番外編:鬼ごっこ
村の外れにある小さな丘は、三人のお気に入りの場所だった。
草がふかふかで、風が気持ちよくて、空が広い。
学校が終わると、自然とここに集まるようになっていた。
「ノアー!早くー!」
ミリアが手を振りながら駆けていく。栗色の髪がふわっと揺れる。
「ミリア、走るの速すぎ。ノアが追いつけねぇだろ」
ゼンが後ろで呆れたように言う。
「だって早く遊びたいんだもん!」
ミリアは笑って、丘のてっぺんまで一気に駆け上がった。
ノアは少し息を弾ませながら二人の後を追う。
三人で並ぶと、なんだかそれだけで嬉しくなる。
「今日はね、鬼ごっこしよ!」
ミリアが元気よく言う。
「また鬼ごっこかよ」
ゼンが文句を言いながらも、どこか楽しそうだった。
「ゼンが一番速いから鬼ね!」
「なんで俺なんだよ」
「公平だよ!」
「公平の意味分かってんのか……?」
ゼンが文句を言っている間に、ミリアとノアはもう走り出していた。
「おい待てって!」
ゼンが慌てて追いかける。
ノアは必死に逃げる。
ミリアは木の陰に隠れたり、草の中にしゃがんだりして笑っている。
ゼンは「そこだ!」と叫びながら二人を追いかけるが、なかなか捕まらない。
「ノアくん、こっち!」
ミリアが手招きする。
ノアがそっちへ走ると、ゼンがすぐ後ろに来る。
「逃がすか!」
「うわっ、来た!」
「ミリア、助けて!」
「えへへ、がんばれー!」
三人の声が丘に響く。
ただ走って、笑って、転んで、また笑って。
それだけの時間が、すごく幸せだった。
鬼ごっこが終わると、三人は草の上に倒れ込んだ。
空は青くて、風が気持ちよくて、草の匂いがふわっとする。
「こういう時間って好き」
ミリアが空を見ながら言う。
「まあ……悪くねぇな」
ゼンが横で言う。
ノアは二人を見て、胸の奥がじんわり温かくなる。
前の人生でも、こういう時間が好きだった。
人間が笑って、遊んで、ただ幸せでいる時間。
そのために色んなものを作った。
今も同じ気持ちだった。
ミリアが言う。
「また遊ぼうね。明日も、明後日も、ずっと」
ゼンも照れくさそうに言う。
「……まあ、暇なら遊んでやるよ」
ノアは笑った。
「うん。三人で、また遊ぼう」
風が吹き、草が揺れ、三人の笑い声が丘に広がった。
その時間はただの“日常”だった。
でもノアにとっては、前世の記憶と重なる――大切な、大切な幸せだった。




