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1000年ぶりの勇者と魔王 〜魔法が使えなかった少年は"世界初のスキル"で覚醒する〜  作者: 土田土


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第二十九話:紅蓮帝クリムゾン

炎が揺れた。

空気が震えた。

紅蓮帝クリムゾンが、ノアの前に立つ。


その存在だけで、世界が赤く染まる。


ラザンが横で言う。


「ノア。気を抜くな。

 クリムゾンは“試す”と言ったら、本気で殺しにくる。」


ノアは喉を鳴らした。

足が震えている。

だが――止まらない。


クリムゾンがゆっくりと手を上げる。

指先に、赤い炎が灯る。


「魔王になる器かどうか……

 その魂で示せ。」


炎が弾けた。


次の瞬間――

床が爆ぜた。


ノアは反射的に跳ぶ。

熱風が背中を焼く。

視界が赤く染まる。


「速い……!」


ラザンが叫ぶ。


「ノア、右だ!」


ノアは振り向く。

そこに――クリムゾンがいた。


炎を纏った拳が迫る。


ノアは腕で受けた。

衝撃が骨を軋ませる。

熱が皮膚を焼く。


「ぐっ……!」


吹き飛ばされ、床を転がる。

息が詰まる。

視界が揺れる。


クリムゾンは歩く。

ゆっくりと。

獲物を追う獣のように。


「弱い。」


その一言が、胸に刺さる。


ノアは歯を食いしばる。

立ち上がる。

足は震えている。

それでも――前に出る。


「……俺は……

 争いをなくしたいんだ!」


クリムゾンの瞳がわずかに揺れた。


「争いをなくす、か。」


炎が強くなる。

部屋全体が赤く染まる。


「ならば――見せてみろ。」


クリムゾンが拳を構える。

炎が渦を巻く。

床が赤熱する。


ラザンが叫ぶ。


「ノア!避けるな!受けろ!

 “覚悟”を見せろ!」


ノアは拳を握る。

胸の奥が熱くなる。

恐怖が燃える。

痛みが燃える。


ゼンの笑い声。

ミリアの泣きそうな顔。

アリアの手の温度。

リオラの背中。

父と母の声。


全部が胸に集まる。


ノアは叫んだ。


「俺は――全部失ってもいい!

 それでも……それでも俺は!!」


クリムゾンの拳が、炎を纏って迫る。


ノアは逃げなかった。

ただ、前に出た。


炎が視界を覆う。

熱が肌を焼く。

痛みが全身を走る。


それでも――ノアは拳を振るった。


「うおおおおおお!!」


二つの拳がぶつかる。

炎が爆ぜる。

衝撃が部屋を揺らす。


赤い光が弾け、

熱風が吹き荒れ、

床が割れた。


ラザンが目を見開く。


「ノア……!」


炎が消える。

煙が揺れる。


その中心で――

ノアは立っていた。


拳を前に出したまま。

膝は震え、息は荒い。

だが、倒れていない。


クリムゾンはノアを見つめた。

その瞳に、わずかな驚きが宿る。


「……受けたか。

 子供の身で、俺の拳を。」


炎の痛みで顔が引き攣る。


クリムゾンは沈黙した。

炎がゆっくりと弱まる。


そして――


「……気に入った。」


その声は、炎よりも熱かった。


「ノア。

 お前が魔王になるなら――

 俺はその“力”を貸そう。」


ラザンが息を呑む。


ノアは目を見開いた。


クリムゾンは続ける。


「覚悟を持つ者は強い。

 自分の信念のために立つ者は……

 炎よりも強い。」


炎の帝王が、ノアの前に立った。


「魔王になる覚悟。

 その炎、俺が鍛えてやる。」


ノアは拳を握った。

胸の奥が熱くなる。

痛みも、恐怖も、全部が燃える。


「……お願いします。」


クリムゾンはわずかに笑った。


「よく言った。

 魔王ノア。」


炎が揺れた。


クリムゾンの炎が静まり、

部屋の赤い光がゆっくりと弱まっていく。


ノアは荒い息を整えながら立っていた。

拳はまだ震えている。

だが、その瞳は揺らいでいなかった。


クリムゾンはノアを見つめ、

炎の帝王らしからぬ静かな声で言った。


「……覚悟を見せたな。

 ならば次は――“統率”だ。」


ノアは息を呑む。


ラザンが横で言う。


「ノア。

 魔王になるというのは、強いだけじゃ務まらない。

 魔物たちをまとめ、争いを止め、国を動かす。

 それが魔王だ。」


クリムゾンは玉座の前で腕を組む。


「魔物の国は強者が支配する。

 だが、強者が“まとめる”とは限らない。

 力だけでは国は動かん。」


炎がゆらりと揺れた。


「魔王として――魔物たちの前に立て。」


ノアは目を見開く。


「……魔物たちの、前に……?」


ラザンが頷く。


「魔王城の上層には、各種族の代表が集まる“評議の間”がある。

 魔族、獣魔族、ゴブリン、スライム、影魔族……

 この国を動かす者たちだ。」


クリムゾンが続ける。


「そこに立ち見せつけるんだ。

 俺こそが魔王だと。」


ノアの胸が熱くなる。

戦いとは違う種類の熱だ。


「……俺が、魔物たちの前で……?」


「そうだ。」

クリムゾンの声は揺らがない。


「魔王は国の象徴だ。

 力を示し、覚悟を示し、そして――言葉で国を動かす。」


ラザンがノアの肩に手を置く。


「ノア。

 お前が魔王になると言った以上、

 もう“個人の戦い”じゃない。

 国を背負う戦いだ。」


ノアは拳を握る。

胸の奥がじんと熱くなる。


「……行きます。」


クリムゾンが俺の目をまっすぐ見る。


「よく言った。

 評議の間へ向かうぞ。」


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