第三話:森林探索
一年が過ぎた。俺たちは六歳になった。
十歳で行われる“スキル鑑定”に向けて、今年から少しずつ基礎訓練が始まるらしい。
その第一歩として、今日は“森林探索の試し運用”の日だった。
「今日は安全な範囲だけを歩きます。魔物は出ないはずだから、三人一組で自由に探索してみてね。私は後ろから見守っているから」
先生の言葉でグループが決まり、俺・ミリア・ゼンの三人で森へ入った。
「……なんか静かだね」
ミリアが小声で言う。
「森ってこんなもんだろ」
ゼンは肩をすくめるが、時々ミリアを気にして振り返っていた。
三人で歩いているのに、どこかぎこちない空気があった。
しばらく進んでいると、ミリアが不安そうに振り返った。
「先生、どこ行ったんだろ……?」
「さっきまでいたよな?」
ゼンが眉をひそめる。
俺も後ろを見るが、先生の姿はどこにもなかった。
「見失った……?」
「戻ろう」
そう言った瞬間――
ぬるり、と湿った音がした。
青い塊――スライムが木の陰から飛び出してきた。
「来る!」
ゼンが叫ぶ。
ゼンが一歩踏み込んだ瞬間、空気が変わった。
ドッ!
地面を蹴る音がほとんどしない。
ゼンの体が“滑るように”前へ出る。
「はっ!」
ぱしん!
拳がスライムの表面を叩きつけ、柔らかい体が波打つ。
スライムが跳ね上がる。
ゼンは迷いなく追い打ちをかけた。
ズンッ!
拳が中心へ突き刺さり、核が揺れる。
「ゼン、核が出てきてる!」
ミリアの声が響く。
ミリアの手元に小さな魔法陣が浮かんだ。
「いくよ……《ウォーターカッター》!」
水の刃が一直線に走り、
スライムの核を正確に切り裂いた。
「やった……!」
ミリアが息をつく。
スライムは力を失い、地面にぱしゃんと崩れ落ちた。
(……俺、ほんとに何もできなかった)
ゼンは拳を軽く振って息を整える。
ミリアは胸に手を当ててほっと息をつく。
「ゼン、すごかった……!」
「ミリアの魔法がなかったら倒せなかったよ」
二人の息はぴたりと合っていた。
「先生探そっか」
ミリアが言ったその時――
森の奥から低い唸り声がした。
ガルルル……
「え……?」
ミリアが息を呑む。
小柄な緑の影が三体、姿を現した。ゴブリン。
スライム三体分の強さを持つ魔物が三体。
「ノアは後ろ! ゼンは右、私は左!」
ミリアが即座に指示を出す。
「わかった!」
ゼンが構える。
残った一体が俺へ向かってきた。
棍棒が振り下ろされる。
空気が裂けるほどの速さだった。
「っ……!」
必死に避けるが、速い。重い。怖い。
腕にかすった衝撃で体が大きく揺れる。
「ノア!」
ミリアの声が遠く聞こえる。
ゴブリンがさらに踏み込む。
棍棒が頭上へ振り上げられ――落ちる。
(もう避けられない)
追い詰められた瞬間、反射的に手を前へ出した。
バチッ!!
「えっ……?」
自分でも驚くほど強い音がした。
手のひらが熱くなり、
魔法陣が“勝手に”浮かぶ。
線が暴れ、光が弾ける。
次の瞬間――
ドガァァンッ!!!!
爆風が地面を叩きつけた。
「なっ……!」
ゼンが目を見開く。
ゴブリンの体が“跳ねる”のではなく、
弾丸みたいに吹き飛んだ。
木に激突し、幹が大きくえぐれ、葉が雨のように降り注ぐ。
砂埃が舞い、空気が震えた。
ゴブリンは木の根元で痙攣し、そのまま崩れ落ちた。
自分の魔法が暴発しただけだと分かる。
体はもう動かない。
周囲を見ると、ゼンとミリアが押されている。
二人はもう限界だ。
「ゼン! ミリア!」
声を出そうとしても、喉が震えるだけだった。
その時――森の奥から、ひゅ、と細い魔力の線が飛んできた。
スッ。
ゼンの前のゴブリンの胸を貫き、倒す。
スッ。
ミリアの相手も額を撃ち抜かれ、崩れ落ちた。
「え……?」
ミリアが呆然とする。
派手さはない。
ただ、異常に正確で強い魔法。
ゼンが息を呑む。
「……今の、誰の魔法?」




