリンを見て、静かに言った。
「このゴブリンは私が倒したの。危ないと思って急いで来たのよ」
ミリアとゼンはほっと息をつく。
先生は俺たちを見回し、柔らかい声で言った。
「今日はもう戻りましょう。森の探索はまた今度ね」
俺は魔法石をポケットにしまい、三人と一緒に森を出た。
帰り道、先生がふと口を開く。
「さっきの爆発音……聞こえたわよね?」
ミリアが不安そうに言う。
「森の奥からでした……すごく大きくて」
ゼンも眉をひそめる。
「木が揺れるくらいだったぞ。あれ普通じゃねぇよな」
ミリアが俺を見る。
「ノアの方からだった気がして……何かあったの?」
ゼンも横目で俺を見る。
「見たなら言えよ。危ねぇだろ」
俺は前を向いたまま、落ち着いた声で短く返した。
「……何も」
それ以上は言わない。
自分でも気づいていたからだ。
この力は世界に莫大な影響を与えてしまうことを
――徐々に魔物が増えてきたのは、この出来事のあとだった。
最初は森の奥で魔物の影が増えた程度で、村の人たちも「最近多いな」くらいにしか思っていなかった。
だが、数日もしないうちに“異常”ははっきりと形になった。
森の外れに魔物が出没し、畑が荒らされるようになった。
踏み荒らされた作物、抜き取られた苗。収穫量は目に見えて減った。
家畜小屋の扉が壊され、飼っていた動物が襲われる事件も起きた。
夜になると森の方から低い唸り声が響き、住民は外出を控えるようになった。
学校でも影響が出た。
訓練場の近くに魔物が現れ、授業が急遽中断される。
帰宅途中の生徒が魔物と遭遇し、腕に怪我を負ったという報告もあった。
先生たちは警備を増やし、巡回を強化したが、魔物の出現は止まらなかった。
村の空気は徐々に張り詰めていき、
“森の奥で何かが起きている”
という噂が広がり始めた。
そんな中――
俺の父と母が消息を絶った。




