表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1000年ぶりの勇者と魔王 〜魔法が使えなかった少年は"世界初のスキル"で覚醒する〜  作者: 土田土


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/33

第三十話:俺が目指すのは……

階段を上りきった瞬間、空気が変わった。


重い。

熱い。

冷たい。

ざらつく。

澄む。

濁る。


――すべての魔物の気配が混ざった空気だった。


巨大な扉がゆっくりと開く。

ギィ……と低い音が響き、視界が一気に広がる。


そこは、魔物たちの国を動かす“評議の間”だった。


天井は異様なほど高く、まるで空そのものを閉じ込めたようだった。

中央には黒曜石の円形の床があり、魔力を吸い込み、反射し、揺らめいている。


その周囲には、各種族の代表が座る席が並んでいた。


魔族は黒い石柱に囲まれ、冷たい魔力が漂う。

獣魔族は牙や骨で装飾され、荒々しい気配がむき出しだ。

影魔族は黒い霧に包まれ、姿が判別できない。

スライム族は水槽のような席で、魔力の波紋が広がる。

ゴブリン族は簡素な席だが、武器だけはやたらと多い。


それぞれの席が“種族そのもの”を象徴していた。


ノアが一歩踏み入れた瞬間、評議の間がざわついた。


「……子供?」

「こんなのが魔王になれんのか?」

「弱そうだぞ。」

「人間じゃないか。」

「魔王には見えん。」


熱い視線。

冷たい視線。

値踏みする視線。

殺意を含む視線。

期待の視線。


胸がひりつく。

喉が乾く。

足が重くなる。


それでも――止まらない。


クリムゾンの声が響く。


「こいつがノア、魔王になる男だ。」


ざわつきが一瞬で消え、空気が張り詰めた。


クリムゾンはノアの横に立ち、ノアに向かい静かに言う。


「ここが魔物の国の中心だ。

 ここにいる魔物に認められてこそ――魔王だ。

 お前の覚悟を聞かせてみろ。」


ノアは黒曜石の床の中央へ進み、息を吸った。


評議の間は完全に静まり返る。


ノアは口を開いた。


「……俺は魔王だ。それと同時に

 ――勇者でもある。」


空気が弾けた。


「勇者……?」

「人間の……?」

「魔王で勇者……?」

「そんなことが……!」


困惑、恐れ、疑い、怒り。

すべての感情が渦を巻く。


ノアはそのざわめきの中で続けた。


「俺は人間として生まれ、人間として育てられた。

 でも……魔物の苦しみを知って、ここに立っている。」


ざわめきが少し弱まる。


ノアは言葉を重ねた。


「……俺は知らなかった。

 ある日を境に、自我を失い、人間を襲ってしまう魔物がいることを。」


魔族が息を呑む。

獣魔族が低く唸る。

影魔族の霧が揺れる。


「そして……君たちは近くで見てきたんだろうその姿を。

 昨晩一緒に過ごした友人、愛するもの、子どもや親、家族など

 身近な仲間が突然変わり果てて、暴れ出すところを。」


沈黙が落ちる。


「そして君たち自身も

 “いつ自我を失うのか”

 ずっと恐れてきたんじゃないか。」


誰も否定しない。


全員俯き、過去と自分を見つめ直す。


ノアは拳を握りしめた。


「俺はその原因を突き止めて終わらせてみせる。

 そのためにはまず……みんなの助けが必要だ。」


胸の奥の熱を押し出すように言った。


「魔物が人間を襲うことがなるなり、互いの蟠りがなくなる。そんな世界を目指すために――俺は魔王になる。」


沈黙が落ちる。


その沈黙の中で――魔物たちの気持ちが溢れ出る。


そして誰かが呟いた。


「……自我を失う恐怖を……分かっているのか。」


別の席から声が続く。


「仲間が突然変わるのを……何度も見てきた。」

「自分もいつそうなるのか……ずっと怖かった。」

「それを……勇者が言うのか……?」


ざわめきは敵意ではなかった。

恐れと、期待と、戸惑いが混ざった――“揺れ”だった。


評議の間の空気がゆっくりと変わっていく。


敵意ではなく、

服従でもなく、

ただ――“耳を傾ける空気”。


ノアの言葉は、確かに魔物たちに届いていた。


クリムゾンがわずかに笑う。

ネクロマンサーは静かに目を細める。

ラザンは誇らしげに頷く。


評議の間の重い空気が、ゆっくりとほどけていく。


ノアは静かに息を吐いた。


評議の間に立つ“魔王ノア”の姿が、

確かにそこにあった。


ノアの言葉が評議の間に静かに落ちていく。

魔物たちの視線がノアへ集まり、空気がわずかに揺れた。


その瞬間だった。


――ドォンッ!!


魔都市全体が揺れた。

黒曜石の床が震え、天井の魔力が波打つ。


「外からの衝撃……?!」


扉が勢いよく開き、魔物の兵士が駆け込んできた。

肩で息をし、顔は蒼白で、声が震えている。


「敵襲!! 魔都市目前まで騎士団が迫っています!!」


評議の間が一気にざわめく。


「騎士団……?」

「国王直属の……?」

「どうして魔都市まで……!」


兵士は叫んだ。


「敵兵の数……"三万"です!!

 魔都市の外周に陣を敷き、進軍を開始しています!!」


空気が凍りつく。


「三万……魔都市に……?」

「王が本気で動いたということか……!」


兵士は続けた。


「騎士団は叫んでいます!!

 “勇者ノアを奪還する! 魔物に渡したままにはしない!”と!!」


評議の間がさらにざわつく。


「ノアを奪還しに来たのか……!」

「国が動いた……!」


魔物たちの視線が一斉にノアへ向く。


ノアはゆっくりと歩き、評議の間の窓から外を見た。


魔都市の外では――

三万の騎士が槍を構え、盾を掲げ、

国王直属の騎士団が整然と並び、

その最前列で女騎士が剣を掲げていた。


白銀の鎧。

揺れる栗色の髪。

まっすぐ魔都市を指す剣。


その姿を見た瞬間――

ノアの胸の奥が、焼けるように熱くなった。


息が止まる。

心臓が跳ねる。

視界が一瞬だけ狭くなる。


(……なんで……)


喉がひりつく。

足がすくむ。

胸の奥がざわざわと騒ぎ出す。


(あの髪の色……)

(あの目……)

(あの立ち方……)


記憶が勝手に重なる。


――幼い頃、いじめられた俺の手を引いてくれた。

――「やめなよ」と真っ直ぐ言ってくれた。

――測定器が壊れた時、真っ先に心配してくれた。

――誰よりも優しくて、誰よりも強かった少女。


胸の奥が痛いほど揺れる。


(……そんなはず……ないのに……)


でも、目が離せない。

視線が勝手に吸い寄せられる。

心が勝手に答えを出そうとする。


ノアは唇を震わせた。


「――ミリア」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ